
幼い姉妹を殺した青年の家族、つまり加害者側を保護する刑事の物語だが、加害者側に焦点を当てた物語という意味でも自分にとっては新しい視点であったし、また一方で被害者側からの立場なども混ぜながら、実に巧妙でリアリティー溢れるストーリーが展開される。
主演の刑事、勝浦役には佐藤浩市。大人の渋みと味わい深い演技に益々磨きがかかっている、今回は妻に離婚されそうな、家庭崩壊寸前の刑事を熱演しているが、そんな勝浦の中学生になる娘が、家族旅行を企画することでこの家庭崩壊危機を何とか乗り越えようとしている。このような状況の中で、偶然にも自分の娘と同い年くらいの加害者の妹、沙織(志田未来)を保護することになるが、沙織、及びこの事件を通して、勝浦も自分の家族に対する気持ちに大きく影響を及ぼすこととなる。
加害者の妹、沙織役には実力派として注目の若手女優、志田未来。ドラマ「女王の教室」や「14才の母」などで見事な演技を披露し、正に今絶好調な彼女。やはり演技も実にうまい。今回も難しい役どころを見事に演じている。余談だが、佐藤浩市と志田未来は、2006年の秋クールに放映されたフジテレビの月9ドラマ「サプリ」(亀梨和也、伊東美咲主演)に出演しており、ここでは親子役を演じているので、思わずその時の姿を今回ダブらせてしまった。

この他、松田優作の長男である松田龍平、柳葉敏郎、石田ゆり子、佐野史郎、木村佳乃、佐々木蔵之介など多彩な演技派俳優陣が脇を固めており、物語全体に深みをもたらしている。特に健B者な佐々木蔵之介は興味深い役どころであった筈だが、残念ながら今回の映画ではフルに活かしきれていなかった。しかし、「踊る大捜査線」同様、何かspin off/番外編などがあったとしたら、強力なキャラクターとなることは間違い無い。
そう思わせるのも、本作品の監督は、あの「踊る大捜査線」など数々のヒットドラマの脚本で知られる君塚良一。今回は脚本のみならず自らメガホンを取っているが、全編ハンディーカメラでの撮影と、オールロケによる撮影により、見事なリアリティーと臨場感のある演出を行っている。

物語は、ある青年が犯した殺人事件により、その加害者家族を世間やマスコミの厳しい悲劇、非難、中傷、嫌がらせなどが次々と執拗に襲い鰍ゥるところから幕が開ける。オタク系からのネットへの書き込みやストーカーのように加害者家族を追いかけるさまなど、病める現代社会/ネット社会の浮ウも映し出した演出は考えさせられる点も多く、思わず浮ュなる思いであった。そして通常は被害者側の視点を持つことが多く、加害者家族は言わば実際の殺人を犯した本人と同罪として見られ、クローズアップされることは少ない。確かに、自分の家族、しかも未成年などは親としての監督責任もあるわけで、家族の犯した罪は残った人たちで一生償っていかなければならないということも充分理解出来る。また、当然被害者家族からすれば、加害者家族全員に対して深い憎しみを持ち、それは決して消えることが無いという感情も当然である。しかし今回の映画を通して、まず警察/刑事が加害者家族を保護する役回りがあるという事実を知り、また加害者家族は、家族が犯した罪を一生背負っていかなければならないが、同時に事件後は過酷な社会の現実が待っており、被害者的な側面も確かにあるということを意識させられた映画であった。これにやや近い思いを持った映画として、東野圭吾原作の映画「手紙」や、最近のフジテレビ月9ドラマ「イノセントラブ」なども同様に加害者側の家族に対して続いていく過酷な現実に焦点が当たっている作品であった。
尚、この映画の事件の3ヶ月前に起こった別事件を取り上げた姉妹編的なテレビドラマ「誰も守れない」も前日テレビ放映され、同じ登場人物ながら、こちらは事件の被害者側に焦点を当てた作品として楽しめる仕鰍ッになっている。「赤い糸」といい、「20世紀少年」も第二章の公開前に第一章の特別編をテレビ放映するなど、最近映画とドラマのクロスメディア連動作品が大きなマーケティングトレンドになっているが、この作品もそのトレンドに乗った作品であり、フジテレビのうまさである。