海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

震洋と島尾敏雄

2010-08-11 17:18:43 | 沖縄戦/アジア・太平洋戦争
 NHK総合テレビで連日アジア・太平洋戦争関連の番組が放映されている。ヒロシマ・ナガサキの被爆者の証言や「市民たちの戦争」「兵士たちの戦争」などの証言記録を連日見ているのだが、10日午前2時から海軍の海上特攻艇・震洋の部隊員たちの証言が放映されていた。
 フィリピンや沖縄で実戦に使用された震洋は、ベニヤ板で作られた小型モーターボートで、250キロの爆薬を搭載して敵艦船に体当たりする特攻兵器だった。外洋の荒波を航行するには小型の船艇は不安定であり、エンジンが過熱すると近くに搭載された爆薬が爆発する事故も引き起こしたという。飛行機乗りにあこがれて予科練に入った若者たちが、ベニヤ板製の粗末な特攻艇に乗り込み、無謀な体当たり攻撃を命じられて死んでいったのだ。

 震洋のことを初めて知ったのは、大学に入って読んだ島尾敏雄の『出孤島記』『出発は遂に訪れず』などの作品を通してだった。以前、かごしま近代文学館に行ったとき、島尾敏雄コーナーに縮小された震洋の模型が展示されているのを見た。その後、奄美群島の加計呂麻島にある島尾敏雄文学碑を訪ねる機会があり、呑之浦の海岸沿いに掘られた震洋の秘匿壕や実物大の模型も見学した。
 最近は書店で島尾敏雄の本を手に入れることも難しくなった。いま、『出孤島記』や『出発は遂に訪れず』はどれだけ読まれているだろうか。特攻という作戦と呼ぶにも値しない必死の命令を受けた若者たちが体験した極限状況。それを想像するのは困難なことだが、生き延びた人たちの証言を聴き、残された記録や文学作品を読み、その時何があったのかを知る努力を続けなければと思う。
 

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