あすきなまこブログ

七宝焼を焼いています。

白くしずかなカフェ

2008-09-23 15:41:06 | 小説・随筆
ぼくたちはまだ、これからどこにだっていけるし、
どこにもいかなくてもいいんだよ。


エスケープ中のカフェの二階の窓には、うすい布がカーテンがわりにかけられていた。小さな花模様がちりばめられている。頼んだオレンジジュースはみかんの粒入りで、ストローで軽く混ぜると、氷が奇妙な音を立てた。縦にすじの入ったコップのせいだ。ミントの葉が沈んだ。

本棚から取り出した小説の中には、癌の弟と、無機質を愛する姉と、からだつきの美しい、孤児院で育った医師(弟の主治医)と、が登場した。姉と弟の母は、精神を病んでいたせいで、銀行強盗の前にすたすたと歩いていって、理路整然としゃべり続けて(躁のときだったんだろう)強盗を説得しようとして、猟銃で撃たれて死んだ。弟の身体が受けつけられる食べ物がどんどん減っていくけれど、ぶどうだけは不思議と食べられた。そのぶどうの銘柄が、わたしもいちばん好きなコールマンだったことがうれしかった。1989年に書かれた小説だから、まだピオーネ全盛ではなかったのかな。
姉は結婚していて、夫は実験の仕事で忙しく、午前三時にだけ会える。
雪の日に螺旋階段を昇り、だれもいない病室の清潔なベッドの白いシーツの上で、姉は医師の胸に抱かれる。「どうして?」と聞かない医師。「ぼくにできることですから。」と言う。姉の瞳に映る彼のからだつきの描写は、はじめからエロかったが、ここのシーンではセックスを匂わせない。
やがて弟は死に、医師は孤児院を継ぐために病院を辞める。

…あっ、全部あらすじ書いちゃった…。タイトルと著者名はないしょにしておきます。ごぞんじの方は、あ、アレね、って思ってくださいね。


「ぼくたちはまだ、これからどこにだっていけるし、
どこにもいかなくてもいいんだよ。」

…っていうのは、オレンジジュースを飲み切って、そのカフェを出たあとの、あたしの気分でした。…わたしは、ここが割と好きみたいです。メニューは少ないけれど、休日の昼間に、ここでお茶を飲むと、大体において気分がよくなるのです。ここで見つけて読む本も、好きになることが多いです。涼しくて、しずかで、白いカフェです。まだ、ひとりで来たことしかないのです。
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