読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

「オウム帝国の正体」(一橋文哉著/新潮文庫刊)

2006-12-12 07:54:45 | 本;ノンフィクション一般
第一部 二千年帝国の全貌
 第一章 秘密、第二章 復活 第三章 渡航
第二部 国松長官を襲った男
 第一章 迷走、第二章 野望、第三章 取引
第三部 村井刺殺事件の「闇」
 第一章 暗殺、第二章 利権
第四部 坂本弁護士一家殺害事件の真相
 第一章 原点、第二章 偽証、第三章 核心、第四章 肉薄

一橋文哉氏の著作はこれまで、グリコ・森永事件を扱った「闇に消えた怪人」、「三億円事件」、「『赤報隊』の正体」を読んできた。いずれも、迷宮入りした事件の実行犯、黒幕までに辿り着く彼の取材力と情熱には頭が下がる。特に「三億円事件」では、ビートたけしが主演を演じたドラマにもなった。

著者が挑むのは闇社会。政治家、暴力団、そして北朝鮮。本作では、オウム真理教を取り巻くその社会構成員が総出演する。加えて、旧ソ連の武器商人。更に暴走した麻原彰晃にはこれまで明かされなかった顧問団がいたということに驚いた。彼らのシナリオを先頭に立って実行した早川紀代秀、教団内部を掌握しつつあった故村井秀夫は使者に過ぎない。

オウム帝国の恐ろしさは優秀とされた若者たちが入信し、マインドコントロール下で犯罪者に変わるそのプロセスにある。しかも、それは警察、自衛隊といった国家組織にも及んだということだろう。この金の成る木である集団に暴力団が食い込むことは自然であった。そして、シロアリが人知れず家屋を蝕むように、オウムも廃屋となっていった。

坂本弁護士一家殺害の実行犯は、教団関係者だけなのか、暴力団が送ったプロが加わっていたのか本作では結論を出してはいないが、行間からは後者であったことがうかがい知れる。それにしても、事件関係者が公判で語る殺害、遺棄の状況はそれだけで背筋が寒くなる。オウムの闇は同時に日本の闇でもある。利権に群がる個人、集団は暴力団だけではない。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿