読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

ナレッジ・マネジメントの提唱者が問う箴言、「組織は人なり」(野中郁次郎監修/2009年)

2010-03-08 04:53:31 | 本;ビジネス
<目次>(東京電力技術開発研究所ヒューマンファクターグループ編)
第1章 意欲を育てる(成田康修・磯村和人)
・すすんで仕事をおこなう、意欲を探す、同調から距離を取る、長いあいだ楽しむ
・ケース;東京電力㈱
・ブックガイド;「愛するということ」(エーリッヒ・フロム)、「強く生きる言葉」(岡本太郎)
・学説;坂下昭宣

第2章 共通感覚をつくる(磯村和人・吉田久)
・メンバーに受け入れられる、ビジョンを示す、組織の成立を理解する、人間関係のネットワークを活用する、信頼を確立する
・ケース;SASインスティチュート
・ブックガイド;「人を動かす」(デール・カーネギー)、「隠れた人材価値」(チャールズ・オライリー、ジェフリー・フェファー)
・学説;チェスター・バーナード、メアリー・パーカー・フォレット

第3章 思いを伝える(磯村和人・吉田久)
・双方向のコミュニケーションを展開する、説得力を高める、異なる立場から考える、ストーリーを展開する、空間と時間を工夫する
・ケース;JFEスチール
・ブックガイド;「プロカウンセラーの聞く技術」(東山絋久)、「静かなリーダーシップ」(ジョセフ・L・バタラッコ)
・学説;グレゴリー・ベイトソン、柄谷行人

第4章 知識と文化を創造する(咲川孝、成田康修)
・人々に知識を伝える、職場のあいだで知識をつなげる、知識を知肉化する、理念によって組織を動かす、多様性を受け入れる
・ケース;ホンダ
・ブックガイド;「シンボリック・マネジャー」(テレンス・ディール、アラン・ケネディー)、「失敗の本質」(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎)
・学説;ジェフリー・フェファー、ウィリアム・オーウチ

第5章 組織の未来をつくる(平田透・野中郁次郎)
・人と組織の本質を考える、人の創造性を発揮させる、リーダーの能力を示す、リーダーシップを組み込む、発想の飛躍を導く、実践を志向する
・ケース;エーザイ㈱
・ブックガイド;「MBAが会社を滅ぼす」(ヘンリー・ミンツバーグ)、「経営に終わりはない」(藤沢武夫)
・学説;ピーター・ドラッカー、野中郁次郎


2007年7月16日、新潟県中越地方を襲った、いわゆる新潟県中越沖(ちゅうえつおき)地震によって、震源地から23kmの距離にあり、世界最大の原子力発電所であった東京電力柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原子力発電所は7機ある原子炉のうち2、3、4、7号機が自動停止したものの、3号機建屋外部にある所内変圧器から火災が発生。

この火災において「消化の遅れ、地元への連絡、マスコミ対応の不備などの問題を生じ」させ東京電力が、「設備自体に工学的な問題はなかったが、組織としての危機管理のあり方、つまり組織上の対応がいくぶん後手にまわった」ことを課題として発足させたのが、本書を編集した東京電力技術開発研究所ヒューマンファクターグループのプロジェクト。

本書を手に取った際、なぜ東京電力がこのような経営学の本をものしたのかとちょっと不思議に思ったんですが、本書の最後に書かれた前述の「本書の経緯」を読んで、ナルホドと合点がいきました。そして、このグループが共同研究のパートナーとして白羽の矢を立てたのが、経営学者の野中郁次郎さん。

<柏崎刈羽原子力発電所 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%8F%E5%B4%8E%E5%88%88%E7%BE%BD%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80

さて、本題。野中さんは「結びにかえて」で、次のような問題意識を述べています。

~いったい何が経済の行き詰まりを生じさせた原因であり、これまでの企業経営は、どこに問題があったのだろうか。その一つの答えは、経済学をベースにした市場原理主義による経営の視点にある。経済学が求める完全競争市場では、市場参入しているどの企業でも利益をあげることはできないため、有利な市場ポジションを得ようと、参入障壁を高める、模倣困難な独自の資源を獲得する、といった方法により、不完全競争を創出すようとする。

しかし、その考え方では、企業は利潤獲得にとどまり、社会的な価値形成や企業の存在意義にまでは踏み込まないというところに、大きな限界がある。これまで主流を占めてきた、市場原理を優先し利益獲得を重視企業戦略では、イノベーションや公共善(common good)の促進にはつながらないのである。~

この問題意識に対して、イノベーションや公共善(common good)の促進を可能ならしめる組織のかたちとして、野中さん始めとするプロジェクトが取り組んだテーマについて「はじめて」で次のように述べます。

~「組織は人なり」という言葉には、深い意味がある。これまで多くの人々が、この考え方を胸に抱き、組織に期待しつつ働いてきたはずである。この考え方の根底に流れているのは、人を愛し思いやるという人間的な心の存在である。人々が他人と支えあう関係がなければ、組織や社会は成り立たない。

そこには、無味乾燥な契約や科学的な法則性では説明できない側面が含まれている。「人が人を思いやる」このイメージが、「組織は人なり」という言葉のもつイメージに結実しているといえる。このような人に立脚した、人間主義的な経営のあり方を論じること、それが本書のメインテーマである。~

一方で、野中さんは、日本での交流体験や企業の現場視察などから、日本が経済大国となりえる潜在力を備えていることを見抜き、それに関する論文も書いていたドラッカーの次の見解を紹介しています。

~彼は、日本に対し多大な期待を寄せていたようで、「ポスト資本主義社会」の邦訳出版にあたって掲載された「日本版への序文」では、「本書は、おそらく他のいかなる国、いかなる読者よりも、日本と日本人にとって特別の意味を持つ」と述べられている。また、知識社会への移行については「いろいろな面で日本は、本書が論じている中心的な変化のひとつである知識社会への移行に関して、最もよく準備されている」と評価している。


バブル崩壊後の「失われた10年」を経て、今、「環境に優しい」企業が雨後の筍のように増殖していますが、「労働環境に優しい」企業の芽は一向に出ていないように思われます。しかしながら、アメリカ流の金融市場主義の失敗からアメリカは再び、かつて注目された「日本的経営」に組織のかたちのありようを学んでいるようです。

そういうムーブメントの中で、暗黙知と形式知、ナレッジ・マネジメントを一気に経営学の世界で広めた野中さん率いる研究グループが、人間主義的な経営を提唱するのが本書です。


<野中郁次郎 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E4%B8%AD%E9%83%81%E6%AC%A1%E9%83%8E

<備忘録>
楽しめる仕事(P34)、メアリー・パーカー・フォルト(P91)、説得力の高め方(P101)、ストーリーの基本構造(P107)、人間関係における基本的距離(P110)、ダブル・バインド、メタ・メッセージ(P127)、脱構築(P130)、終身雇用と臨時雇用/暗黙知と形式知(P137)、ソニーと松下(パナソニック)の理念(P147)、本質を見る/プロセス観(P82)


<坂下昭宣 プロフィール>
http://spysee.jp/%E5%9D%82%E4%B8%8B%E6%98%AD%E5%AE%A3/1029876/


<チェスター・バーナード - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%89


<Mary Parker Follett - Wikipedia>
http://en.wikipedia.org/wiki/Mary_Parker_Follett


<グレゴリー・ベイトソン - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%99%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%BD%E3%83%B3


<柄谷行人 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%84%E8%B0%B7%E8%A1%8C%E4%BA%BA


<Jeffrey Pfeffer - Wikipedia>
http://en.wikipedia.org/wiki/Jeffrey_Pfeffer


<William Ouchi - Wikipedia>
http://en.wikipedia.org/wiki/William_Ouchi


<ピーター・ドラッカー - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC

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