有田芳生の『酔醒漫録』

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忘れ去られた作家の輝きと失意

2007-09-22 11:17:18 | 映画

 9月21日(金)池袋から山手線に乗ったとき、ふと思い立ち代々木で降りた。20歳代半ばから30代前半にときどき立ち寄っていた「代々木庵」で久しぶりに豚カツを食べる。あのころの店員が2人いた。時間の堆積を感じるのはこんなときだ。渋谷で週刊誌の取材を受けたあとにショーゲート試写室でフランソワ・オゾン監督の「エンジェル」を見る。上質な映画を見たあとはすぐれた純文学を読んだような気分になる。空想癖ある少女が作家となり夢をかなえたものの、思わぬ罠にかかり失意のまま人生を閉じるまでを描いた作品だ。時代でいえばヴィクトリア朝。上流社会の豪華な世界から庶民生活まで、20世紀初頭のイギリスを生き生きと表現している。何が起きるかわからないから生活とは面白いものだ。突然に人生の視野がぐっと広がることもあれば、巧まれた落とし穴を発見することもある。そのことに事前に気付くこともあれば、知らずに進むことで失意に囚われることもある。「エンジェル」は、そんな世界を描いている。モデルはオスカー・ワイルドと同時代に活躍してヴィクトリア女王がお気に入りだったマリー・コリレ。いまではすっかり忘れ去られた作家だ。上映が終ったところで蒸し暑い夕暮れを赤坂へ。「杉よし」で中村一好さん、都はるみさんと秋の味覚を堪能。六本木に移動してこれからのことで意見を聞く。気がつけば深夜2時20分。市川昭介さん最後の作品となった「蛍の宿」のCD(9月26日発売)をもらって帰宅。