アイス珈琲飲みながら、ロヴロ・フォン・マタチッチのスローテンポの1962年のベートーヴェン全集を聞いている。
五月晴れ。昨日撮ったギャラリー犬養の明治の洋館の外観の写真を叔父が見事な水彩画に仕上げて送ってくれた。
多分、街歩きスケッチに掲載するのでは、と思う。
ロヴロ・フォン・マタチッチの全集は実況録音で、モノラルだが演奏は力演で歌心に溢れた名全集。各曲のあとに盛大な拍手が入るのも会場の白熱ぶりが伝わってきて嬉しい。
マタチッチはデンオンのブルックナーの演奏で有名だが、4番はステレオで出ていない。ミラノ響やフィルハーモニアと4番のモノラル盤を残している。マタチッチは政治的に反リベラルで戦後冷や飯を食い、録音運に恵まれていない。
そんな中強烈な迫力と、イタリアのミラノRAI放送響の歌心をあわせ持つベートーヴェン実況録音全集が数年前に発売されたのは僥倖である。弦の美しさも聞き取れる、モノラルのライヴにしては雑音もなく状態のいい全集。
昨日ギャラリー犬養でオーナーとカウンター席の男性二人がアングラ演劇四天王の話をしていた。自分たちの先輩が60歳代で生でアングラ演劇を体験した世代だと喋っていた。そういう世代を差し置いて私が寺山さんを語る余地もないのだが、好きだからやむを得ない。
昨日も数冊寺山さんの影響された俳人の句集、西東三鬼や富澤赤黄男の句集を味わったあと、寺山修司全歌集全句集をめくってみたのだが、やはり飛び抜けて素晴らしい。
虚構の世界が色彩豊かに絵になっているのである。
目についた句をひとつ挙げると、「妹を蟹座の星の下に撲つ」なんか暴力的だけど美しい情景が目に浮かぶ。それが、たまにできるのではなくて、完成度の打率が高いのである。寺山さんのお陰で、寺山の私淑する俳人たちの作品も手に取り、視界が一つ広がった。60歳代のアングラ世代ではないので、生の寺山体験に乏しいのだが、いろんな形で今も触発されている。稀有な人物である。
東京カラメリゼというキャラメルを塗った焼き菓子をかじり、マタチッチの「英雄」の後半に入り、テンポが上がって盛り上がってきた。
宮澤賢治がベートーヴェン好きで、セロ弾きゴーシュで「田園交響楽」がでてきたりしたが、賢治は自分でオルガンを弾いて羅須地人協会で作曲していたことを思い出す。友人と岩手に賢治紀行をしたときも、農学校の敷地に移築された羅須地人協会の建物のなかで、賢治が弾いたオルガンと教え子が座った椅子を見て心打たれた。羅須地人協会の歌の自筆楽譜が印刷されたスカーフを記念館で買って帰ったのを覚えている。
ベートーヴェンの英雄も佳境に入ってきた。マタチッチの力技と歌心は感涙ものである。
北国の町で詩情を糧とするイーハトーボまであと何マイル