馬糞風リターンズ

世ノ中ハ何ノヘチマトオモヘドモタダブラリト下ツテモオラレズ

聽雨庵を結び旋風と号す。(2)

2016年04月08日 | 歴史
源之助のもう1ツの道楽は阿波歴史の研究でした。ここでも蒐集癖を発揮して古書、古記録などを集め阿波裏面史や人の余り遣らない分野の探求を精力的に行いました。この為、阿波先哲の書画を五百幅を蔵していましたが刀剣、蔵書諸共戦災で灰燼に帰しました。しかし、膨大な著作は疎開させてあり残ったようです。源之助の死後、この存在を知った同好の友人が埋もれて打ち捨てられるのを惜しみ阿波徳島の郷土誌に関わる分野の代表的なものだけを精選して徳島県立図書館に寄贈し、今日わずかにその研究成果をしのぶことができます。
「法律事務の合間でも僅かな暇があると読書に親しみ、文想を練る。法律の勉強より文学書に親しみ毎日三百頁を読破し、興に乗ると一夜に50枚の原稿を書いた」そして、その用紙は半紙、筆は毛筆が古くなって先端が擦り切れ、普通の人なら捨てるようなものを好んで用い、新しいものはわざわざ先を切って克明に楷書で書きました。しかし、これらの著作は公開を目的としていなかったので「甚だ多く私に机底に潜め独人楽しむ」ようであった。
 講演依頼や新聞への投稿の原稿は別途書き改めていたようで、その文章は枯淡で内容も珍しいものが多かったが現代離れしており素人向きではなかったと云われています。戦後、地方自治体が郷土史を発刊するブームがありました。徳島県下の各自治体も多くが市町村史を発刊しました。その折に、源之助翁の郷土誌原稿が大切な資料として活用されました。特に貞光町史は昭和15年12月5日脱稿の「郷土趣味史論」25巻3000枚が町史編纂の重要な参考資料となりました。
 以下に現在わかっている著作の一覧を期しておきます。
阿波懐古録・開闢、正史。国守歴世考。国守郡領総説。年中行事2巻。伝説誌3巻。明勝旧跡誌3巻。名木大樹誌。墳墓誌3巻。城塁誌3巻。人物誌4巻。徳島・名東郡・名西郡・麻植郡各寺院誌各1巻。国号・郡沿革・郷庄考。郡村名義考。神社誌。経済誌。行政誌。阿波史話雑録。阿波文学。阿波盆踊り考。楠公雑考。禅蒙求和和解。貞光村史料2巻。刀剣雑録。年中行事俗謡。名所俗謡。夕霧考。十郎兵衛考。霊場記。一里松・棋道・吉野川考。忌部氏考。義経通過路。珍誌。懐古録史料断片。旋風漫筆30巻。阿波奇談狸合戦8巻。西国三十三所霊場巡礼七巻。忍術新説概論2巻。泥棒録3巻。世話諺考10巻。奇説怪筆。奇説怪説珍説異説。読書余論2巻。不老長生考。長寿者考。史外史談。文学上より観たる物価2巻。媚薬・菊花考。江戸薬店ノ名薬。狐狸幽霊雑録。食人肉考・性器崇拝考。自作俗謡集15巻。高尾考。親子考。洒楽禅・狐禅録。碧巌録俗謡。従客俗謡。狸奴白猫禅話。都々逸考稿本・・・・。
 今、この多くは散逸してしまい誠に残念極まりない次第です。
源之助翁の私生活についての逸話もありますが、概ね「変屈、変人、頑固・・」なものばかりですが、どうも誇張された面があるようです。また、源之助の父親・竹市は「うどん屋」を営んでいましたが目に障害があったようで「めくらうどん」と大層人気の繁盛店で、この店で使う小麦粉を運ぶ徳島本線は臨時の貨車を運行したほどでした。この竹市は子供の教育に熱心で、源之助はよくその期待に応えたようです。この父子の話は戦後の小学校の道徳副読本にも取り上げられましたが、現在その副読本は「差別用語」使用とのことで閲覧できません。
 源之助は当ブログの祖父です。形質は引き継ぐことは少なかったようですが、その性癖は係累では当ブログが一番引き継いでいるようです。