馬糞風リターンズ

世ノ中ハ何ノヘチマトオモヘドモタダブラリト下ツテモオラレズ

1・17「今月今夜のこの月を・・・」(続)

2019年01月20日 | 大衆演芸
尾崎紅葉の「金色夜叉」は、明治30年(1897年)1月1日から明治35年(1902年)5月11日まで読売新聞に連載されたそうです。金色夜叉は、新聞連載中に尾崎紅葉が急逝したため未完成のままです。明治を代表する小説だそうですが、ありふれた通俗小説でそれほど評価するようなものなのかと言うのが読後感でした。その後、戯曲に脚色されて舞台で公演されたり映画化されました。間寛一が宮さんを蹴飛ばす熱海の海岸の場面は特に有名になりました。
熱海の海岸の場面では、打ち倒れるお宮さん、第一高等中学校の制服制帽にマントを羽織り高下駄の間寛一、背後にはお宮の松、空には満月が舞台設定です。
 「今月今夜のこの月・・」即ち、今月=1月、今夜=17日、満月だからこそ絵になるのです。
月の満ち欠けを基本にした旧暦であれば「今月今夜のこの月・・」は、来年であっても、再来年であっても、10年後であっても1月17日の月齢は同じと考えられます。しかし、小説が発表された明治30年当時は既に太陽暦が採用されています。太陽暦では来年の今月今夜の月は、満月であるとは限らないのです。

今年   1897/1/17 ⇒ 旧暦 12/15 (十五夜・・・ほぼ満月)
来年   1898/1/17 ⇒ 旧暦 12/25 (二十五夜・・明け方の細い月)
再来年  1899/1/17 ⇒ 旧暦 12/ 6 (六夜・・・・上弦の月の前日)
十年後  1907/1/17 ⇒ 旧暦 12/ 4 (四夜・・・・三日月の翌日))
因みに、金色夜叉が発表された明治30年(1897年)から 116年後、平成25年(2013年)今月(1月)今夜(17日)の月は六夜の月。満月にはほど遠い細い月です。

 ネットには便利な情報が沢山あります。月齢計算なども年月日を入力すれば即座に月齢が分かるサイトがあります。大変利用用途の多い楽しいサイトです。

尾崎紅葉の頭には旧暦が色濃く残っていたのでしょう。新暦が定着するにはまだもう少し時間が掛かったのかもしれません。


1・17「今月今夜のこの月を・・・」

2019年01月17日 | 大衆演芸
今日は1・17阪神淡路大震災24年目のメモリアル・ディーです。そんな日に不謹慎を承知で「金色夜叉」のことを書きます。
 「一月十七日、宮さん、善く覚えてお置き。来年の今月今夜は、貫一は何処で此の月を見るのだか! 再来年の今月今夜……十年後の今月今夜……一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死んでも僕は忘れんよ! 可いか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になったらば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから、月が……月が……月が……曇ったらば、宮さん、貫一は何処かでお前を恨んで、今夜のように泣いて居ると思ってくれ」尾崎紅葉の小説「金色夜叉」の熱海の海岸での一節です。映画・演劇でも有名な場面です。僕の子供の頃には漫才のネタでもありました。
ミス・ワカナ 玉松一郎の漫才が有名ですが、僕らの子供の頃は中田ダイマル・ラケットが書生節と言われる「金色夜叉」の歌をネタにしたものでした。
 「金色夜叉」の歌は大正7年(1918)に、後藤紫雲・宮島郁芳という2人の演歌師によって作られたそうです。当時(大正・昭和)の演歌師はバイオリンを伴奏として流していたようです。漫才では「熱海の海岸散歩する~・・」と片方が歌うと相方が口演奏で「ギィヤギィヤ・・」と口でバイオリンの伴奏を入れるのですが、そのタイミングや声の大きさ、テンポなどの食い違いで爆笑を呼ぶまさに名人芸でした。
多くの人(多分)は小説「金色夜叉」を読んだことが無いと思うのですが、このような大衆演芸などでそのストーリーを知ったものです。「婦系図」の湯島の白梅「早瀬 月は晴れても心は暗闇だ。…………お蔦 切れるの別れるのって、そんな事は芸者の時に云うものよ。……私にゃ死ねと云って下さい」「不如帰」の浪子が「あああ、人間はなぜ死ぬのでしょう! 生きたいわ! 千年も万年も生きたいわ!」などなど小説を読まなくてもこうした漫才・講談・浪曲などの大衆演劇でその知識を得ていました。

1 (男女)
  熱海の海岸散歩する
  貫一お宮の二人連れ
  共に歩むも今日限り
  共に語るも今日限り

2 (男)
  僕が学校おわるまで
  何故に宮さん待たなんだ
  夫に不足が出来たのか
  さもなきゃお金が欲しいのか

3 (女)
  夫に不足はないけれど
  あなたを洋行さすがため
  父母の教えに従いて
  富山一家に嫁かん

4 (男)
  如何に宮さん貫一は
  これでも一個の男子なり
  理想の妻を金に替え
  洋行するよな僕じゃない

5 (男)
  宮さん必ず来年の
  今月今夜のこの月は
  僕の涙でくもらせて
  見せるよ男子の意気地から

6 (女)
  ダイヤモンドに目がくれて
  乗ってはならぬ玉の輿
  人は身持ちが第一よ
  お金はこの世のまわりもの

7 (男女)
  恋に破れし貫一は
  すがるお宮をつきはなし
  無念の涙はらはらと
  残る渚に月淋し
僕が「金色夜叉」を読んだ記憶は、今高三年の時、遅刻したので学校に入るのが億劫になり、あみだ池の大阪市立中央図書館での事だと思っていました。今日、改めて蔵書を引っ張り出すと裏表紙の「昭和43年4月。桑名市明文堂」とメモ書きがあるところを見ると社会人になってからのようでした。