馬糞風リターンズ

世ノ中ハ何ノヘチマトオモヘドモタダブラリト下ツテモオラレズ

阿波徳島にいたド偏固趣味人。

2016年03月29日 | 歴史
昭和8年(1933年)7月23日NHK徳島放送局が開局しました。開局記念放送の第一声を発したのが徳島在住の弁護士大谷源之助でした。県知事、市長でも議会議長などの公職トップでもなく、また経済界の代表でもない云わば市井の一介の弁護士がこの大役に任じられました。
 徳島県立図書館の郷土資料には源之助翁についての資料が残されています。まず略歴を知るために人名辞典を閲覧しました。確認できる一番古いものは大正時代に出版された徳島名鑑(大正4年 徳島日日新報刊)で、その後数次にわたり名鑑、人物鑑、紳士録、・・・などが刊行されていますがその何れにも源之助翁は名を連ねています。
別冊 徳島県歴史人物鑑 平成6年 徳島新聞社刊

 源之助翁は弁護士としての名声よりも趣味人としての刀剣蒐集、読書家、郷土史研究家としての評価が高かったようです。また、本業の弁護士としても異彩を放ち、大変腕の良い人気の弁護士でもあったようです。弁護士としての彼の活躍の様子を資料から抜粋して紹介します。「君常に謂ふ貧乏人と病人は實に可愛相な者である宜しく医者は貧乏な病人は只診察施薬して遣るべし我等も貧乏人の権義は喜んで擁護し遣るべしと称し民刑事に関する当事者被告人の君が義侠に救済せられたる者頗る多く其頻繁に法廷に出入する君が事件の三割は全くの義侠なりと然れど時折は貧乏人を名乗り来る金持の依頼者に一杯喰はされ儲け損する事ありと謂う。君博覧強記頭脳明徹弁論流るが如く殊に其音吐の痛切明快なる聴者をして思はず拍手喝采せしむ故にその民刑事に於ける弁論弁護の如き議論風発引証該博如何なる無味乾燥の小事件と雖も一度君が提けて法廷に立つや忽ち法理の花咲き言諭の葉繁りて一種の興味を持たしむ然れば君が弁論弁護と聴かは傍聴席は直に満員となるといふ従て名声日一日に高く事件月一月に依頼多く・・・・・、弁護士界の花形役者と謂ふべし・・・」(徳島名鑑 徳島日日新報社 大正四年刊)
 当時、源之助翁が法廷に立つと云えばその事案の大小に拘わらず彼の弁護ぶりを見ようと傍聴席は満員となったそうで、今なれば人気のタレント弁護士のような存在だったようです。その逸話には事欠かないようですが、大変な読書家で膨大な蔵書を有し、特に奇書、怪書、珍書を蒐集しており法廷の弁論でもその書物の中からとんでもないものを引き出すことがあったそうです。ある時「ツビ」について蘊蓄を披露し裁判長、検事はじめ廷内の人々の爆笑を買ったとの記録もあります。(横山春陽遺稿集 阿波の奇人第3集)
源之助翁は「黒旋風」という雅号を使っていました。「男の意気 件(クダン)の如し 黒旋風」との句を吐けり亦以て其気骨を知ると共に君の気質を想像するに足らむか・・・・・。(つづく)
※「ツビ」とは和名抄などに見られる大和言葉で「𡱖」(ツビ)=女性の性器。陰門。女陰。


「土佐の高知のはりまや橋情話」

2016年03月24日 | 歴史
純信とお馬さんの駆け落ち話は高知新聞社刊「追跡!純信お馬駆け落ち百五十年」岩崎義郎 著及び同じく高知新聞社刊「純信の実像を探る」矢野安民著の2冊がほぼ全容を網羅しており全てが語り尽くされているようです。
川之江から立ち去った純信のその後についても地元郷土史家などの調査で明らかになりました。
 一方、結婚をし平穏な生活を送ったお馬さんについて人の噂も七五日でもあるまいが興味を引くスキャンダルもないせいか、その後の人生を話題にする人もなく、老後を東京の息子の家で65歳の人生を終えました。
 当ブログが所有する未整理の資料の中に昭和36年 2月20日付け日本経済新聞の切抜きが見付かりました。実はこの記事が公になるまでお馬さんの墓が何処にあるか分かっていませんでした。にも拘らずこの数年前に観光イヴェントとして須崎市ではお馬さんの墓と言われる所で盛大な慰霊祭を開催したそうです。研究者の多くは須崎市に身内縁者が全くいないお馬さんの墓が須崎市にあるはずがないと疑問を呈しましたが、これといった観光資源のなかった須崎市はお馬さん人気に便乗する形で慰霊祭を行ったそうです。そして、上記の記事でお馬さんのお墓が終焉の地東京にあることが判明しました。

先ほどの未整理の資料の中に大谷源之助稿なる毛筆手書きの冊子がありました。その内容は多岐に亘っており表題を列記すると「倭寇八幡舩資料」「民俗雨乞行事」「紙芝居の起源留事」「土佐高知の播磨屋橋」「首實見と切腹の作法」「舊藩時代の一里松所在」です。装丁からも記載内容からしても公にすることを目的として書かれたものではないようです。
 この大谷源之助は当ブログにとって誠に憧れであり一番の関心事の人です。次回からこの源之助翁の事を書いてみたいと思います。



映画「オデッセイー」・・・予定調和の駄作か?それとも・・・。

2016年03月02日 | 映画
月に1度の映画を見る会の日です。予定の時間になっても会員の方は誰も来ません。時々ポカを遣らかすのですが、また日にちを間違えたかもしれません。映画を見終わって家に帰り、告知を見直すと、日時は合っていたのですが映画館の場所を間違えていました。  さて映画オデッセーですが、週刊誌の映画批評で「予定調和」の極みで・・・、と糞味噌の評価をしている日本人映画監督がいました。予定調和、予定調和と云うけれど、そんなに予定調和が面白くないのかと言うとそんな訳でもないように思うのですが。予定調和の最たるものは「水戸黄門」でしょうが、何代目かの黄門さんに石坂浩二が「より本物の、史実に近い黄門を・・」とお馴染みの髭もつけず「この印籠が目に入らぬか!」と悪代官を懲らしめなかったら視聴者はソッポを向いて1クールでお終い。オデッセーは極限の状況から脱出すると言うパニック映画です。ですからこのオデッセーを見に行く人が端から「脱出に失敗し、不幸な結果になる」などとは思っていないでしょうし、困難な状況を如何に乗り越えるかの過程に期待しています。そのストーリーこそが予定調和なのです。
「ウルトラマン」に登場する「ジャミラ」と云う怪獣は、人間衛星に乗っていた宇宙飛行士が水のない惑星に不時着し、救助を待つ間に惑星の環境に身体が適応して皮膚が粘土質に変化した結果、ずっと欲していた水を不要として生きられる怪獣と化した正真正銘の地球人です。映画オデッセーも火星の有人探査中、嵐に遭遇し死亡したと思われた主人公マーク・ワトニーが、ひとり置き去りにされた火星で懸命に生き延びようとするストーリーです。予定調和からすると「ジャミラ」の方が意外性があって遥かに面白いのかもしれません。
  
過去にオデッセーに似た映画として「アポロ13号」があります。アポロ13号ではヒューストン管制センターが必死の救出作戦を展開します。NASAのスタッフがアポロ内にある物をかき集めて、二酸化炭素を吸着する水酸化キャニスターの不足を補う方法を見つけ出し、「丸い穴を四角い栓で塞ぐ方法を考えろ!」と地上に設営されたアポロと全く同じ資材で装置完成させます。それを管制センターからアポロに指示を出すことでアポロ船内の困難な状況を解決して行きます。
一方オデッセーでは火星に置き去りにされたワトニーは通信手段もたたれ、将に孤立無援の中で限られた条件下ありとあらゆる知恵と工夫で生き延びようと試みます。最初に試みたのはジャガイモの栽培です。ワトニーは食料の備蓄が300日ほどであることを知ります。そして4年後に「アレス4」のクルーが到着するまで生き残るため、ハブ内にジャガイモ農場を作ります。ただ、火星の土にはバクテリアがいないため、地球から持参した土と自ら生産する天然肥料をブレンドして土壌を整える手に出ます。しかし植物栽培に必要なもう1ツの物質、水がありません。そこでワトニーは水素を作り出し、それを燃焼させて水を作ることに成功します。映画ではそこまでですが、当ブログが思うにもう1ツ光の問題があるのでは・・。恐らくLEDライトで3色の光をジャガイモに照射したのでは・・。  映画オデッセーが面白いと思ったのはこのような宇宙での生存技術をリアルに体現でき、原理などを解説してくれるのではないかと言う期待でした。 産経新聞本紙番組欄に囲み記事が掲載されています。2月21日~2月25日5回シリーズで「銀幕裏の声」として映画オデッセーのことが取り上げられていました。NASAのJ・P・L(ジェット推進研究所)の現役職員・小野雅裕さんから聞いた話をとしてオデッセーでの技術を解説しています。ワトニーが酸素も水もない状況で4年間生きる方法としてジャガイモ栽培を行いますが、小野さんによると「技術的に詳細且つ正確なSFを観た事がない」そうです。この様に映画ではポテト栽培に必要な水の量、ローバー(探査車)を走らせるのに必要な電気量の計算、ロケット燃料から化学反応で水素を得る方法、古い探査機を使って地球と交信する方法、・・・・また火星の砂嵐の方向予知など知識さえあれば画面に驚くような技術が映し出されているのだそうです。また、二酸化炭素から酸素を取り出すオキシジェネレーター(Oxygenerator)が登場しますが、この技術は「Mars 2020Rover」で実際に実験される技術なのだそうです。  このようにオデッセーで描かれている技術についてはネット上に沢山紹介されています。将にコスミックフロントの世界です。オデッセーを推薦した太田さんと話をした時、太田さんもオデッセーでどの様にこれらの技術を描くかに興味があるとのことでした。彼は物理科学を専攻した専門家で、彼の学生時代、隣の研究室が「イオンエンジン」を研究していたと聞いたことがあります。今話題の重力波やニュートリノ振動などを数式で理解する人がオデッセーを観れば、当ブログなどが見過ごしているような凄い事を見つけることが出来るのでしょう。