『道元禅師の高弟に懐奘(えじょう)と義介(ぎかい)という、いずれ劣らぬ逸材がおられました。ところが師匠の道元禅師は、義介には悟りの境地を証する印可を与えられませんでした。そして、臨終の床で義介に、「おまえは老婆心が足りない」と戒められたと伝えられています。
老婆心とは、おばあちゃんが孫を気遣うような、うるさがられるほどの親切心のことです。それほどの思いがないと人は育てられない、と教えられたわけです。
一つのことを相手に伝えるだけでも、十回は繰り返さなくてはならない、十のことを伝えたければ百の熱意が必要だ、といいます。
みなさんも、ご法の話を一度聞いただけで「はい、そうですか」と入会した人は、そう多くはないのではないでしょうか。うるさいほどすすめられて、仕方なしに入会したという人が、ほとんどだと思うのです。そして、あとになって初めて、それがどんなにありがたいことだったか、思い知るわけです。老婆心は慈悲心です。』
庭野日敬著『開祖随感』より