alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

瞑想のダークサイド『禅病』『魔境』『偏差』

2018-06-04 | 中国医学の歴史
2017年5月29日『クオーツ』
「誰も話していない瞑想(メディテーション)のダークサイド」
 
以下、引用。
「禅仏教では、瞑想の際に歪んだ認識があらわれることを『魔境』と呼ばれ、日本語の『魔』と『世界』をくっつけた言葉の意味がある。現在のアメリカン・禅マスターであるフィリップ・カプラによれば、『魔境』は、ココロの深いところのストレスフルな経験をリリースするプロセスでの浚渫(しゅんせつ=どぶさらい)とクレンジング(浄化)を意味している」
Zen Buddhism has a word for the warped perceptions that can arise during meditation: makyo, which combines the Japanese words for “devil” and “objective world.” Philip Kapleau, the late American Zen master, once described confronting makyo as “a dredging and cleansing process that releases stressful experiences in deep layers of the mind.”
以上、引用終わり。
座禅や瞑想をやっていると『魔境』とか『禅病』という領域に入ることがあります。このアメリカ禅マスターの『魔境』の解釈は正確です。
経絡にたまった感情エネルギーや『詰まり』が『魔境』を起こします。『浄化(クリヤー:Kriya)』して、経絡が通れば、『魔境』のリスクは少なくなります。
この『クオーツ』の記事はブラウン大学医学部の精神医学の准教授が、『プロス・ワン』に「瞑想副作用」に関する西洋医学分野の初の医学的調査論文を発表したことを紹介しています!
2017年5月24日『プロスワン』掲載の論文
瞑想体験の多様性:西洋仏教徒の瞑想関連の困難のミックスド・メソッド研究」
The varieties of contemplative experience: A mixed-methods study of meditation-related challenges in Western Buddhists
Jared R. Lindahl et al.
 
 
以下、『プロスワン』論文の引用。
「チベット仏教の伝統では、『ニヤムス(nyams)』が、身体痛を強めたり、精神障害、パラノイア、悲しみ、怒り、恐怖など多様な障害が瞑想によって経験されると言及する際に使われる。」
 In Tibetan Buddhist traditions, the term nyams refers to a wide range of “meditation experiences”—from bliss and visions to intense body pain, physiological disorders, paranoia, sadness, anger and fear—which can be a source of challenge or difficulty for the meditation practitioner . 
 
「禅仏教では、『魔境(Makyo)』が、認識の副作用や状態を阻害するものとして、使われる。」
In Zen Buddhist traditions, the term makyō refers to a class of largely perceptual “side-effects” or “disturbing conditions” 
 
「禅の伝統では、『禅病(Zen sickness)』として知られる、長期にわたる病的な状態が、瞑想で起こることが知られている。」
Zen traditions have also long acknowledged the possibility for certain practice approaches to lead to a prolonged illness-like condition known as “Zen sickness”
以上、『プロスワン』論文より引用終わり。
 現在『マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR:Mindfulness-based stress reduction)』が流行しています。
 もともと1960年代にベトナム反戦運動で知られたベトナム禅僧ティク・ナット・ハン(Thich Nhat Hanh:1926-)が仏教の教えから「マインドフルネス瞑想」を始め、マサチューセッツ大学医学部教授ジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn)が、1966年からヴィッパサナー瞑想を行い、マサチューセッツ大学医学部教授となると「マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)」を病院で実践し始めました。 
 現在の日本でも、ミャンマーやスリランカやタイから「上座部仏教」の「ヴィッパサナー瞑想(vipassanā-bhāvanā)」が輸入されて、流行っています。
 
 しかし、日本の禅宗では、大昔から、瞑想中に「魔境」、「禅病」があると認識していました。西洋世界でも、現在、「クンダリニ症候群(Kundalini Syndrome)」という英語があります。中国の気功でも「偏差(へんさ:piān chà)」とか「走火入魔(そうかにゅうま:zǒu huǒ rù mó)」と言われる状態を認識しています。
 以下の文献『中国気功学』では、『偏差』『走火』『入魔』などの状態を分析し、ツボを使った対処法が明記されています。基本的には経穴を叩いて、詰まった経絡を通します。
『中国気功学』  東洋学術出版社 (1990/03)
 
 中国仏教では、『禅病』の予防と治療に、自己按摩をしていました。以下の研究は、中国仏典における禅病予防のための自己按摩の記述を集めています。
「天台止観の身体観について--とくに自按摩を中心として」
影山 教俊『現代宗教研究』40号、224~242、2003年
隋代に書かれた中国仏典『禅病を治療するための秘密の方法(治禅病秘要法)』という文献には、治療法として、『按摩』と明記されています。
 
 中国・天台宗の開祖、隋代の高僧・天台智顗(てんだいちぎ:538-597)は、『天台小止観』などの文献において、瞑想前に自己按摩することと、さらに「禅病」に対して、「丹田(たんでん)」に意識を置くことを述べています。隋代の高僧・天台智顗(てんだいちぎ:538-597)が行っていた『止観(シャマタ・ヴィッパーシャナ:śamatha-vipaśyanā)』とは、現代日本で流行中(笑)の、ヴィッパーサナ瞑想や座禅のことです。
『仏教と医学 : 「丹田」考 (袴谷憲昭教授退任記念號)』
渡辺 幸江『駒沢大学仏教学部論集』 -(42), 306-290, 2011-10
 
以下、2011年『丹田考』より引用。
「師匠が言うには、上気してのぼせ、胸満し、脇痛して、背中がケイレンし、肩井が痛む。胸中が熱でモンモンとして痛み、食べることができず、胃がはって、臍下が冷たく、上熱下寒し、陰陽不和となり、シワブキする。この十二の病はみな、丹田で止まり、丹田は臍下二寸半である。」
又有師言。上氣。胸滿。兩脅痛。背膂急。肩井痛。心熱懊。痛煩不能食。心䛫。臍下冷。上熱下冷。陰陽不和。氣嗽。右十二病。皆止丹田。丹田去臍下二寸半。
以上、引用終わり。
この隋代の高僧・天台智顗(てんだいちぎ:538-597)の方法論を、そのまま、日本の江戸時代中期の高僧、白隠(はくいん:1686 -1769)が「軟酥の法」という禅病の治療法に用いています。
 
以下は、白隠『夜船閑話』より引用。
『前賢曰く、丹は丹田なり。心勞煩わんとする則(とき)は、虚して心熱す。心虚する則(とき)は、是れを補するに心を下(くだ)して腎に交(まじ)ふ、是れを補(ほ)といふ』
 
『若し心炎意火を收めて丹田及び足心の間におかば、胸膈自然に淸凉にして、一點の計較思想なく、一滴の識浪情波なけん、是れ真観清浄観なり、云ふ事なかれ』
 
『佛の言く、心を足心にをさめて能く百一の病を治すと。阿含に酥を用ゆるの法あり、心の疲労を救ふ事尤も妙なり。天台の摩訶止觀に、病因を論ずる事甚だ盡せり、治法を説く事も亦甚だ精密なり、十二種の息あり、よく衆病を治す、臍輪を縁して豆子を見るの法あり、其の大意、心火を降下して丹田及び足心に收むるを以て至要とす、但病を治するのみにあらず、大に禅観を助く』
以上、引用終わり。
この『禅病』は、中国伝統医学の『心腎不交(しんじんふこう)』なので、臍輪(ヘソのチャクラ)の丹田や足心の湧泉に『引火帰元(いんかきげん)』して降気・降火して治療します。中国伝統医学を勉強したきた鍼灸師にとっては、手に取るように理解できます。
 
 流行中の「マインドフルネス瞑想」をされている方々は、たぶん『禅病』や『魔境』の存在を知らないです。また、昔の禅仏教の指導者は、『禅病』の対処法や予防法を知っていましたが、いまの指導者が知っているか、どうかは疑問です。
禅病の予防には、関節や経絡の気滞を按摩して取ることです。禅病の治療も按摩で、経絡を通したり、虚火上炎して、心腎不交な状態を、下焦や湧泉に引火帰元します。たぶん、昔の鍼灸師は、どんな病気でも持ち込まれたので、『禅病』や『魔境』にも対処していたと思います。
 「マインドフルネス瞑想」のセミナーに参加する前には、ぜひ、『禅病』や『魔境』の病理や予防法、対処法を聞いて、指導者の資質をストレス・テストしておくべきだと思います。

最新の画像もっと見る