田舎の倉庫

Plala Broach から移植しました。

井上荒野さんの「切羽へ」

2009年07月01日 | 読書三昧

井上荒野さんの「切羽へ」を読みました。
第139回(2008年上期)直木賞受賞作というので、期待して読みましたが、残念ながら、小生には納得できる作品ではありませんでした。

むしろ、何でこの程度の作品が直木賞を受賞できるのか疑問に思ったくらいです。つまり、場(現在の九州の小島)があり、登場人物も丁寧に描かれていますが、いわゆるテーマがはっきりしないのです。作者は何を書きたいのか、読者に何を訴えたいのかがよくわからない作品です。

物語は、8年間の都会暮らしの後、結婚して島に戻った養護教員の主人公が、同僚教員の不倫や、近所の独居老人の生き様などを通して、現代という崩れやすい、いわば炭鉱の「切羽」のように脆い人間関係と不安感を扱っています。

選者のお一人、井上ひさし氏は、
「よく企まれた恋愛小説ではあるが、評者には退屈だった。あんまり話がなさすぎる。」「けれども、ここで実現された九州方言による対話は、これまでに類を見ないほど、すばらしいものだった。これほど美しく、たのしく、雄弁な九州方言に、これまでお目にかかったことがあっただろうか。」「最終投票で、評者は、この九州方言による対話に票を投じた。」 と述べています。

直木賞受賞作というのなら、願わくば、藤沢周平の「暗殺の年輪」や船戸与一の「虹の谷の五月」、乙川優三郎の「生きる」などに見る人間の生き様を写した、一読して「凄み」を感じるような作品であって欲しいと思うのですがいかがでしょうか。