人気作家のちょっといい話12話。
06年12月から2年半にわたり「野生時代」に連載された短編小説12編を収めています。
そこには、秩序が崩壊した現代社会にあって、仕事や人間関係に悩みながらも、明日を信じて必死に生きる人々が描かれています。
著者はあとがきで、「多くの人と同じものを見て、同じように苦しむ力。それが作家にとって一番信頼できる能力なのです。」といっています。それが、この小説を心地良い暖かいものにしています。
物語のひとつをご紹介すると、
"彼は、高校卒業後40年清掃車を運転してきた。定年後は、毎日好きな将棋を指して暮せると思った。しかし、2週間で飽きた。
そこで、タクシー運転手になるべく講習を受け、運転や接客などの実技はパスしたものの、地理の試験はどうしても受からない。
熟年世代の彼に東京の地理をすべて暗記するのはきつ過ぎる。そこで自転車で都内を隈なく走り回り、8回目の試験に挑戦する~"
ご一読をお勧めします。