前回の続き。
曲がった梁ですが、画像を見て貰うと、完全丸太ではなく、側面が平面になっていますでしょ。このような梁を『太鼓梁:たいこばり』といいます。ちなみに製材されて正四角形になった材を『平角:ひらがく』といいます。(正四角形のうち正方形は『正角:しょうかく』といいます)
強度は木のクセとの関連もあり一概には語れませんが、完全丸太>太鼓>平角の順にあります。
さて、この曲がった梁の寸法の出し方と加工ですが、大工自らがするしかありません。一見難解なようですが、墨付けはXとYの2次元なので、さしがねを使って『勾殳玄』(こう・こ・げん)を駆使しなくても出来ます。
大工にとってこのような曲線や曲面のある部材の寸法出し、いわゆる墨付けは、『自然界から、幾何学の法則を探し出す』作業です。『規矩の極意は水平と垂直にある』といわれているのですが、難解な規矩はさておき、材から水平と垂直を探し出す作業なわけです。
この時、私が一番注意していることは、デザイン上実際に架構した場合を想像して美しい曲線が空間に描かれているかどうか、それと大工技術上長さの寸法値を間違わないようにすることですね。
前者は十人十色なのであくまで私のセンスなのですが、後者は時々、設計図面の構造グリッドに微妙なイレギュラーがあるのですよ。ですから何度も何度も図面をよく見て寸法を確認して、出来れば自分以外の人に寸法チェックをしてもらってから、加工に入るように心掛けています。
前々回、『風をよむ』の記事中、京町家の画像で、曲がった梁の上に曲がった梁が架かり、そして柱が立っていますでしょ。専門用語でこの柱のことを『束:つか』といいます。
今回の画像でも同様にこの束があります。この梁は空間の中で現しとして見せる(それを専門用語で『化粧:けしょう』という)部材でしたので、全体の曲線の上げ下げやバランス配分からはじまって、ディテールもていねいに収めることに努めました。
京町家と見比べてみて下さい。梁と束の接合面が京町家の方では梁そのものを局所的に全て水平に削り取っているのに対し、今回画像では束が立つ部分のみ穴を掘って束底部と梁上部の接合線が隠れるように、すっぽり束が穴に入るようにしています(そしてその下に長方形の束のほぞ穴があいています)。
この技法を『大入れ:おおいれ』といいますが、仕事としては今回画像の方が上級です。加工の難易度も高いですし、時間も掛かります。それは、虹梁として美しく虹が架かったようにこの梁を見せるには、束との取り合いで梁の連続する曲線を途切れさせてはいけないと私が判断したからです。化粧梁として、良い意味でやわらかくなだらかに曲がった松だったのです。活かさないと!
こうしたオンリーワン部材では、設計者の意図を汲み取って意匠に反映させる、職人の感性が大きな要素として働きます。
逆に言えば、たいへん多くの設計者は実際に形にする生産技術・技能を持っていないわけだから、職人としても物理的な構造センスだけではなく、デザインセンスも磨かなければいけません。
数寄屋大工の修行には当然ですが、茶道・華道も含まれるわけです。ほんものを自らが体験してこそセンスは磨かれていくのだから、一夜漬けで雑誌から引用して似たようなデザインをするようなことをしていてはいけませんよ!
次回に続く
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