心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

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わたりあご③

2006年08月27日 | 日記・エッセイ・コラム

前回の超お宝画像を見て、伝統大工の魂と、仕事の質の高さ・丁寧さがご理解頂けたでしょうか? 

とはいえ、一番恥じた(開き直った!?)のは、平均寿命26年住宅を ”好むと好まざるとに関わらず” 施工なさっている大工の方ではないでしょうか。

 

また、一番の問題は、その平均寿命26年住宅を設計されている設計士の方が、前回画像を見てさえも、それが何が何だかさっぱりご理解不可能だということ。

 

”設計士”といったって、もう、一般の素人の方と或る意味、同じレベルなのですから。

間取りの現実-構造計画から①、②】を見れば明らかでしょ (^‐^)凸

 

ということで、今回はいろいろな渡腮をご覧あれ。

まずは、梁に磨き丸太を使っての、平角(ひらがく・正長方形断面の構造材のこと)材との渡腮。

 

 

平角材は実際は4メートル位はあるので、サンプルピースを作製して、接合が確実になされているかをこうしてチェックします。上段右の画像は、理解し易いように、天地を逆にして撮影してありますが、あれっ!? サンプルピースが落下していないぞ!?  (^‐^)凸 

 

これ、手品じゃありませんよ。墨付け・刻みをしっかり行っていることの証明です。見え掛かりにかみそりの刃一枚の隙間が生じることも無く、しかも見えない内部では独特な細工を施すことで(それを、”効かす”と言うのですが、企業秘密?なので、今回画像は内部をお見せしません♪)、こうした質の高い接合部を人間の手仕事で作り出しているのです。

 

現在主流の平均寿命26年住宅の接合部の考え方はネ、構造接合部をピン接合のみとして捉えているので、『接合部がユルユルのガタガタでも、金物さえ施工して外れないようにしておけば良し』とするような、乱暴なものなのですよ。

 

ただそれじゃぁ、腕の悪い大工と同じレベルなものだから、ハウスメーカーをはじめとして、『コンピューター制御のCAD・CAMによる全自動プレカット構造材加工』といった、『腕の悪い大工とは比較にもならない高精度の構造材加工を採用』だとか『大工による技量に左右されない高品質・高精度の構造材加工を採用』といった営業トークで、各社自社物件が極めて高品質であることをアピールしているのですね。

 

ただ全自動といったって、加工出来るのは、ラインに乗せられる迄の寸法の正四角形断面材による【蟻】【鎌】【大入れ】だけなんですよね~。よっぽど最先端の設備投資をしているプレカット工場ですら、【寄せ蟻】【乗せ継ぎ】【略鎌継ぎ】【かぶと蟻】【茶臼蟻】【二段二重胴差し】(※私の知る限りによる。接合名称はいずれも加工機メーカーによる呼称)程度です。柱の木口立てに必要な【落とし蟻】なんて、もってのほか!

 

全自動加工機ではダボすら出来ないし、前々回の【完全基本形渡腮】すら出来ないのに、建築主である素人が知らないからといって、言いたい放題・やりたい放題の平均寿命26年住宅なんですよね。渡腮の簡単な歴史ぐらい、木造技術者なら知っているべきこと! 

 

ですからね、住宅の品質の向上については、住宅が経済政策オンリーであり続ける限りは、そこに錬金術師がいつまでも群がり続けて甘い蜜を吸い続けるのだから、”ホンモノ”は虐げられ続けるのでしょうねぇ。『悪貨良貨を駆逐する』なんていいますものね。私は頑張るけど、お金を出して下さる建築主の方、早く気づいて!(笑)

 

さて、次の画像。梁に両方松丸太を使っての渡腮。

 

 

上段右の画像がまだ組む前の丸太どうし、それ以外が完成形です。丸太どうしだってこうして渡腮を組んじゃいます。

 

墨付け・工作の難易度は上の画像の”丸太+平角”によるものよりもはるかに高く、大変手間がかかります。この場合も、可能な限り見え掛かりに隙間を作らないように努めましたが、よ~っく見て(◎_◎)下さいね。接合面に直線状の下ごしらえをせずにほぼ丸のままこうして組むのは、大変なのですよ。

 

さて、この松梁にはもう一箇所渡腮があるのですが、それが次の画像です。

 

 

上段右の画像がまだ組む前の丸太どうし、ただし『スカーフ』の工作後。それ以外が完成形です。

 

一見、上の画像と同じように見えますけど、全然違った渡腮なんですよ。こちらの方は、カナディアン・ログハウスを組む時の技術からアプローチしたもの。ログビルダーの技術で、『ロック・ノッチ』という木組みです。ログハウスでは最もポピュラーとされる『サドル・ノッチ』を更に堅固に木組みする技法で、内部にこれまた細工を施しています。

 

上の木組みと見た目に異なるのは、こちらは『スカーフ』と呼ばれる直線状の下ごしらえを下木側に工作していること。同じ丸太を組むのに別々の木組みを採用して、私自身も楽しんで(^‐^)v仕事をしている訳です。お客さんも楽しんで、喜んで貰えるとありがたいです。

 

私は常に構造のことを第一義に考えて、私自身の頭の引き出しから最も適した木組みを採用しています。ご心配は本当に無用です。私は”何とかの一つ覚えの一級建築士”ではありません。

 

また、全自動プレカットのように、”生産ラインで出来ることだけに全てを当てはめる”→”大量生産を前提とした住まいづくり” なのではなく、常に、より多くの頭の引き出しの中から最適と思われる技術を選択して、住まいづくりに活かすというアプローチを採っています。手間はかかりますが、良いモノ・ホンモノはそうしなければ出来ないと考えているからです。

 

さて、話をこの松梁に戻すと、依頼者の意向で、築100年を超える古民家のようにしたいとのことでした。木組みを見る限り、いい感じでしょ?煤で黒くなった古民家のような梁に見せるために、建前後・竣工前に黒く塗って仕上げるそうです。構造材は私が責任を持って担当しました。後は、次工程の方に引き継ぎです。

 

大工の手仕事によってのみ可能になる、構造と意匠です。素晴らしいでしょう(^‐^)凸

 

さて、もう一つご紹介しましょうネ。

 

唐招提寺・宝蔵の木組み(上段の2画像)と唐招提寺・宝蔵(下段の画像)です。唐招提寺・宝蔵の画像はHP【morisawa.org】内の【列島宝物館】内の【奈良県の国宝と重要文化財の建造物・建築物の一覧】の【唐招提寺宝蔵の写真】からお借りいたしました。凄いパワーのサイトですね。脱帽です。

 

この国宝建築の構造木組みも実は渡腮なのですよ(^‐^)凸  私の【釘を使わない大工さんの木組み展・伊豆高原】と【釘を使わない大工さんの木組み展・東京】では直接手にとって自由に組んだり解いたりしてもらいましたが、今回は内部構造の紹介はなしネ♪ いつかまた木組み展を開催出来る時がありましたら、その時に体験して下さいねp(^‐^)q

 

さて、こうして見ると、渡腮といっても実にたくさんの応用例があることに何となくお気づきになったことだろうと思います。木組みで構成される木造伝統構法は奥が深いでしょう!? 私自身ただただ勉強させて頂くことことばかりですが、一日でも早く、伝統構法の素晴らしさ・伝統大工の技術の確かさを1人でも多くの方に知って頂き、木造住宅を建てる際に選んで頂きたく存じます。

 

たかが木組み、されど木組み。渡腮仕口ひとつでも、伝統大工は魂を込めています。


わたりあご②

2006年08月06日 | 日記・エッセイ・コラム

まずはこちらの記事をご覧あれ。            

TOYAMA BRAND】というサイト内の【Toyama Just Now No.011-1】。

富山県小矢部市にある、今から約8000年前の縄文時代早期から約2300年前の縄文時代晩期にかけての遺跡である桜町遺跡での、当時の”衝撃的”なニュースです。

”衝撃的”とは、大工なら、伝統構法大工だけではなく、在来構法大工(全自動プレカットの仕事しかやったことのない方は除く)の誰でも知っている渡り腮(渡腮)仕口という木組みが、この遺跡から発見されたからなのです。それは永いこと飛鳥時代建立の現・法隆寺西院伽藍(金堂・五重塔・中門・回廊)が最古と考えられてきたものだからです。

渡腮は仏教伝来と共に導入された大規模寺院建築の建築技法のひとつとして、大陸から輸入された技術だと思われていたんですね。

ということは、遺構がないので推測ではありますが、日本で初めての本格的な寺院建築は法興寺(飛鳥寺)ということらしいので、587年頃、6世紀後半位までは遡れるかな…と。現在の法隆寺西院伽藍(金堂・五重塔・中門・回廊)は天智9年(670年)の火災後の再建説が有力だから、とすると7世紀後半。

ところが、少なくともその現・法隆寺西院伽藍よりも更に約1000年も遡ってしまったのだから、さあ大変! これは大陸からの輸入技術なのではなくて、縄文の日本人?のオリジナル技術なのでは!?…と大騒ぎになった訳です。

しかしながら、その後、この桜町遺跡で発掘された渡腮仕口と思われた木材を更に丁寧かつ詳細に分析を進めたところ、ちょっぴり残念なことに、訂正が発表されました。【読売新聞・北陸発記事

ただ、更にその後、建築学会誌で、この材の直接の担当者が記事を書いていまして、『…渡腮ではないということも断定出来ない。私自身は渡腮仕口である可能性の方が大きいと考えている』というような旨のコメントを寄せていました。発掘調査って、大変なんですねぇ~ (・・;)

渡腮仕口の木組みひとつで、日本人論まで行っちゃうくらい、奥がとてつもなく深いものなのです。

ということで、現存する最古の渡腮、法隆寺五重塔に見られる渡腮仕口の画像を貼っちゃいますね!よ~っく見てね(◎_◎)   

【国宝法隆寺五重塔修理工事報告書】より紹介させて頂きました。

 当初材です。つまり、今から約1300年前の部材。

飛鳥様式の特徴である雲斗・くもと、雲肘木くもひじき、が見えますでしょ。三重部分です。

 

渡腮仕口は写真上・中では力肘木と雲斗との交差する所、写真下では桁(正しくは二の通肘木)と隅木(正しくは尾垂木)が交差する所が分かり易いかな?

特に下の写真。何と、隅木の落ち掛かり仕口に渡腮が用いられているんですよ!凄いんです、これ。宮大工にとっては当たり前なのですが、現代でも伝統大工しか出来ない最上級技能です。

 

平均寿命26年住宅の木組みとは、プロと素人程の差があります。(-’`-;)

『しっかり組む』って、本当に大事なことなんです!組んでしまえば分からなくなってしまうのですが。

つづく。


わたりあご①

2006年08月02日 | 日記・エッセイ・コラム

さて、つれづれなるままに…、久しぶりに木組みのことなどを。

タイトルを漢字にすると『渡り腮』または『渡腮』となります。主に横架材(床梁や小屋梁、根太)の部材相互を組む場合に、比較的多く用いる技法です。要は、”あご”という凸凹を意図的に木組みすることで、せん断力や曲げモーメント、更には水平剛性といった構造の特性を向上させる訳ですね。

つまりは、単純梁ではなくて連続梁に架構しちゃいましょう!ということ。一級建築士の方であれば、全員この違いが理解出来てるはずですよね!? 水平剛性だって、向上しちゃうんですよ(^‐^)凸  【木造軸組み工法住宅の許容応力度設計】ぐらい、出来る出来ないはともかく、目(◎_◎)ぐらい、通してますよね!?

耐震偽装問題で、一級建築士全員の再試験が検討されていたのが結局ボツになって、”ペーパー一級建築士”の肩書きにしがみついている方達は、ホッと安堵で胸を撫で下ろしているのでしょうねぇ。

私は”再試験すべき派”だった訳でして、そんなに難しい試験じゃないでしょう、一級建築士試験って。化粧の振れ隅木・垂木・転び母屋・隅木に差さる斜め胴付き束を実際にドンピシャ正確に造る方が、はるかに難しい気がするんですけど…

ということで、画像がないと素人の方はちんぷんかんぷんなので。

 

 

渡り腮はダボを併用するのが原則です。ただし、画像では、理解し易いように完全基本形で模型を製作しています。凸凹である”あご”が、部材相互にそれぞれ”渡って”いるから、『渡り腮』というわけです。

こんなに簡単な形状なんですけど、全自動プレカットでは出来ない木組みなんですよ。

つづく。