心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

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枝付磨き丸太と仮組み

2012年06月18日 | うんちく・小ネタ

設計仕事の次は大工仕事。

2012.05.30やわらかな建築・私が残したいものでの、『8年間、のべ320棟もの私の実体験』のひとつ。

 

まずは、通常の磨き丸太の通し大黒柱。


玄翁と鑿で加工しているのが私。


玄翁は幸三郎、叩き鑿は清久を使っています。

 

設計をする大工、大工をする設計士。かつての”棟梁スタイル”ですね。

 

特命で時間を貰えれば全ての接合部を木組みだけで作るのですが、
標準では2階床梁の差さる部位は大入れ+短ほぞ+接合金物使用で作ります。

 

実物仮組みは一切行いません。そもそも仮組みとは間違えていないかの実物確認作業なので。
『8年間、のべ320棟もの私の実体験』で、ほぼノーミス、ノークレームでしたヨ。(^^ゞ

 

調子良い時、私はおよそ墨付け開始から刻み修了迄2日~2.5日(関連材を含む)です。しかも現場で微調整も必要無い精度で私は仕上げます。接合部に隙間は無し

 

仮組みについては、私が師事した棟梁は否定的でした。
私もその考えを踏襲しています。

 

WARNING!)  私が具体的数字を掲載する事で、特に大工技能に無知な木造建築業界内の人々の『捕らぬ狸の皮算用』に、私は同乗・提携するつもりは毛頭ありません。高い技能を保持する職人に対する正当な評価を社会に啓発していきたい為に、私は記事を書いています。

 

人間とは自分に都合良く考える性質があるものだけれど、まあ、私の褌で勝手に相撲を取りたがる輩の何と多い事!  私からは一言です 『やれるものなら、やってみなさい』 (^-^)/ ★

 

 

話しを戻して、例えば水盤舎(手水舎)。
私が見習いの頃に勉強させていただいた建築です。




【四方転び】といって、4本の柱を内側に転ばせる(傾倒させる)事で、筋違い(すじかい)が無くても自立する伝統建築構法。全て木組み、小屋には桔木も入れ、柱を直接礎石に建てる木口建て【石場建てのこの小規模建築でさえ、棟梁は一切仮組みを行いませんでした。しかも現場対応一切無し。


『腕の良い大工は仮組みしない。一度組んでしまうとその分接合が甘くなる。時間も無駄だ。』と。また、『東大寺大仏殿の様な大きな建築では仮組み出来ないだろう?なのに何で小さな建築で仮組みするんだ?』と。


注):この水盤舎、風圧力対策で見えない様に補強ボルトを仕込んであります。私が師事した棟梁は、単なるファナティックな伝統構法主義者ではなく、現代の構造力学を見越した現代棟梁でした。


コストダウンの為には、仮組みしない方が短工期で済みます。


だから、私もお施主様に余計なコストをかけない様、師事した棟梁に習って仮組みしません。
私なりのミス撲滅作戦を実行する事で、それが可能になります。


ちなみに”棟梁スタイル”つまり設計をする大工・大工をする設計士のスタイル、
残念ながら現在の東京首都圏ではほぼ絶滅、伝統大工も絶滅寸前だと思います。


何しろ20代前半で人の3倍努力して建築大工1級技能士同等のスキルを自分のモノにした若者が、大工そのものを辞めてしまう時代。
木組みによる隅木(隅木の金輪継ぎも)~~~~~~以下】。


もはや優秀な人間にとっては、魅力ある職業ではなくなってしまった。
だから、世襲以外の優秀な若者がやって来ないし、来たとしても去って行く。
この業界も今はジバン・カンバン・カバンが無いと、自立出来ない膠着した体質です。


『お施主様の喜ぶ顔が見られて好きな事が出来て飯が食えて私は幸せ者です』
上棟式後の宴会である直会(なおらい)で、棟梁がお施主様と語り合っていたのを昨日の事のように思い出します。


下の画像は私が見習いの頃、およそ20年程前。4段目右の画像で後列右から3人目が私。

 

 

 

 

 


自分が設計した家を仲間と共に自分の手で作って建てて、自己実現が出来て。
人さま並みの生活が出来て、高度成長時代であれば工務店も開業出来て、将来性があって。
だから、かつては優秀な方が大工を志したのだと思います。(私は優秀ではありませんが)


タイトルから最初の画像の私、右足に包帯を巻いてサンダルで仕事をしています。
2012.06.07木組みによる隅木(隅木による金輪継ぎも記事で、『労働環境が劣悪の1コマ。
フォークリフトの爪が足に落下する大怪我事故に遭い、松葉杖後で靴が履けないまま仕事に戻らざるを得なかった為です。無免許運転を強いる、救急車を呼ばない事業所でした。


何をかいわんや、である。

 

 


 

さて、【枝付磨き丸太

 

 

 

 

  
埼玉の毛呂山の幼稚園の通し大黒柱だったように記憶しています。
実はもう1本同じ枝付磨き丸太があり、枝付磨き丸太ツインタワー幼稚園です。


ただし設計者は私ではなく、現場仕事も担当していませんので、竣工後の画像はありません。


手間が掛かりましたが、墨付け開始から刻み終了まで約3日/本。2本で1週間程。
他にも磨き丸太の桁、柱、特殊な材料、木組みと、もう何でもありの”構造材プレカット”。


工期に間に合わせる為に外注した縁桁関連以外の墨付けと刻みの全てを、私一人で行いました。現場の大工さん達は組み立てるだけ。


”埼玉版数寄屋建築”ですね、ここまでくると。


2012.05.30やわらかな建築・私が残したいもので、『埼玉ではゴツゴツした木太い原木丸太をそのまま表わしとする様な豪快で武骨なデザインが多く、木割りの細い『綺麗数寄』と呼ばれる様な瀟洒で繊細な意匠はデザインされないように思います。』の、ひとつの印象。


設計者は【上高地の大正池の幻想的な光景】(Google画像検索より)をイメージしたのでしょうか、
それとも、【立ち枯れの木の神秘】(Google画像検索より)をイメージしたのでしょうか。


立木の状態に近い使い方をする事で、生命の尊さを表現したかったのかも知れませんね。
それともただ単なるデザインだったりして。


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開放的な間取りのヒント

2012年06月11日 | うんちく・小ネタ

京都鴨川の納涼床】に見る開放的な間取りのヒント。大工仕事の次は設計仕事。


前々回記事【やわらかな建築・私が残したいもの】での立面図。上段左・東、上段右・北、下段左・西、下段右・南。

 

平面図があると理解し易いのだけれど、プライバシーの問題から掲載していません。
立面図だけで想像出来ますか?この住宅の敷地は北側道路。なのでファサードは北立面図、上段右の画像がそれです。


京都鴨川の納涼床】(Google画像検索より)の画像とこうして比べてみると、どことなく似ていますね。

 

北側車庫の階上をバルコニーデッキにして、室内と段差の無いバリアフリー床で連続させてあります。更に西側には完全に屋根が架かったルーフバルコニーデッキ、南側には1mの軒の出の下に納まるようにバルコニーデッキ。いずれも室内床とは段差の無いバリアフリー床として設計。


つまり、2階は室内の居室から北・西・南側の3方向にデッキを張り出して、空間の広がりを持たせてあります。


私が提案する【2006.05.21坪庭のすすめ】のバリエーション。つまり、これらデッキ群は空中庭園的空間。あくまで建築を外部環境と有機的に関連付けしたい発想から計画しました。建ぺい率の有効利用といった消極的発想からこのデッキ群を計画しているのではないのです。


こうする事で、とても大きな開放感が生まれ、通風が期待出来る間取り・空間を計画する事が出来ました。『夏にエアコンに頼らないで済む、開放的な間取り』を要望されたお施主様も、気に入ってくれています。\(^o^)/


一般に住宅地では南側道路敷地に比べ北側道路敷地は陽当りの面で不利ですが、この住宅では、平面だけでなく高さ関係の計画にも工夫を凝らして陽当りも解決してあります。矩計図は平面図同様掲載しませんので理解しずらいとは思いますが。


【開放感】【陽当り】【通風】など、性能として数値化しにくい要望ですが、お施主様と一緒に要望をフォルム化して出来上がった設計図は、鴨川の納涼床と、結果的に大変共通する環境共生住宅を設計する事になりました。


小嶋基弘建築アトリエのパンフレットから。




この住宅建築の設計基本理念はパンフレットの通リで、『環境共生住宅をデザインするということ、そのヒント』のバリエーションによる造形です。お施主様から『この、”環境共生住宅をデザインするということ、そのヒント”良いですよね』と気に入って貰い、設計者に指名していただいた経緯があります。


私は原則として、環境共生住宅こそが、豊かな住文化を育み、家族に幸せを呼び込む住宅のスタイルだと思っています。


環境共生住宅とは、高気密+高断熱という、性能に誘導される現在の大量生産型住宅の間取り・空間の真逆を行くものだと私は考えています。


でも、だからといって隙間風ピューピューで断熱性能の劣悪な前時代的建築で良いとは考えていません。もちろんお施主様の要望を踏まえた設計になりますが、サッシや断熱材の断熱性能、耐震性、耐久性など、フラット35S基準をクリアする性能は必要であると考えます。誤解なきように。


建築と外部環境とをピシャッと遮断しないで、おだやかに溶け合う緩衝空間をまとわせる発想は、開放的な間取りを実現するヒントのひとつです。


例えば、【京都・鴨川の納涼床の建物・町並み】が、現在日本でもてはやされる高気密高断熱大量生産型住宅になってしまったらぞっとしませんか?


京都以外にはこういう風情ってないのでしょうか?
こういう建築からも、環境共生住宅のヒントが得られるのです。


さて、これからEURO2012フランスVSイングランドのTV観戦です。)^o^(


木組みによる隅木(隅木の金輪継ぎも)

2012年06月07日 | うんちく・小ネタ

久しぶりに木組みについて。
隅木2007/03/04以来の、隅木・パート2。いきなり上級者向け応用編になってしまいますが。

 

 

 

 

  


寄棟屋根の隅木(棒隅)関係を全て木組みで行った例。現場対応一切無しの、
”オールプレカット”です、これ。仮組みもなし。現場の大工さんは組み立てるだけでOK。


部材寸法は、隅木:幅18cm×成21cm×7m途中で金輪継ぎ、大垂木:12cm×12cm、
柱:15cm×15cm芯寄せあり、方杖:10.5cm×10.5cm、母屋に栗の自然木丸太、その上に乗る束:10.5cm×10.5cm、通し大黒柱:27cm×27cm×7.3m。


隅木の頂部側、大黒柱の柱頭にはマジンガーZの頭部みたいな形状の凸凹の木組みで、特大のほぞ組み。この頂部、大黒柱との取り合いには、隅木1・大垂木2・桁2の合計5材の接合が一か所に集中しています。


釘は一切使っていません(効かないので意味がない)。


隠し金物&ボルトを大黒柱のこの加工形状の木口から仕込んであり、
木組み+金物補強とで、これ以上ない構造接合安全性を達成してあります。
つまり、構造材表わしによる意匠性と耐震性・耐久性とが最高性能で融合しているのです。


母屋と隅木は【渡りあご】で組んでいます。
更に芯寄せのある150角柱の上ほぞは2段の重ほぞにしてあり、母屋を貫通して隅木にまで入っているので、申し分なし。社寺建築でしか採用しない木組みといえます。


下手側の桁との取り合いは軒の出ゼロの意匠だったので、木組みだけという訳にはいかず、隠し金物で接合。コーチボルトではありませんよ。


この家、雑誌にも載ったみたいですね。『大黒柱頂部の5つの部材が大黒柱とどう接合されているのか?』と、質問があったような記憶があります。その回答の画像になります。


前回記事での【8年間のべ320棟】のうちの1棟で、大工として私が担当した構造です。


『……設計士と大工棟梁がほぼ完全分離してしまった現代の都市部では……』と前回記事で書きましたが、かつての棟梁と呼ばれた方にとっては当たり前の様に出来た事ですね。
少し前の建築大工1級技能士の実技試験では、確かこの様な棒隅(45度の隅木のこと。45度以外は振れ隅という)が課題だったはず。


でも、現在主流の”構造材プレカット”のニュアンスからすると、こういう仕事を”プレカット”と呼んではいけないと思うのだけれど、何しろ私が担当したのは構造材の墨付け&刻みだけの仕事だったので、やはりこれも”構造材プレカット”。


こういう仕事、今や伝統技能を持った大工しか出来ない時代になってしまいました。


なので、分譲住宅をやっている大工と、木組みが出来て伝統型木造をやっている大工とでは、同じ大工の呼称ではあるものの、もはや違う職能ですね。私はエアツールの熟練度という点では、古い大工の部類です。へたくそです。


分譲住宅大工は鑿と鉋を使いませんし、規矩術も必要ありません。刃物を研いで使いこなす為の厳しい修行も必要ありませんし、最初は全くチンプンカンプンのさしがね使い・規矩術を夜に勉強して、木組み模型を作って、実戦に備える訓練も必要ありません。


ちなみに、現在主流の構造材全自動プレカット加工による隅木が下の4枚の画像。
分譲住宅のみならず、ハウスメーカーの注文住宅もこれと同じです。

 

 


こんな大きな隅木でも、オス木とメス木とをしっかり組んでいなくて、乗っているだけです、この接合部。そして、金物の指定をしない場合、全自動プレカット構造材を組み立てる大工は3寸釘(9センチ)だけ施工して終了。


長さを継ぐ場合には殺ぎ継(そぎつぎ)といって、斜めにカットはするもののやはり乗っているだけで、金物の指定をしないと、3寸釘だけ。帯金物で補強しているだけまだ良心的な施工なのですよ、これらの画像の施工。構造が見えない”大壁構造”なので、この画像の様に金物でガチガチに接合すれば済む訳です。


いわゆる”ぶっつける”仕事です。


比べてみると、構造が見える”真壁構造”は、いかに手間がかかっているかが何となくでしょうけれど、理解されるのではないでしょうか? ですが、手間をかけるだけあって、木組み+隠し金物による2重の安全性の配慮、耐久性、デザイン性と、どれをとっても最上級です。それが出来るのは、伝統大工だけ。機械での全自動プレカット加工では出来ません。


【200年住宅】を本気で制度化して作る気があるならば、
”ぶっつけ仕事”ではない、真の伝統大工の手仕事が必要です。


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木組みによる隅木の仕事をしている時に、私に3年程付いて修行していた若い子がいました。


彼は私も感心する程熱心で勉強家で、徹夜してでも出来ない事を乗り越えようとする気概があり、この後、努力が結実してこういう仕事が出来る様になって、一級建築大工技能士と同等のスキルを身につけました。何処へ行っても通用する真の大工技能をマスターしたんですね。


でも、今は大工そのものを辞めてしまいました。


技術や技能はあっても鑿や鉋を使う彫塑的な仕事が無い、少ないパイの奪い合い、労働環境が劣悪、将来の人生設計が出来ない等々の理由だったのでしょうか。
私もその気持ち、痛い程自分の事の様に理解出来るだけに、残念でなりません。


”何処へ行っても”と書きましたが、分譲住宅会社へ行ってもそれはそれで通用しないのです。
おかしな事だと思うのですが、大量生産型住宅の”消費地”である都市部ではそれが現実。


技術・技能があるにもかかわらずに自己実現が出来ない。
あったとしても家庭が持てないような生活しか出来ない位の待遇しかない。それでもやりたいのであれば、家庭や子供をあきらめざるを得ない人生の選択に直面してしまう。


無垢の木にこだわり、木組みにこだわり、鑿や鉋を使って家を建てるには、自分で工務店を始めるしかない時代の現実。親の代から家が工務店ならまだしも、資本ゼロから全てを立ち上げる事って、ほとんどの人にとって無理でしょう。


また、自分で工務店を開業出来る経営能力のある大工であればもはや社長業になってしまうので、よほど信念の人でなければ、やはり食べていく為には儲からない(大量生産による薄利多売経営が出来ない)伝統木造から遠ざかってしまう。

『鑿や鉋を使った木組みなどの彫塑的な仕事がしたいのですが、使って貰えないでしょうか?』


釘を使わない大工さんの木組み展・伊豆高原】【釘を使わない大工さんの木組み展・東京】を開催した後、何人かの若者からありがたい話を貰いました。女子もいました。


でも、『……、ごめんなぁ……』と、私の現実をありていにお話しして、理解して貰いました。


宮大工や数寄屋大工と同じ道を辿る事になってしまうのですね。
技術や技能がある方が、却って食えない大工になってしまう現実がある以上、
”伝統大工は絶滅種だと実感”する訳です。


国も、内需拡大、雇用創出、若者やベテランのやる気を引き出す仕事の創出の為にも、伝統型木造住宅で食べていけて、人さま並みの生活が出来る環境の整備をしていただけたら、やる気に満ちて能力のある若者が辞めていくもったいない事態を回避出来るのに、残念です。


さて画像ですが、設計者は私ではありませんので、完成した画像がありません。
私が伝統型木造建築の理解を世間に対して普及啓蒙出来る事は、力不足で、ここまでです。


住まい手の方々にこうした木の表わしの構造美・高性能をご理解いただける様に努めて、
『我が家もああいう木の表わしの家がいいなぁ』と言って貰え、注文していただけたらなぁと思う次第です。

 

 

 

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【追記 2024年3月17日】

比較の為、建売住宅の隅木を掲載しておきます。一目瞭然。

 

日本で一番施工棟数が多いといわれるパワービルダーの施工現場。

部位は隅木と棟木の接合箇所。プレカット加工。

それにしても見事なまでの建売的施工

かすがい金物が施工されているだけマシですが。

 

但しかすがいの使い方が適切ではありません。

材の上端に打っているのが、アウト。

 

下の画像が、国が指導するこの様な部位での適切な使い方。

《写真でみる接合金物の使い方》(材)日本住宅・木材技術センター刊より。

材の上端の表現は何処にもありません。

 

かすがいは『材が割れないよう』との文言が最も重要です。

材の割裂破壊=脆性破壊=強度が一瞬でゼロになる破壊だから。

 

それに、かすがいは強度最低金物なんですよね。

 

短期許容耐力はべいまつ類で1.27kN、べいつが類で1.18kN、すぎ類で1.08kN。

《平成12年建設省告示第1460号に対応した木造住宅接合金物の使い方》

(財)日本住宅・木材技術センター刊による。

 

N値計算では、N=0以下の部位にしか使えない最低耐力金物。

金物補強といっても、最低の補強にしかならない訳です。

 

これが現在のプレカット加工とぶっつけ大工による、

建売住宅・分譲住宅・一般住宅の現実なのです。



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Let's enjoy 構造計算⑤  (^-^)v

2006年03月25日 | うんちく・小ネタ

睦月、如月、そして今季節のこよみは弥生下旬。花見月ですね。春分の日も過ぎ、ソメイヨシノも各地で開花して、東京でも来週末ぐらいが桜の満開でしょうか。陽光降り注ぐ春うららかな中、息子はJR特急スーパービュー踊り子号に乗車出来て、ご満悦(o^_^o)  パパは掃除に洗濯、布団干です。 p(^-^)q

さて、少々専門性が高かったかなぁ~(?_?)の、Let's enjoy 構造計算シリーズは⑤の今回でひとまずピリオド。画素数を落として画像を掲載しているので、理解出来ないのではなくて、ただ単に見えないだけかな…

Keisan23 Keisan24

3.5.接合部の設計ですね。3.5.1.で浮き上がりの検討を行います。「3.各部の設計」の項「3.1.軸力の算出」から導きますが、Vt(vertical tension)=VL(耐力壁間の押えに有効な長期軸力の合計)-Vs(耐力壁の回転によりおきる軸力の合計)×β(浮き上がりに対して建物全体が押さえ込む効果を考慮した係数)で計算します。

耐力壁には壁倍率といって、水平力に対しての変形しにくさが数値化されていて、たしか法改正前で長さ1m当たり200kgの力に耐える壁が倍率1で、その時の正長方形から平行四辺形への変形の度合いが1/120ラジアン(角度の単位)が定義だったと記憶しています。(改正後は200kgが196KNへと単位も変わって、”キロニュートン”なんてのより、ボクシングの”パァウンド”やゴルフの”ヤード”やらを国際単位に変更してもらった方が私としては生活が楽しくなるんですけど… ちなみにトリノ五輪ではスノボのハーフパイプ見てたら、公式TVでちゃんとメートル表示されてました♪)

ところでこの壁倍率という奴はやっかいな代物で、倍率を上げる(但し法令による仕様規定では5倍が上限)に連れて、接合部の接合強度を比例してアップしないことには耐力壁としての効果が発揮されない特性があるんですね。このことが大変理解しにくいようで、壁倍率さえ上げれば地震に強くなると単純に思い込んでいる設計者や施工者が多いのです。

2000年の法改正では、構造計算によらずに仕様規定で設計施工するのであれば、徹底的に構造の金物補強(…というか、”木造金物接合構法”という形に現実はなりました)が義務付けられました。このことの理屈を知りたい方は、『E-ディフェンスを見て、学習することをお勧めします。というか、プロとしてこの業界でメシを食っている人間は、”知る”こと位は必須ですよね~。

ということで、どの柱がどれ位の浮き上がりが生じているかを表で示し、略平面図で更に解り易く図示します。そして対策として、伝統構法的アプローチではなく、現在主流の仕様規定在来構法的金物補強策(実際には補強ではなくて、金物が主扱いなんですけど…)を示す訳です。2000年法改正で一躍脚光を浴びた『ホールダウン金物』ですね。

ただ、今回、構造計算により算出したデータなのでこれだけの量で済んでいるのですが、構造計算によらない事が圧倒的大多数の2階建て迄の構造なのであれば、仕様規定にも『N値計算』という簡易計算法が用意されているので、お勧めです。それすらもやらない・やろうとしない・やろうとしても出来ない設計士によるのであれば、純仕様規定の、ガチガチに金物漬けにするしか今は家は建ちません。結果、構造躯体にボルトの穴をあけまくって、結露による構造躯体の腐食や、熱伝導による温熱環境の悪化は避けられないことになります。

参考までに、限界耐力法構造計算 >許容応力度法構造計算 > N値計算(H12国土交通省告示第1460号第2号ただし書き) > 仕様規定(H12国土交通省告示第1460号)の順に金物の量は減らすことが出来るンですよ~♪ 

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と、続いて、3.6.基礎の設計ですね。何事も基礎が大切。一般の方は土台のことを基礎と思い込まれているようですが、基礎は純粋に地面と接しているコンクリートや石等をいいます。この設計、正しく行えば地中梁が必要になるケース、鉄筋がワンサイズ大きくなったり、大きくならないまでも増加したりするケース等、上部の間取りによってかなり”ごつい”ものになることがあります。しかし発注者からすると!と?のようで、『そんな設計になるんだったら、よそに設計させるからもういい!』と罵声を浴びせられた一級建築士を私は知っています。

その発注者の名前は明かせませんが、耐震強度偽装を賑わしている○○元建築士や○○社長やらがやっていたことは、何処にでもとは言いたくはありませんが、対岸の火事ではないことだけは間違いないと思います。本来木造で建ててはいけないような建物を、”コストダウン”の為に木造で建てる行為を平気で行う意匠設計士と建築主がいることが問題なのです。どうして、そこまでして受注したいのでしょうか。お客様にはおそらく何でも『出来ます』なのでしょうね。ただ、これも煎じ詰めればお客様の”自己責任”にもなってしまうことなので、安請け合いするような業者には要注意だと思うのですが…。

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続いて、3.7その他 です。3.7.1で転倒の検討、3.7.2で層間変形角の検討、3.8で二次設計ですね。転倒とは文字通り、のっぽ状になりがちな3階建てなので当然の事として、層間変形角とは倒壊までは至らないまでも、地震や台風時にどれ位家が傾くかということを計算するもので、品確法では、仕上げ材の損傷の程度を示すものとして表現を変えて規定されているものです。

二次設計とは、最低限人命の安全を確保する為の設計のことで、大地震時(震度6~7)に建物が倒壊しないかどうかをチェックすることをいいます。ちなみに一次設計とは中地震(震度4~5程度)を想定していて、使用上支障をきたさないようにする設計のこと。

層間変形角は、防火の観点からも特に厳しく性能が求められています。木造では、準防火地域の3階建てでは、1/150ラジアンと、それ以外の地域の1/120ラジアンよりも高い耐変形性能が要求されています。変形によって生じる、隙間から一定時間、火が進入したり噴出したりしないようにすることを要求されているからです。ということは、耐力壁量が準防火地域では多く設計することが大切なんですね。

『カーテンウォール』という言葉をご存知ですか?高層ビルの外壁の施工方法のことですが、外装材を躯体(構造の骨組み)とはワンクッション置いて施工されていることをいいます。”ゆーらゆーら”揺れる建物に外装材をきっちり留め付けて施工してしまうと、揺れを吸収出来なくて、ヒビや亀裂ひいては脱落してしまう危険性があるんですね。ですから或る程度の”遊び”が必要な訳でして、まるでカーテンのように、力をふわぁ~っと伝えないことからネーミングされたのだと思うのですが、これも、層間変形角を計算している訳です。

で、ラスト3.8.3で再度偏心率の計算が出てきていますが、この計算書を作成した頃は、法改正に伴って許容応力度法による計算方法も改正される移行期でした。偏心率計算がそれまでの計算法には義務付けなく、あくまで自主計算にて安全性を少しでも高める為に行っていたものです。ここでの数値が0.15になっているのは、建築基準法施行令第82条の3の2項によるもので、木造を除く建築物に適応されているかなり厳しい数値です。

偏心率とは各階の間取りの重心と耐力壁の剛心を求めて縦軸と横軸でそれぞれの距離(偏心距離)を平面全体のねじれに対する抵抗の度合いを表す”弾力半径”で割った数値のことで、剛心まわりのねじれの起こり易さを示したもののこと。地震力は建物の重心に作用すると考えられていて、水平力が作用した時、建物は剛心を中心に回転する訳で、この距離が遠いとねじれ変形が大、と考えているのですよね。

この偏心率、木造で0.15が見送られ、0.3に落ち着いたのは、地方の住宅の間取りに配慮した為なのだろうと思います。南側に大開口を設ける伝統的日本家屋では、限界耐力計算によるか、さもなくば設計上のあるテクニックを用いなければ、0.15では実質建築不可となってしまうのではないでしょうか。多くの点で都市部の住宅に焦点を合わせた法改正だったように私は思っているのですが、結果、地方の住宅に同じ法令を適用するのには少し無理があるような気が私にはしますけど。ただ、2000年の法改正の焦点を逆から見れば、それだけ都市部の住宅が無秩序だということでしょ?

間取りの現実、それは確かに地方の間取りにも多く見受けられてもいますが、やはり都市部のそれは更にひどい、が私の正直な所見です。また、十人十色のデザインは別にして、地方には設計施工を本当に良く知っている腕の良い大工がまだまだ棟梁として全体を統括しているのに比べ、都市部では分業化の短所が建物の質の低下を加速させているように思えてなりません。釘打ち機でなければ釘を打てない大工、鉋掛けも出来ない大工に、本当に良い建物が出来るとは思えないのです。

・・・

ふ~。構造計算って、こうして見てみると大変ですね。私の舌足らずはもちろんを承知の上で、ただ、接合部の計算は、浮き上がりだけでしたでしょう。つまりね、改正前では、柱や梁の断面算定や耐力壁関連の計算はあるものの、梁については、その端部がどう他材に関連していて、荷重がどれくらいの応力の伝達が出来るのかとか、木組みによる違いとかは全くノーチェックだった訳です。例えば蟻仕口一つでも『蟻掛け』・『大入れ蟻掛け』・『腰掛蟻』・『茶臼蟻』とでは接合強度も荷重の応力伝達性能も異なるのに、それらについては、触れられていない。

また、耐力壁の配置についても、基準法としては、ほぼ正四角形でほぼ総2階的な間取り・構造でしか対応していないという現実があり、改正後の1/4バランス計算や偏心率計算についても、基準法的には凸凹やセットバック・オーバーハングのある間取りについては対応出来ないということで、コスト優先の弊害とまでは言い切れない面がありますけど、大人の木造建築について、限界耐力計算法の一日でも早い整備と運用、そして活用を私としては期待したいところです。

でもね、本当に大切なのは、構造計画なんですよね。伝統構法はその事からしっかり配慮しなければ、施工出来ない構法です。伝統構法が理解出来るのであれば、自然と構造計画も理に適ったものになっていくし、おかしな材料を使うことなく、耐力壁を併用することで、保有水平耐力は木造では最大になります。なにしろ、筋違い・構造用面材を使うこと無く、骨組みだけで自立する構法なのですから。

終り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Let's enjoy 構造計算④  (^-^)v

2006年03月19日 | うんちく・小ネタ

今日は子供と凧揚げ ヽ(^▽^)ノ をしました。でも、すっごい風で、あっという間に木に引っ掛かって絡まってしまい、あえなく終了。小さいことは全く気にしない豪快な?息子は、『あっはっは~』と笑ってました。『名は体をあらわす』とはいいますが、人間の性格とは面白いものですね。

さて、Let's enjoy 構造計算④。

Keisan11 Keisan12Keisan13 

1.一般事項、2.耐力壁の設計に続いて、3.各部の設計を提示します。3.1.で軸力の算出を行います。軸力とは、平たく言えば、柱にかかる荷重のこと。どの柱に一体どれ程の荷重がかかってくるかを計算して行く訳ですね。設計士は荷重(かじゅう)と言いますが、大工は”荷(に)”と言ったりします。『荷がかかる柱』というように。実際、木材一本一本を手に持ったり、肩で担いだりしながら墨付けや刻み(きざみ:墨付けがなされた木材を鋸や鑿等で工作するこという大工用語)を行うので、身体感覚に大変近い表現がされているのだと思います。

で、3.1.1.で水平力による耐力壁の応力を提示します。ここで示されているのが、簡易軸組み図です。筋違い(筋交いではないよ)が一方向にしか示されていませんが、これはソフト上だけの表記で、現実には圧縮筋違いと引っ張り筋違いがあるので、/と\が同数になるように設計しなければなりません。(こういうこともご存知無い設計士、しかも一級にも、ざらにいらっしゃいます(・・;)

3.1.2.で柱の長期軸力と短期軸力を提示します。長期とは地震や台風や雪が無いような状況下での構造の有り様、短期とは地震や台風や雪があるような状況下での構造の有り様(大変乱暴な言い方)です。ですからこの項では、長期、積雪時、水平力(地震や風による横から建物に加わる力のこと)について、軸力を見る訳です。大雪が屋根に積もっている時に、暴風雪が吹き荒れ、そこに震度7の大地震が来た時が建物にとって構造的に最も過酷な状況な訳です。そんな状況はまず無いでしょうが、それでも絶対に無いとは言い切れない訳でして、品確法では『500年に一回あるかないかの…』といった表現で、構造設計のグレードをランク付けしています。

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それらを平面図上の柱位置(座標軸として表記)に落としこんだものがこれらです。左から長期鉛直軸力、積雪時鉛直軸力、水平力による軸力。そして右端は計算により判明する、柱が重力に逆らって上方へ上がろうとする力『引き抜き力』を示しています。これが多くの方の理解に苦しむ力のようです。さて、興味ある方は、これらから、長期軸力と短期軸力の違いを見てみて!。きっと、普段の設計や施工が、いかに根拠も持たずになされているかを”目からうろこが落ちる”ように気付くかもしれないからです。また、それに気付くことが出来れば、設計や施工が本当に理解出来るようになるだろうし、建築主への職能上の最大限の貢献、ひいては社会貢献のよろこびで仕事がとにかく楽しい・愉しいものになるに違いありません。(^-^)v  仕事はね、どうせやるなら、たのしんでやろうよ!

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これらを踏まえて、3.2.で柱の設計、3.3で梁・桁・胴差の設計、3.4.でたるき・母屋・根太・他の設計を行います。柱の設計についていえば、仕様規定として建築基準法施行令第43条に基づいて小径(断面寸法のこと)を決定するのがポピュラーなのですが、性能規定という道が2000年の法改正で開かれたのだから、設計士はジャンジャン構造計算を行って、安全性を計算で証明した上で、感性に訴えかけてくるような素晴らしいデザインをして欲しいものです。デザインとはネ、構造だってデザインなんですよね。パリのポンピドーセンターぐらいは知ってるでしょ?レンゾ・ピアノ氏やリチャード・ロジャース氏、ノーマン・フォスター氏とかネ。私は今大工やってますけど、彼らの講演行きましたよ。関空はこの目で体験もしたし。

ところで、特に注意すべきは3.3梁・桁・胴差の設計です。構造計算で算出した断面寸法さえ守れば必ずしも良い訳ではないんですね。それがOKかは材料次第、それを扱った職人次第といった要素が極めて大なのです。それは、木が生物材料だからです。つまり、それが1番玉なのか2番玉なのか3番玉なのか、木には腹と背があり、『背に腹はかえられない』訳でして、単純梁で使用するのか、連続梁で使用するのか、跳ね出し梁で使用するのか、また、集中荷重がどこに下りてきてどこから降りていくのか、単独材なのかそれとも他材との絡みはあるのか、根太彫りはあるのか、etc.適材適所を見極めなければ、計算で出た設計が担保出来ない複雑な事情があるのです。計算では、50%割り増しの安全率を掛けてはいますが、それよりもはるかに大事なのが、”人”なのです。     う~ん、だからネ、木造は面白いんですよね (^-^)v

続く。


Let's enjoy 構造計算③  (^-^)v

2006年03月12日 | うんちく・小ネタ

後厄のたたり? 風邪をひいて治ってはまた風邪をひき…(x_x;)  私は今、仕事と子育てと親の介護でちょいとダウン気味です。毎朝、タウリン3000mg・植物性生薬2種類配合の医薬品栄養補給ドリンク剤を飲んで、パパはがんばってますよ~p(^-^)q  大変だけれど、私はちゃんと子育てをするのだ。あ~、仕事だけしてた方が、どんなにラクなことか。育児休暇も当然ない恵まれない労働環境でも、必死に身体にムチ打って、馬車馬以上に働き、子供の未来の為に真剣に育児している同士よ、俺もがんばってる、君もがんばれ!それにしても、おかあさんの偉大なこと!尊敬m(_ _)mしますね。 我が家でも妻は凄いっす。それに比べれば、男はへなへなですね~

ということで、今回はLet's enjoy 構造計算シリーズの③   細かいことは抜きにして、目次に沿ってさーっといきましょう。

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1.一般事項 計算の前提条件の提示です。1.3では使用材料および許容応力度表を提示します。設計者なら、たとえ木造であっても、建築基準法施行令(”施工令”ではないよ)第8節ぐらいは”知ってる”でしょ、と言いたいところなのですが、建築士試験で構造と法規何点で合格だったの?と訊きたくなる方が現実には多数いらっしゃいます。ヽ(^^ ) 私は意匠および大工系なのですが、構造25点満点中21点、法規は同22点でしたけど。みなさんしっかり設計しましょうね。

1.4.で仮定荷重、1.4.1で固定荷重、1.4.2で設計荷重、1.4.3で積雪荷重、1.4.4で速度圧の計算、1.4.5で地震力をそれぞれ提示します。そして1.5で略伏図(根太等の2次部材を省略した柱と梁だけの構造図のこと)を提示します。木造とS造(鉄骨造)・RC造(鉄筋コンクリート造)・SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)とでは構造計画から根本が異なりますが、今一連の耐震強度偽装問題で数値を偽装したのは、多分ここでしょうね。設計には基本設計と実施設計がありますが、相当に力量のある設計士でなければ正確な実施設計が出来ませんから、偽装を見抜けるには大変な知識量が必要だと思います。ちなみに私は偽装していませんよ~ (^-^)v

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2.で耐力壁の設計をします。現在の木造軸組み構法では、最も大切な構造設計です。2.1で耐力壁の配置と有効壁長Ldと許容耐力Piの算定、2.2で建築基準法施行令第46条に定める壁量の算定を行います。2000年の法改正で性能規定が盛り込まれ、耐力壁の配置バランスの規定が数値化されて、それまでの『釣合い良く』という語から、偏心率が0.3以下というものに変更されました。ただ、法改正後も木造では間取りを1/4ずつに区切って配置計算を行える、仕様規定的簡易計算が大多数を占めているのが実情です。偏心率計算を行った方がより間取りの自由度が大きいので、お勧めです。(ただし構造計算費用分、コストアップしますけど)

2.3.1で地震力、2.3.2で風圧力の算定をそれぞれ行い、耐力壁量が法令以上であるかを提示します。ここでは地震力で1階X方向が法令の1.29倍、Y方向が同1.31倍、風圧力で1階X方向が同2.28倍、Y方向が同2.51倍の耐力壁量を設計しています。品確法を考慮した場合、出来れば地震力で1.5倍以上は欲しいところです。

私は伝統構法の構造計算が行える限界耐力計算法による計算方法を知りませんが、伝統構法では間違いなく構造接合部(木組み)を評価するのでしょうから、伝統構法+耐力壁の組み合わせが木造では最も高性能な耐震性能が得られる構法といえるのではないでしょうか。

つづく


Let's enjoy 構造計算②  (^-^)v

2006年02月19日 | うんちく・小ネタ

ちょっと休んでる間に、私を除いて家族全員インフルエンザに罹ってしまって大変でした。『とにかく罹ったと思ったら、急いで病院!』との判断から、 深夜未明の3時に夜間救急の診察に行ったりと、妻も子供もつらくて苦しかったのですが、おかげ様で、今は平静を取り戻しつつあります。小さい子は本当に苦 しそうで、親として代われるものなら代わってあげたいですね。

何はともあれ、健康第一  p(^-^)q 感謝感謝。

 

さて、Let's enjoy 構造計算②ですね。構造計算書って、一体どういうものなのか?から紹介していきましょうか。くどいようですが、くれぐれもこの計算書は改定前のものなので、参考までに。

これは目次です。

今回はラスト【3. 8二次設計】の項が138ページとなっていて、結局148ページに及んで安全性を証明しています。

ここで行っている許容応力度計算法とは、部材の単位面積 当たりの応力(応力度という)が、限界に達していないかどうかをチェックする方法です。つまり、ある部材が1平方センチ当たり何kg(現在は単位が変わったので、何キロニュートン)まで耐えられるかを示し、部材に存在する応力度がその限界値以下であることを計算で確かめる方法です。

一般に木造二階建て住宅では、"本当は行ったほうが良い" のですが、簡便な耐力壁量とそのバランスの計算を行えば済むことになっています。例えばここでは【2.耐力壁の設計】の項で ”建築基準法施行令46条に定める” とありますけど、実はより正確には同87条および88条により計算しなければならないんですね。

何度も記事を書いてきましたけど、建築基準法は最低の基準を定めているに過ぎない訳でして、良いモノを造ろうと思うのでしたら、構造ではしっかり構造計算を行って、設計上の安全性を確認するべきだと私は思います。

また、品確法ではより詳細な令87条および88条により計算が誘導されていますので、設計をなりわいにされている方は必須ですね。

私は構造計算の専門家ではありませんから生意気かも知れませんが、令46条しかご存知無い設計者と令87条および88条や品確法による計算を習得された設計者とでは、同じ ”一級建築士” でもその力量に雲泥の差があります。過去記事 【間取りの現実2006年1月15日】 を見れば明らかでしょう!?

ちなみにここで私が令46条で行ったのは、たまたまです。分かり易く言うと、法令で定められた値ギリギリで設計しようとした場合、耐力壁量が令87 条および88条で計算した方が増える傾向があるのですが、私は令46条で計算しても安全率を高くして法令よりもかなり多くの耐力壁とそのバランスの良さを 構造設計するようにしていますので、令46条と令87条および88条の選択は特段意識していません。

私は法令ギリギリの設計はしません。もし依頼があったとしても、一級建築士として、そして棟梁をはじめ私を育ててくれた多くの先生から教わった良い モノを造ろうとする哲学と、気の強さというか芯の強さというか向こう見ずというか、意匠設計者に構造上の観点からNGを指摘して変更をして貰う様にしてい ます。ただ、下請けとして弱い立場にいる方にすれば、言いづらいのは確かですね。

でも、私も下請けです。ですけど、良いモノを造ろうとする熱意って、絶対に伝わるものですよ。そして、良い仕事って、絶対に誰かが理解してくれています。もしそれが伝わらないような取引先なのでしたら、それはご縁が無かったと考えた方が結局は因果応報です。『蓬(よもぎ)麻中に生ずれば 扶けずして 自ら直し 白砂泥中ありて 是と皆黒し』 といったところでしょうか (;¬_¬)

 

私は ”私の自宅を建てる” つもりで毎日の仕事をしています。

 

この時の依頼者もとても理解ある方で、私の主張を間取りに反映して下さって、建築主に再提案してくれました。

しかしながら私も体験しましたが、ここでも耐震偽装問題でクローズアップされている意匠・構造・設備それぞれの設計の弊害そのままの図式が成立しているのですね。

 

間取りを作成するだけでしたら、構造計画無視で誰でも出来ますよね。

 

つづく


Let's enjoy 構造計算①  (^-^)v

2006年02月06日 | うんちく・小ネタ

Keisan1 さて、間取りの現実を見た後は、危なくて仕方がないので、Let's calculate the structure.Φ(. _ . )  少し古い資料ですが、私が行った3階建て木造在来軸組み構法住宅の計算書を引っ張り出してきました。許容応力度計算法によるものです。この後2001年12月に計算法が改定されたので、参考までにということで。伝統構法には未対応ですけど。

ちなみに設計をなりわいとしている方は常識ですよね。まさか建築士の免許を持っているのに出来ない人はいないでしょうね?計算で安全性を確認したから、柱の上下率が10%でも間取りを設計出来た訳ですよね?

それに、設計士だけではなく、これからは大工も出来なきゃ!プレカットの仕事しか出来ないと、単純な蟻と鎌しか木組みを知らない大工になってしまうばかりか、必要な材成も???になってしまいますよ。

150ページ近くも難しそうな数字がびっしり記入されているので、取っ付きにくいのは確かですが、やってみれば、『なぁ~んだ、こんなもんか』となります!私がそうでした。大学を出ていない私が一級建築士の資格を初挑戦で取得したり、53種類以上の木組みが出来たり、化粧の棒隅や振れ隅の墨付けが出来たり、こうして構造計算書を作成出来るのだから、やる気があれば誰だって出来ますよ!ガンバレ(^-^)v

それでは、細かい話は次回以降に。


間取りの現実(構造計画から)②

2006年01月22日 | うんちく・小ネタ

さて、前回の続き。前回紹介したような間取りが特別ではないことを紹介しましょう。

上段が2階建ての2階、下段が1階の間取りです。

 今回は都市部でも見られるような規模の住宅ですね。

 

前回同様2階平面図の柱位置を○で囲み、それが1階でどのように載っているかを1階平面図に記入しています。1階図面で○印が1階にも柱が計画されている所、□印が1階には柱が計画されていない所です。斜線/の範囲は2階のバルコニーを図示しています。

 

2階柱43本中、1階直下に1階柱を計画しているものが8本です。上下率≒18.6%ですね。 (・・;)

 

地方と都市部の違いにかかわらず、構造計画に確かな配慮を行って間取りを設計している住宅というのは、残念ながら私の2000棟の構造チェックの経験からでは、少数と言わざるを得ないのが実情です。

 

前回、生意気ながらに申し上げましたように、設計能力が品質合格レベルに到達されていない方が間取りを作成しているのです。私はこれらのような図面をもらう度に、それを描いた”一級建築士”に対して『…だからここに柱が必要なんですよ!』と柱の位置からさえ一から教えていかなければならなかった訳です。

 

間取りがこうも構造計画の配慮を欠いているということは、実際の構造設計となると、もう全く理解していない訳です。これが現実です。

 

国は『住宅の品質確保促進に関する法律』(通称:品確法)を導入して建築基準法を超える品質を持つ住宅の供給を方向付けしたのですが、柱の位置すらまともに設計出来ない設計士に、例えば”壁倍率”ならぬ”床倍率”の概念を持ち出したところで、糠に釘、豆腐にかすがい、のれんに腕押しなんですよね。

 

これだけ無知な設計者が氾濫してしまった最大原因は、教育の不毛なのだと私は思います。

 

木造住宅は日本で一番建てられている建築であるにもかかわらず、大学教育で、まともにカリキュラムに組み込まれていないようです。

 

実際に学生自らが課題で設計した平面図・立面図・断面図といった意匠図から基礎伏せ図・土台伏せ図・1階床伏せ図・二階床伏せ図・小屋伏せ図・矩計図(かなばかりず:断面図を構造図として詳細に描いた図面)・軸組み図といった構造図を描き、それを基に割り箸大の木材を用いて、住宅の構造軸組みを接着剤使用ではあるものの製作している学生というのは、私の知る限り極少数です。

 

私は文化学院という4年制専門学校に学びましたが、それらをカリキュラムとして学習しました。しかしながら大学でそれを行っている学校は極少数のようです。

 

学校で教わらなければ、それが全てのようです、今の人間は。弟子として使って貰い、厳しい修行から体得するなんていうのは、出来ないみたいですね。

 

私の場合、日曜日以外は毎日朝4時半起床で宮大工棟梁の下で使って貰い、技術を”盗み”、現在に至っているのですが、学校では教えないことが本当にたくさんあるのです。また、弟子として使って貰ったからといって、教えてはくれないんですよね。木組み一つ、墨付け一つ教えて貰いませんでした。

 

でもね、だからこそ向上心に駆り立てられていくんですよね。反対に棟梁の立場からすると、学校を出たからといって、実務の右も左も分からないくちばしが黄色い若造相手に、刃物の砥ぎから時間をくれたことに、今この年齢になってみて、本当に感謝しています。『育ててくれたんだなぁ…』と。設計を目指す若い人間も、修行すればいいのに…と私は思うのですが、今、どうなのでしょうか?

 

さて、話が脱線しましたが、構造計画欠如の最大原因が多分これですね。

 日曜日毎に入ってくる新聞の折込チラシです。

 

お好きな間取りでどうぞ』『フリープランでどうぞ』が全てですね。

こういうのを、経済至上合理主義、売れれば正義って言うのでしょう。客のマイホームへの夢をあおるだけあおっておいて、構造上のルールには完全に目をつむる営業手法です。

 

ここで業者のチャッチフレーズの奥の意図を汲み取る気はありませんから、これを信じたとして、建築の素人に間取りという平面計画の設計をさせておいて、平屋建てならともかく、2階建て以上ではまともな構造が出来る訳ないでしょ?

 

『間崩れって何?』という素人やプランナー、設計士が作った間取りが耐震性に富むと考える方が、間違ってますでしょ?今の耐震強度偽装問題は決して他人事ではないのですよ。

 

イラク戦争の日本人人質問題や耐震強度偽装問題で ”自己責任” なる言葉がクローズアップされましたが、これも正にそうで、建築についての知識の無い人間が間取りを考えて(≒設計)しているのだから、いざ大地震時に倒壊して生命と財産を一瞬のうちに奪われたとしても、”自己責任”といわざるを得ないのではないでしょうか。

 

例えば自動車で、『あなたの好きなデザインでどうぞ』と自動車を設計したとして、それが100キロ出た時に走行分解してしまうような自動車を設計したのは誰ならぬあなたなのですよ、といったら分かり易いでしょうか。

 

私は決して建築主である建て主さんの夢を踏みにじろうと苦言を呈しているのではありません。

 

私が言いたいのは、少なくとも建築士法が規定している『木造建築で階数が1または2で高さ13メートル、軒の高さ9メートル以下で面積が100平方メートル以下であれば建築士でなくても設計・工事監理が出来、300平方メートル以下迄であれば木造建築士以上でなければ設計・工事監理が出来ない』ことの遵守です。(というか、この法律も改正の必要があります。現場にいる私は思うのですが…)

 

分かり易く言えば、建築は構造という大変高い専門性をクリアしてこそその間取りや室内外の素晴らしさを担保出来るのであって、そうでなければ、大変危険な凶器にもなってしまうことの現実を直視していただきたいということなのです。

 

過去のブログで私は書きました。『人は大地震で殺されるのではない。大地震によって倒壊する建物によって殺されるのだ』ということを。震災直後の神戸の状況を見た人ならば、心を痛めたはずです。

 

構造というものを熟知した設計者と施工者、伝統大工のことを、そしてその心血を注いだ仕事を信じていただきたいのです。

 

彼らは営業マンではありません。お客様受けするような言葉や対応には不慣れなのですが、出来上がった建物には紛れも無い高い品質が宿っています。それは、世界にも誇れるような、本当に高い品質なのです。


間取りの現実(構造計画から)

2006年01月15日 | うんちく・小ネタ

昨年11月20日付【おっかけ③】で、私は”構造計画”なる用語を使いましたが、今回はそれにまつわるお話。

というか、その時にペンディングしていた『木造2階建てくらいであれば構造計算なんて必要ないんです、構造計画さえまともに出来るのであれば!もっと、比喩的に最上級に簡単に言えば、上階の柱の直下に下階の柱を計画しさえすれば良いんです!それすらも構造計画上意識されていない今の住宅の構造実情を、いつかご紹介しましょう。』のご紹介。

とある現在の木造住宅の間取り(平面設計)の現実です。

 

さて画像。何の変哲もなさそうな、木造軸組み構法2階建て住宅の1階と2階の間取りです。

まず、2階の間取り。

大きなベランダと収納があり、階段ホールも随分広いですね。階段はいわゆる『行って来い階段』の形状で、公庫バリアフリー仕様【階段に係る寸法規定が緩和される場合の曲がり部分(ロ)】を意図したのだと思われるのですが、踊り場と曲がり段の位置関係が逆です。勘違いだと思われます。○で囲った×印が2階の柱で、総数46本あります。/印は耐力壁の箇所つまり筋違いが計画されているところです。

 

 次に、1階の間取り。

都市部のものと比べると、かなり大きな住宅ですね。

書き込みにより少々ゴチャゴチャしているのでよく見て頂きたいのですが、サインペンで太く□印と○印に記入した箇所が2階の柱の位置です。□印が1階に柱のないもの、○印が1階に柱のあるもの。つまり2階間取りの画像で【○で囲った×印である46本の2階柱】が、1階の何処に計画されているかを図示しています。また、右斜めの斜線/が2階のバルコニーの範囲を示しています。要は、2階の間取りが1階でどのように載っているのかを見やすくしている訳です。

 

もうお分かりですね。2階の柱46本中1階直下に1階の柱を計画しているものが何と5本!柱の上下率≒10.9%!!

 

これがとある現在の木造住宅の間取りの現実のひとつです。この10.9%というのは、如実に構造計画の欠如を物語っている数字なんですね。

 

建築士法では木造建築で階数が1または2で高さ13メートル、軒の高さ9メートル以下で面積が100平方メートル以下であれば建築士でなくても設計・工事監理が出来、300平方メートル以下迄であれば木造建築士以上でなければ設計・工事監理が出来ないことになっているのですが、完全に有名無実化していることに行政サイドは早く気づき、手を打って欲しいものです。

 

これで『耐震強度云々…』と言うこと自体、一般木造住宅の設計を大人扱いし過ぎていますよ。

 

規制緩和が時代の趨勢ではありますが、こと木造住宅についていえば、規制を強化する、あるいは正しい構造の知識を設計者・施工者そして建築主に教育していかなければ、いつになっても大地震による数千人単位の犠牲者は無くならないのではないでしょうか。

 

よく、『木造在来構法住宅は、間取りの自由度が他のどの構法よりも高い』というセールストークに出会いますが、それは事の本質を十分に理解したスキルフルな設計者・施工者によって初めてそうなのであって、決して誰でもそうなのではないことを完全に忘れてしまっているように私には思えます。

 

伏せ図(木造の構造設計図面のこと)を作成出来ない設計者(もはやそれは”プランナー”なんですけど)が作る間取りというのは、その間取りを物理的な質量を伴う立体構築物に立ち上げる能力がありません。いつまでも”イメージ”。

 

例えば『階数が二以上の建築物におけるすみ柱又はこれに準ずる柱は、通し柱としなければならない。(続く)』(建築基準法施行令第43条5項)の解釈というか、理念。

 

本来、通し柱とは、間取りである平面計画(X軸とY軸)を高さである断面計画(Z軸)に立ち上げる際に、構造設計をセットで含めて計画しなければ実際の物理現象に対して『絵に描いた餅』になるのですが、事の本質を理解出来ていない方はこの2次元から3次元への変換に訓練されていない上に、構造上の制約というか、ルールを全くご存知ないので、宇宙空間でなければ建たないような建物をイメージしがちなんですね。今回紹介した画像でも、消去法で「あっ、ここが1階と2階の柱が上下でつながるから、通し柱にしよう…」というのでは、本末転倒。

 

私は過去にも記事を書きましたが、2000棟を超える木造在来軸組み構法住宅の構造をチェックして、ダメなものはダメ!そして補強により可能なものは耐震補強の具体例の提案を全国の工務店やビルダーと一緒になって取り組んできた実績があります。

 

2000棟というのはかなりまとまった量でして、決して今回紹介した例は稀ではないという現在の木造住宅の現実を肌身で学習させて貰いました。そして、決して自惚れで申し上げるのではなく、幾年月、私に与えられた時間の全てを費やして木造住宅の品質(設計の品質、施工の品質、そして生産者側の意識の質)の向上に尽力してきました。力不足なところも多々あったろうかと思いますが、至らぬ点については謙虚に教えを乞い、自らが最前線の矢面に立ち、目線を設計・施工の現場の方達と同じ高さにして、日々精進してきました。

 

今回紹介しましたのは、決して無知を攻める為にしたものではなく、『失敗からでなければ人は大きな学習をしない』という私の哲学によるものです。私は消極的なことはしたくありません。そういう意味からも、このブログをご覧になった方にとって、有益になるものを見出してくれたなら幸いと、行ったものです。

 

”間取りを作ることが設計ではない”ということの意味を少しは知って貰えたでしょうか。”設計だけではダメ、施工だけでもダメ、設計も施工も出来なくては良いモノは出来ない”ということの意味も少しは理解して貰えたでしょうか?


しっかり組む②

2006年01月09日 | うんちく・小ネタ

祝・新成人。良いモノつくっていこうぜ!

 

さて、2007年は、宿題になっていた昨年暮れの【しっかり組む①】の続きから始めます。

 

前回①の画像は、クリの天然丸太の頂部、柱頭の木組みの形状でしたが、遡ってよ~っく見て下さい。

 

少し複雑なのですが、『輪なぎ込み』という技法を十字にクロスさせて平板状の『ほぞ』をプラスしています。平角(ひらがく:断面の形状が正長方形の材のこと。ちなみに正方形断面のみ正角:しょうかく、という)である小屋梁を丸太が抱きかかえるように木組みを計画しています。そして『ほぞ』の先端、でべそ(^-^)みたいに、凸状にほぞが二段になって突き出ています。これを『重ほぞ』(じゅうほぞ)といいます。

 

ほぞ(もしくは”ほぞ的なるもの”)の目的と効果は多種多様にあります。伝統の継ぎ手・仕口では、大変重要な耐震要素であり、木の暴れを防止する為の ― つまり接合が経年変化を経ても可能な限り初期の性能や意匠上の精度を維持し続ける為の”計算”を形態化したものの一つです。単に部材相互間の位置決めの為だけに設けられたものではないのですよ。

 

今回の例では、一部位に集中する柱と梁と束の取り合いをどうベストと思われる構造にするか?という命題から、先の木組みを計画した次第なんですね。

 

しかしながら、木造の断面欠損信者にはほぞ不要論を唱える人も少なからずいて、材に応じた木組みの実際もご存知ないのに、と私は冷ややかに思ってしまうのですが、本当に設計者にこうした木組みの実際を見て貰いたいと思っています。

 

鉄骨造のようにスプライスプレートやガセットプレート等を当てがって平面状に高力ボルト接合するようなやり方は、木という素材、それはアクロバチックな超ウルトラ集成大断面材建築でならともかく、住宅には馴染まないですよ。

 

断面算定の構造計算は出来ても、その端部、木と木がどう組まれて、どのように掛かり代があって、その結果どれ位の応力が伝達できるかといった構造計算は、極めて難しいのが現状といえます。

 

それは木組みの方法をほとんどの設計者が知らないからです。もう、絶望的に理解していませんね。私が『木組みも知らないで設計してたら、耐震強度偽装になってしまうかも知れませんよ』と書いたのはその為です。

 

まあ、構造計画なるものは後日のブログに譲るとして、ここでは、木組みの話に限定していえば、『まず初めに金物ありき』とする木造と、そうではないものとでは、同じ木造でも構造が全く異なることに注意が必要です。

 

ということで、【しっかり組む①】の画像が実際に組まれたらどうなっているかをご紹介しましょうね。多くの人にとって、①の画像だけでは訳がわからないでしょ!?

 

 

 

と、こうなると、『なぁ~んだ!』となりますでしょ。(^-^)凸

 

クリの柱の柱頭のほぞを『重ほぞ』としたのは、平角である小屋梁が、ここで十字にクロスしていて、『渡り腮』を計画したからです。

 

内部構造が見えないので理解しにくいと思いますが、『渡り腮』を【かませ+ダボ】として組むためのダボを、『雇い』ではなく、クリの木の柱頭部の加工により一体として計画したものです。

 

つまりクリの木に最初に載ってくる渡り腮の下木には幅3センチ×長さ30センチ×高さ15センチのほぞ、その上に載ってくる渡り腮の上木に幅3センチ×長さ3センチ×高さ3センチのほぞを一体として作っているということ。分かりますか?

 

クロスの『輪薙ぎ込み』で十字の小屋梁を柱でしっかり抱きかかえ、第一段の大きなほぞで下木を拘束、渡り腮で下木と上木を拘束、第二段の重ほぞ先端部凸で下木を貫通させて上木を拘束、そして上木に落ちてくる小屋束を込み栓で拘束させてこの部位の木組みを計画しています。文章に書いても多くの方、それは設計者も含めて訳が分からないかなぁ?

 

ほぞ無用論者にすれば、『そんなことをする必要はない』と煙に巻きたがるのでしょうが、無垢の木とは本来暴れるものなのですよ。その為に構造性能を将来に渡って確保することを第一の目的にして、その暴れを最小限にくいとどめる為には、木は組んでしまうのが最善策なのです。木に暴れてもらっては困るから、集成材を導入したいきさつが、理由の一つに挙げられる始末です。

 

知ってますか?誰もが目にしている障子の細い桟。あれは組まないで置いておくと、暴れ放題 、~状にぐにゃぐにゃになるのですよ。それを建具職人は組むことで木のクセを相殺させ、直線に仕立てあげているのです。凄いでしょ?構造も同じなのですよ。

 

私は現場で、設計者が図面で指示した『作り付け玄関収納の細桟をケヤキで』、という要求に、見事に真っ直ぐに作り終えて嵌め込まれたその建具を見て、正直凄い!と思いました。木を知っている人なら誰でも知っていることなのですが、ケヤキを細く木取ることの暴れ方の凄さは手に負えない位なのです。

 

巷間シックハウスの原因の一つであるベニヤに樹脂化粧シート貼りの作りが席巻してしまっている建具ではありますが、無垢の木を扱える日本の建具職人は凄い技術を持っているんですよ!あまりにも何気なく納まっている為に理解されていないのですが。とても残念です。

 

さて、大黒柱としてこれだけ大きな底面積があるのだから、全体の構造計画で『傾斜復元力』に期待出来る訳で、この柱に大きな荷重を負担させることで、耐震性の向上が計画出来ると思うのですが、この家の場合、意匠上からの大黒柱という側面が大といえるように思います。設計者は私ではないので、はっきりしたことは分かりませんけれども。

 

下の画像はその柱の底部。

墨付け後のものです。土台は12センチ×12センチの断面なので、底面積を推し量ってみて下さい。木口立てとほぞ立ての兼用として墨を付けました。社寺建築のように規則的な正円の丸太ではありませんし、住宅としての機能を反映させなければならないので、芯を寄せています。

 

これだけの仕事をフォークリフトとアシスタント1人を付けて墨付けに一日。工作に場合によりますが2日位です。画像の柱の場合は、工作に3日位かかったように思います。(ちなみにこの数字、相当早い仕事ですよ。大工技能について素人の方はこのブログを見て平気で ”3人工” なんて皮算用のそろばん勘定を弾くのでしょうが、ぶっつけ大工には不可能だし、伝統大工であっても慣れていないと1週間以上はかかるはずですからね。疑うのであればやってみてください。(^-^) )

 

こういう仕事はもう、たいへんなんですよね。

 

そこで建築主の方へ。決して職人の仕事を急がせてはいけませんよ!


しっかり組む①

2005年12月18日 | うんちく・小ネタ

寒いですね~ (>_<)

はっきり言って、大変だったんですよね~、この工作。
もう、手が傷だらけ、アザだらけ、血だらけ、絆創膏だらけになってしまいました (;_;)

私はいっぺん、設計者にノミとノコギリを持たせて、私の手元で実際の大工仕事をやらせたいと思っています。法隆寺や東大寺を初めとする国宝・世界遺産建築の木組みも教えてあげますから、やってみませんか? p(^-^)q  (冗)

これを工作するのに、墨付けまで含めると、丸2日かかりました。”2人工”ですね。全自動プレカットはこんな木を扱えないので、比較しても意味が無いのだけれど、建売規模だと一日に3棟は加工してしまうので、推し量ってみて下さい。

でもね、私は構造で絶対に手を抜きませんよ。 (-”-)

それでは、細かい話は、次回に。


おっかけ③

2005年11月20日 | うんちく・小ネタ

接合部の名称で、【鎌継ぎ】と【金輪継ぎ】を引き合いに出したので、こちらを参考までに。
それぞれいつか、ブログで記事を書いてみます。

さて、今回は、この9寸角の梁の材端部、一階柱とこの梁がどう組まれているかの木組みの紹介。

”おっかけ”は継ぎ手つまり【-接合】であるのに対して、この部位は仕口つまり【T接合】なので、タイトルとはちょっと話題が異なりますけど、ま、9寸角の部材の木組みアラカルトということで。



まず、木口。木の年輪が見える断面を『こぐち』といいますが、画像の木口に光沢が見えますでしょ。これが、何回か前のブログで紹介した、耐久性を出す為に柱の木口に塗った割れ止め・防水剤と同じもので、それが固まったもの。

構造材の中でも柱と梁とでは木材の置かれた環境がかなり異なりますから、それに応じた技術を施す訳ですが、仕口を材端に設ける際には細心の注意を払う必要があるのです。

薪を斧で割ったことがありますか?経験がある方ならすぐにピーンときた事と思います。そう、木は繊維と平行方向のズレを生じさせる加力に一番弱いのです。専門的には『繊維方向のせん断』といいます。この時の力は、斧でいとも簡単に木を真っ二つに割ることが出来る事からも分かるように、大変小さいものです。

杉を柱として木口立てした場合の圧縮許容応力度が1平方センチにつき60㎏に対して、その1/10、何と1平方センチにつき6㎏しか許容応力度が出ないんですよね(-’‘-;)《建築基準法施行令第89条第1項 注:一般の人は新単位であるSI単位だと全くピンと来ないので、あえて旧単位で掲載》

このせん断破壊というのは、一気にスパーンと破壊が起こります。それは最も怖い破壊性状を示す壊れ方なのです。つまり序々に耐力が低下するような壊れ方なのではなく、一気に耐力ゼロまで急降下する壊れ方。木造では、このせん断破壊を発生させないようにすることが大変重要なんですね。その為に木組みの方法、木材の扱い方、そして金物補強が欠かせません。

【木組み】か【金物】かといった”all or nothing”はナンセンスで、必要であれば全てを総動員して耐力と耐久性を確保しなければいけません。ただ、どうしても木組みだけというのであれば、材の”伸び”が確保出来る意匠設計、つまり【T接合】ではなくて【+接合】が伏図で出来ればメドが立つのですが、【T接合】では木組みだけで耐力を出そうとするのは難しいですね。

つまり【+接合】になる【渡り腮】が出来ればいいのだけれど、現在の住宅は外壁がフラットで壁の外に材の”伸び”を出すのが意匠上許されないので、どうしても外壁の胴差しと床梁の仕口は【T接合】にならざるを得ず、金物が必須になる訳です。

古民家等では平気で外壁から飛び出ている梁を見かけることが出来ますが、あれは構造的に【+接合】になるようにしているのですよ。汎用金物がなかった時代の、木造の理に適った木組みになっているんですね。それに、まぁ、大工としては、”蟻”を作るよりも”かませ+ダボ”の方が簡単なんですよねー。♪~( ̄ε ̄)

その様な、木口に近い、大変デリケートに扱うことを要求される部位に1階の柱の上ほぞ(凸)のほぞ穴(凹)をあける訳です。ちなみに、9寸角といった大断面材を下木に、胴差しを上木に伏図をつくる【茶臼】という技法でこの部位を構造設計しています。【茶臼】にしなければ木口近くにほぞ穴をあける必然性はなくなるのですが、そうすると、この9寸角が相手材に対して巨大すぎて荷重の検討から危険側に傾くといった問題が発生するのです。

うーん、今私が書いていることをもし住宅の設計士が読んで、一体どれ位の人が理解出来るのだろうか?

伏図を作成すること、つまり木造の構造設計とは、平たく言えば、『木と木をどう組むか?』ということな訳でして、はっきり申し上げて、現在の住宅の設計は構造設計というか、構造計画の出来ない人だらけなんですよ~(;_;)。

でもね、木造2階建てくらいであれば構造計算なんて必要ないんです、構造計画さえまともに出来るのであれば!もっと、比喩的に最上級に簡単に言えば、上階の柱の直下に下階の柱を計画しさえすれば良いんです!それすらも構造計画上意識されていない今の住宅の構造実情を、いつかご紹介しましょう。

私は2000棟を超える住宅の間取りと構造チェックをしてきた実績から、背筋が凍るような気持ちで、今の無知な木造建築の現実を嘆かわしく思っています。生意気な事を申し上げるようですが、何とかしてあげたいんですけどね…

話を材端付近の仕口の木組みに戻しますが、そういうことで、梁の材端に割れが生じにくくする為に画像の割れ止め剤を私は塗るのです。

そして、ほぞ穴にも注意して見て下さい。正四角形ではないでしょ。実は台形をしています。これを【扇ほぞ】といいます。こうすることでほぞが蟻状になり、割れ止め剤と合わせて、木口に近い部位で発生し易い【せん断破壊】を起こしにくく木組みを作っているのです。

伝統の木組みは芸が細かいんですね。伝統大工は見えない所でここまで配慮して家作りをしているのです。全自動構造材プレカットは9寸角はもちろんですが、茶臼、おっかけ、渡り腮、扇ほぞ、木口の割れ止め剤、と、紹介してきた全てに対応出来ていません。

適材適所と適切な技術が組み合わされたものでなければ、木造の理に適うことは出来ません。理に適わないことをすれば何処かに歪みが現われて、何かに不具合が発生するのが自然の摂理というものです。

理に適う納まりを学習することの難しさは、設計士が実際の重くて長くて太くてクセのある木材に対して身体を張ってさしがねと玄翁と鑿とで対峙することが無いのだから、どうしようもありませんね。

CADで簡単に指先だけで修正出来てしまう設計士には、だから生きた技術というものは宿りません。幅12センチ×高さ30センチ×長さ3.64メートルの梁を持ったことも無い人が設計すること自体、何か負の連鎖で、これからもますます木造の理からかけ離れていくものといえます。

それに「木組み、木組み」と言うけれど、グリーン材(未乾燥材)でいくら【鎌継ぎ】よりも耐力の出る【おっかけ】をしたところで、材自体が2年も経てば5~6ミリは確実に痩せるのだから、本末転倒ですよ。

設計士として基本がなっていない人達や会社組織が多すぎる。「台持ち継ぎを跳ね出してやってくれ」とか、「跳ね出し梁を出1に対してふところ1の割合、しかもその間隔が2間」とかいった具合に。木造の基本も分からない設計士が多すぎますね。

まぁ、今や本当に大切な構造の技術は完全に後ろに引っ込んでしまって、「営業」や「プランナー」やら「インテリアコーディネーター」とかいった客受けする方達が建築主と設計関連の仕事を進めていく訳だから、どうしようもないですね。人間心理として、華やかで見栄えのする設備や内装・外装の仕様にどうしても眼がいきますよ。

ですけど、今問題の構造設計の耐震設計偽造事件ではないですが、日本は地震、台風の国なんですね。まずはじめに構造ありき、という考えを是非建築主の方に持っていただきたいと思います。設備は10年もすればボロボロにくたびれていますが、取替えが容易です。しかし構造がもしボロボロであれば、どうですか?即、あなたの生命と財産が一瞬のうちに地震に奪われるかも知れないのですよ。

『自宅を木造で』とお考えの方には、木造をもっとご覧になって、知って頂きたいと思います。
私もまだまだ精進して、もっともっと勉強です。

おっかけ③終り


おっかけ②

2005年11月07日 | うんちく・小ネタ

【おっかけその②】は、工作前の、木材に墨付けをした状態の画像を紹介しましょう。
珍しいですよ。伝統大工以外の人には何が何だか分からないと思いますが(^_^)



無垢の木は、生物材料としての特性が至る所でそれを扱う職人の前に問題を突きつけてくるものです。『適材適所』と、簡単には言いますが、それが自然と不作為を醸し出せるまでに納まっている状態にもっていける技術は、かなりハイレベルなものと言えます。

私などはまだまだ発展途上で、勉強の至らぬ点ばかりですが、それでも私の技能と知識を総動員して、部材と対決して格闘しながら、耐震性だけでなく、時間(歴史)という評価に対しても決して恥ずかしくない仕事を心掛けている毎日です。

画像は【おっかけその①】の、9寸角(27センチ×27センチ)の7メートルの杉の墨付けした木材。木組みの本やHPでよく見る完成後の状態と比べて、『はぁ?』という感じでしょう?この墨付けが大変難しい訳です。

何が難しいかといえば、【総合的な見地】に立たねばならないからです。総合的な見地といえば、思いつくままに…木の性質、木目、木の繊維、材面の美しさ、構造力学、木材の乾燥の度合い、材の割れの具合、木材の背と腹、最適な木組みの選択、最適な金物補強の選択、木の元と末とその継ぎ方(元と元、元と末、末と末)、相手材との関係…等々。

大工といっても全自動構造材プレカットしか経験がない人では、実際に墨付けをして工作をしている人からすると、同じ大工といってもその技能・知識量は雲泥の差があります。

素人の人は『大工』といえば全員、私が作る位の木組みの種類をいとも簡単に作るもの、と思っているようです。(ちなみに私は3年程前で51点の木組み模型を作って実際の建築に応用していますが、私の妻はそれ位大工なら誰でも出来るもの思っていますσ(^_^;)? ま、いっか。

私が自身のHPで『伝統大工』という表現を用いているのは、その違いを言いたいのです。

木造は、これからの日本を背負って立つハイテク産業ではなくて、今やローテク産業ではありますが、人々の暮らしの基本である『衣食住』の住分野を担う、個人の資産としてはもちろんのこと、社会資本としてもとても大切なものでもある訳です。

その質、耐震性と耐久性を向上させることで、”平均寿命26年”という使い捨て住宅のローンに追われて一生を終えるような人生とは違う人生も可能であることを、【住まい】という観点から私は提案したいのです。

その為には、こと木造住宅について言えば木造を知りぬいた設計と、実際に形にする大工が『伝統大工』でなければ、絶対に出来ません。それは現場に張り付いて観察してみれば嫌というほど良く理解できます。

基礎工事以前の土工事で、根切りして出た掘削土の処理をコストダウンの名の下にいったいどのように実際に処分しているのか。それ以前に、根切りすら行わないで基礎工事をしてしまう工務店や建設会社があるという現実!『凍結深度って何?』ですからね。彼らにとって、”根切り”とは、”値切り”であるというのが実態。

それに基礎工事で水セメント比を的確に管理(監理)できる施工管理者・設計者がいったい木造住宅の基礎工事現場にどれだけいるか。設計で伏図が書けない、つまり構造設計の出来ない一級建築士が設計事務所の意匠だけで押し切ってしまう木造住宅の数の甚大さ。

また、N釘とFN釘の違いも勉強せず、安いからといってFN釘を間隔も規定以上に大きくして釘さえもケチろうとする途方も無い数のぶっつけ大工。国土交通省の認定書まで偽造して所定の強度が出ていると捏造して売り込もうとする木ねじ業者や『建設省認定耐震強度4倍』などとこれまた構造性能を捏造してまで営業パンフレットを作成し、販売至上主義に没頭する某住宅メーカー。

性能値をさもありなんと羅列してその効果が見込めると導入したにもかかわらず全く効果が得られなかった太陽熱を利用した設備品をパブリシティ本まで出版して全国展開で売り込む業者等々…

現代主流の大量消費社会、売れれば正義といった価値観で動いている今の日本で、こと木造住宅では真に伝統構法を理解出来る設計士と大工を養成しなければ、日本の住宅は絶対に良くはなりません。私は断言します。

さて、話題を墨付けの木材に戻しましょう。この材の墨付けをしたのは私ですが、以上のことから、考えられることは全て墨付けに反映させました。

この材は人工乾燥を掛けたのですが、【末】つまり木が立ち木の状態の時の先端側に、ご覧の目割れが入っていました。継ぎ手は【元】と【元】つまり木の根っこ側同士を継ぐのを『別れ継ぎ』、【元】と【末】を継ぐのを『送り継ぎ』、【末】と【末】を『行合い継ぎ』と言いますが、一番玉の【元】は生物材料としてアテの出易い部位であり、『アテに当たれば目もアテられない』(笑)からか、出来れば避けたい継ぎ方です。

何しろアテの内部応力といったら、物凄いクセで、私は一度、ヒバの2寸×3寸(6センチ×9センチ)位だったと記憶しているのですが、軒反りのある化粧隅木への配付け垂木として工作後、取り付けまでしばらく日数が経っていたのを倉庫から引っ張り出して見てみると、真っ二つに割れて”タコウインナー(^3^)”のようにギュイーンと曲がって使い物にならなくなっていたのを体験したことがあります。その時は『?』だったのですが、今思うとアテ材だったのだと理解しています。木のクセって、本当に凄いものなのですよ。怖い位です。

画像の白いチョークは材の割れを墨付けに反映させる為にマーキングしたものですが、私の過去の記憶も引っ張り出してきて、これらの割れが工作後の木組みで強度に悪影響を絶対に及ばせてはならないと、墨を付ける訳です。もちろん材の化粧面にも配慮します。【元】【末】にも。そして選択可能な木組みの種類から今回は【追っ掛け大栓継ぎ】に決定した訳です。

私はよほどでない限りは【おっかけ】か【金輪継ぎ】かを選択します。中でも【おっかけ】は仕様規定で金物補強の必要の無い木組みなので、現場検査でノーチェックなのは木組みをご存知無い技術者や検査官には面倒がありませんね。

反面、メチを組んで、【おっかけ】よりも接合面の凸凹が経年変化でも出にくい【金輪継ぎ】は最低基準である建築基準法はもちろんですが、仕様規定に記載されていないので、強度的にはほぼ同等なのに構造計算が必要になるという、建築基準法の低レベルに合わせた仕様から漏れただけで超面倒な構造計算が必要になってしまうといった法整備の弊害がありますね。

【鎌継ぎ】よりはるかに強度も出て経年変化でも圧倒的に性能低下が起きないにもかかわらず、面倒な書類の提出をしないといけないなんて…  

何か、おかしいですよね。要は大量生産を前提にしてしまうと、イイモノは法のネットからスル~っとこぼれ落ちてしまうということなのです。

接合部についていえば、耐力は木組みか金物かどちらかの最大値で決定されるのだから,例えば鎌継ぎは木組みをやめてしまって、【両面プレート金物ボルト締め】仕様にしてしまうのもあり得る訳です。そうすれば更に簡素になって手間もかからずコストダウンが出来るのだから、いっそのこと、ツーバイ化するのも一つの木造住宅のあり方といえます。耐用年数さえ考慮しなければ…といえると思いますが。

つづく


おっかけ①

2005年10月23日 | うんちく・小ネタ

超ハードワークと歯の痛みで、一週休み明けの今回は、木組みのお話。

画像は【追っ掛け大栓継ぎ】-おっかけだいせんつぎ-という技法で、大工は『おっかけ』と呼びます。
この木材の寸法は9寸角、つまり27センチx27センチの断面で、長さが7メートルあります。

樹種は杉。大黒柱で使うような寸法ですが、依頼先の設計事務所で2階床梁として使うとのことで、特注材ですね。
接合箇所が2箇所あり、総全長14メートルの連続した9寸角の構造材になります。

木造ではT接合を【仕口】、-接合を【継ぎ手】といいますが、『おっかけ』は継ぎ手で用いる技法です。木組みでは最もポピュラーな技法の一つといえます。

ですが、全自動構造材プレカットでは採用されていない技法で、単発機で追っ掛け加工機があるものの大変少数らしく、ほぼ大工が手仕事で墨付けと工作を行っている木組みといえるようです。

こんな巨大な梁、全自動でなんか、対応出来ないよねぇ…(-_-;



ちなみに全自動構造材プレカットでは【腰掛け鎌継ぎ】-こしかけかまつぎ-という技法を採用していて、金物による補強が必須の木組みです。

《上木先端部が受材芯より150mm内外になるように、下木を持ち出し上端をそろえ、腰掛けかま継ぎとし、短ざく金物両面当て、六角ボルト締め釘打ちとする。》の仕様規定が設けられている【腰掛け鎌継ぎ】に対し、【追っ掛け大栓継ぎ】は金物補強の規定がありません。大地震時、接合部を破壊しようとする力に対して、『おっかけ』は十分な強度があるからです。

【腰掛け鎌継ぎ】に比べて手間がかかる分、強度はかなり出るので、耐震性・耐久性の高い住まいをご希望の方にはお勧めです。こと、耐久性についていえば、梁で通常使用で杉9寸角の【追っ掛け大栓継ぎ】は、まず300年はもちますから。(笑)

次回につづく