額縁の中に豊かに拡がる交響詩、ピクチャーウインドウ。
ここまで美しいと、止観の為の窓ですね。 感じ、観じます。
建築からの眺めを遠近法的に立体構成させる設計手法を、借景といいます。
部屋内外の明度対比、屋外樹々の葉による陰翳、パースペクティヴ効果、素晴らしい!
風景を窓で切り取る事で、余韻が豊かな残響音を取り込み、豊穣の交響詩を響き出しています。
ウイーン・フィルハーモニーの奏でる音色を、絵画にしたような。
しかも肌に心地良く、優しいほのかな風が、建物内を通り抜けています。
人の五感とはこの様な環境からより多くを学習して、感じ取っていくものだと思うのです。
この窓、現在主流の工業製品の鋼製建具(アルミや樹脂サッシ)ではありません。
建具職人による木製建具。大工職人による敷居・鴨居・窓枠製作。私は懐かしい。
建物は《イタリア大使館別荘記念公園(HPはこちら)》
設計者はアントニン・レーモンド(1888~1976)。1928年(昭和3年)創建 木造。
【感性が澄んでいく。心地いいなぁ、ずーっと居たいなぁ、と思う。②】(2024年6月19日記事)
1階居間からの眺め。湖面は中禅寺湖。
電球色壁掛照明、室内外の明度対比、陰翳、連続感、高さ感覚、そしてヒューマンスケール。
何て素敵な設計なのだろう!
湖岸の木製デッキはヨットの桟橋。湖面にすぐに下りて行ける高低差と距離。
昭和初期、自動車の普及以前は、ここでは舟が生活の移動手段だったようです。
建物出隅部。
現在の住宅と異なり、【シェルター】感が突出していません。私はとても好き。
ここでは、美しいピアニッシモやニュアンスを聴き分けられると思います。例えば、
Schubert : Piano Sonata No.21 D.960 Wilhelm Kempff(Pf)
第二楽章『…それは神秘的な湖上にこだましている弔いの鐘の音のようであり、
聞いているうちに時間と空間が溶け合ってしまうような音である。…』解説者石井宏氏。
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さて、別の建築のピクチャーウインドウ。
「夏には外務省は日光に移る」の先鞭をつけた、奥日光中禅寺湖畔初の外国大使館別荘建築。
《イギリス大使館別荘記念公園(HPはこちら)》
建築主はアーネスト・サトウ(1843~1929)。1896年(明治29年)創建 木造
外交官だった彼の個人別荘だったのを、後年英国大使館別荘として使ってきた経緯との事。
湖面とテラスに8.5mの高低差があり、眺望もそれを考えて設計されているそうです。
【旧英国大使館別荘整備基本計画ー栃木県】pdfはこちら。
1階。透明ガラスに ”ゆらぎ” があるのが分かりますか?
現在の大量生産工業化ガラス製法ではもう作れない、味のあるレトロガラス。
修復には、手仕事である吹きガラス製法で、このゆらぎガラスを作ったそうです。bravo!
2階。美術館で鑑賞する【絵画】のような印象のピクチャーウインドウ。
切り取られた風景の絵画的美しさ。18世紀英国のピクチャレスクの感性なのでしょうか。
2階。大使の部屋(居室)。現在のしつらえに通じるモダニズム意匠。
眺望が開ける広縁とは、敢えて明瞭に連続させない為に間仕切りの壁面を作るデザイン。
プライバシー重視設計のピクチャーウインドウだったのですね。
Beethoven : Sonate für Klavier Nr.14 "Sonata quasi una fantasia"
(Mondscheinsonate) cis-moll Op.27-2 Wilhelm Backhaus (Klavier)
「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう」を、ここでの月夜の湖面に感じるのでは。
或いは、Debussy : clair de lune(suite Bergamasque Ⅲ)。
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