心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

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建物倒壊の動画(E-Defense)

2012年06月30日 | 日記・エッセイ・コラム

大工仕事の次は設計仕事。


前々回記事【木組みによる隅木②捻組と渡腮で、

『住宅販売会社はカタログや営業トークで美辞麗句を並べたらダメですよ
(それでも、お客さんは構造の事を理解出来ないから、騙されてしまうのでしょうけどネ)』

としたためましたが、【住宅倒壊の現実】(Google画像検索より)を見て下さい。


人は地震によってではなくて、地震によって倒壊する建物等によって生命を奪われるのです。
設計者、施工者、営業マン、経営者、お施主様、そしてもちろん私も含めて、皆さまもっともっと勉強しましょう。


お施主様も、床やクロスの傷も気になるでしょうが、構造の方がもっと大切だと思いますヨ。
生命にかかわる事ですからネ。


独立行政法人防災科学技術研究所・兵庫耐震工学センター
実大三次元振動破壊実験施設E-Defenseによる【実大実験の動画です。

YouTube: 在来木造住宅震動台実験




YouTube: 20091027 edefence





いずれも模型ではありません。実物大建物による三次元振動破壊実験です。


 だから、カタログや営業トークで美辞麗句を並べるのは止めましょうネ
しっかりした設計をして、しっかりした施工をして、しっかりしたメンテナンスを行えばGood


…だけど、
間取りの現実(構造計画から)2006.01.15
間取りの現実(構造計画から)②2006.01.22  だしなぁ~ 


設計士も名ばかりで、【許容応力度設計すらも出来ない1級建築士だらけだしなぁ~ 


しっかりした設計の出来る木造建築の構造を熟知した設計士、伝統大工、本当に数が少ないのです。その少なさたるや絶滅危惧野生動物並み。Nipponia nipponになってしまったりして。


家を建てて貰うには、仕事に嘘の無い、真摯で正直な人達に依頼するのが良いと思います。


追伸:EURO2012決勝はスペインVSイタリアになりましたね。7月1日が決勝戦。
     スペイン、EURO史上初の連覇かな?それとも1968年以来のイタリア優勝かな?


マウリッツハイス美術館展

2012年06月29日 | 日記・エッセイ・コラム
オランダ・マウリッツハイス美術館展
17世紀オランダ、フランドル絵画の珠玉のコレクション展。
2012年6月30日(土) いよいよ明日。東京都美術館。

Photo_5


フェルメール真珠の耳飾りの少女】がやって来るのですね。

Photo_4


あの ”フェルメール・ブルー” が見られる!


陰翳がまた素晴らしい。


ホンモノを鑑賞に行こうと思います。


木組みによる隅木②捻組と渡腮

2012年06月25日 | 日記・エッセイ・コラム

設計仕事の次は大工仕事。
木組みによる隅木(隅木の金輪継ぎも)2012.06.07の続編。


私に付いて3年程修行していた20代前半の若者による墨付け&刻みの紹介。
画像左上の右側がその彼。ガッツがあり、勉強熱心で、素直で、たいへんな努力家でした。


彼は建築未経験から3年未満で建築大工1級技能士同等のスキルを身に付けました。
ノーミスでしたヨ。素晴らしい

 

 

 

 

小屋梁の接合は全自動プレカットだとL字型。ここでは全て木組みだけで構造強度を出す為、+字型に。その部位に隅木と柱を加えた4部材を【捻組渡腮+”重ほぞ” : しかも隅木まで差さるダボ方式】としてあります。これ以上申し分無しの200年住宅の為の木組み。

 

ちなみに、木組み(捻組と渡腮)によらない場合と比べてみたのが下の画像。

 全自動プレカット工場仕様

 

 

伝統大工仕様

 

 

宮大工仕様


正確には上段が全自動プレカット工場の生産ラインとそこに常駐する大工によるハイブリッド手加工仕様(生産ラインだけではそもそも加工不可)、中段が伝統大工仕様、下段が法隆寺五重塔三重部分の宮大工仕様(超お宝画像)。


    
伝統大工仕様と法隆寺五重塔宮大工仕様は”重ほぞ”が無いだけで、あとは同じ渡腮なのが分かりますか?捻組は組んでしまうと分からなくなってしまうのが残念。注目は受ける側の木の欠損量の違い。上段の画像、全自動プレカット工場仕様の材は欠損量が大き過ぎて、危険なのですよ。アウトですね

 

中段と下段の画像は、金物に頼らない木組みの構造耐久性能が200年を遥かに凌ぐ事の証明。


ここで注意しなければならないのは、捻組と渡腮を回避してしまうと木の性質上、先端部が欠損してしまう事。つまりネ、一瞬で強度ゼロになる脆性破壊が発生してしまうのだ。

破壊が起こった画像が下。




受ける側の水平材の先端部分が欠損して無くなっています。専門用語で言う”剪断(せんだん)破壊”を起こしたのです。それは一瞬にして木組みによる強度がゼロになってしまった事を意味します。


この剪断破壊を発生させない為には、木組み部の凸凹の欠損量を調整して、一見無駄とも思える木組み部から先の”伸びしろ”部分を多く残す以外に方法無し。


隅木の捻組と渡腮は、この欠損量を調整して、剪断破壊するのを防ぐ為の木組みです。
ぶっつけ仕事をしない、本物の伝統大工にしか出来ない木組みなのです。


”なんちゃって木組み” や ”なんちゃって伝統大工” って、結構あるのですよ~
しかしながら、刻みはともかく、墨付け出来る伝統大工が実は絶滅寸前。


なぜなら、大量生産型住宅では最初から木組みを放棄して、下の画像の様に金物に頼って、ぶっつければ済むから。構造が見えないって、そういう事。お客さんは床の傷には神経質なのだけれど、生命にかかわる構造の事はわからないからネ。

 

 

素人の方やプランナーは理解出来ないのだけれど、伝統大工による木組み式と、全自動プレカット式とでは、強度性能・耐久性能共に木組み式が圧勝です。

 

ちなみに、全自動プレカット式の ”金物補強” は、某ハウスメーカーの物件で監理として建て方に立ち会っていた私の現場指示で施工して貰って、監理写真として記録したもの。私がその某ハウスメーカーにお世話になる迄、その会社では施工マニュアルにも記載が無かった程度のレベル。残念ながら、それが木造住宅の現実です。

 

 

 さて、下の画像で、全自動プレカット式では母屋が既に剪断破壊しているのがわかりますか?

母屋と隅木との金物補強も無し。それに比べ、伝統大工式では”伸びしろ”を15cm以上確保した上で、補強の為、確実に羽子板ボルトでも引いています。見る角度が異なるから、分かりにくいかな?


全自動プレカット工場式

 

 

伝統大工式

 

 

200年住宅を本気で制度化して作ろうと思うなら、設計士も大工も勉強しなければダメだよネ 


住宅販売会社はカタログや営業トークで美辞麗句を並べたらダメですよ。
(それでも、お客さんは構造の事を理解出来ないから、騙されてしまうのでしょうけどネ)


木組みによる隅木の渡腮や捻組の墨付けと刻みが出来る大工は、本物の伝統大工。
仕事に嘘は無く正直なので、家を建てる依頼をすべき人間です。


これからEURO2012 準々決勝イングランドVSイタリアをTV観戦です。

 

 

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【追記 2024年3月17日】

比較の為、建売住宅の隅木を掲載しておきます。一目瞭然。

 

日本で一番施工棟数が多いといわれるパワービルダーの施工現場。

部位は隅木と棟木の接合箇所。プレカット加工。

それにしても見事なまでの建売的施工

かすがい金物が施工されているだけマシですが。

 

但しかすがいの使い方が適切ではありません。

材の上端に打っているのが×。アウト。

 

下の画像が、国が指導するこの様な部位での適切な使い方。

《写真でみる接合金物の使い方》(材)日本住宅・木材技術センター刊より。

材の上端の表現は何処にもありません。

 

かすがいは『材が割れないよう』との文言が最も重要です。

材の割裂破壊=脆性破壊=強度が一瞬でゼロになる破壊だから。

 

それに、かすがいは強度最低金物なんですよね。

 

短期許容耐力はべいまつ類で1.27kN、べいつが類で1.18kN、すぎ類で1.08kN。

《平成12年建設省告示第1460号に対応した木造住宅接合金物の使い方》

(財)日本住宅・木材技術センター刊による。

 

N値計算では、N=0以下の部位にしか使えない最低耐力金物です。

金物補強といっても、最低の補強にしかならない訳です。

 

この様な屋根に条例で『太陽光発電パネルを載せろ!』

というのは、ちょっとマズイでしょ?

 

という訳で、再度。

『200年住宅を本気で制度化して作ろうと思うなら、設計士も大工も勉強しなければダメだよネ  』

『住宅販売会社はカタログや営業トークで美辞麗句を並べたらダメですよ。 』


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初めての建築設計

2012年06月23日 | 日記・エッセイ・コラム

大工仕事の次は設計仕事。

私が生まれて初めて設計した小住宅の紹介。

 




19歳の時、今からおよそ29年前。
東京・御茶ノ水の文化学院建築科学生時代、最初の課題でした。


荒井先生、鈴木先生、竹内先生、溝口先生(五十音順)、ご指導ありがとうございました。


私の建築設計の原点、初心です。


ここにあるのは学校で建築を勉強する以前に私が抱いていた建築のありよう。
この時、ロジックとしての設計をした訳ではありませんので。
つまり【私の原風景のひとつひとつずつを丁寧に紡いだもの。


パソコンやCADの無かった当時、製図板+T定規+三角定規で全て手描き。”カラス口”なる
”ロットリング”で墨入れした図面。厚手のトレーシングペーパーでのプレゼンテーション。
その図面は今も大切に保管してあります。


ここで、建築と環境とが溶け合う様にと、渾然一体とした空間を考えている点は、
この設計第1作品から今も、全くぶれていないと自負しています。


いわば、四季と寄り添う住まいのコンセプト設計例。

 


 

例えば、晩春|小津安二郎 (YouTubeから)

晩春】小津安二郎監督作品1949年(昭和24年)松竹。


京都龍安寺 方丈での笠智衆さんと三島雅夫さんの語らい(1:28:43頃~1:30:27頃)、
良いと思いませんか?音楽も。 私は大好きです、このシーン。


それに原節子さんをはじめ、俳優の皆さんの話す日本語がとても美しい。


今から63年前の映画ですけど、油土塀の瓦を檜皮に葺替えた以外、現在も龍安寺は何一つ変わらない当時のまま。この”変わらない”という事が、日本では出来ないのですよね。


平均寿命26年住宅の街並みを何の問題意識も無く作り続けている以上、
こういうシーンを見て実際に龍安寺を訪れたとしても、何の感動も覚えないのではないか?


私は、私の3人の子供達に人生の機微というか、ピアニッシモの美しさとでもいうか、そういったものを感じる(観じる)事が出来る様な人間になる様に、育んであげたいと思っています。


【晩春】は過去記事【豊かな住まいについて2007.04.15で取り上げています。


『設計とはパーツを機械的にコーディネートすることではなく、計算では出てこない人間の生活とか、住まう人の心理を寸法によって表すことであると私は考えています。』


釘を使わない大工さんの木組み展・伊豆高原会場で、見に来られていた伝統大工の人から『この仕事やらせて欲しい』と言われた時は、嬉しかったなぁ。


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枝付磨き丸太と仮組み

2012年06月18日 | うんちく・小ネタ

設計仕事の次は大工仕事。

2012.05.30やわらかな建築・私が残したいものでの、『8年間、のべ320棟もの私の実体験』のひとつ。

 

まずは、通常の磨き丸太の通し大黒柱。


玄翁と鑿で加工しているのが私。


玄翁は幸三郎、叩き鑿は清久を使っています。

 

設計をする大工、大工をする設計士。かつての”棟梁スタイル”ですね。

 

特命で時間を貰えれば全ての接合部を木組みだけで作るのですが、
標準では2階床梁の差さる部位は大入れ+短ほぞ+接合金物使用で作ります。

 

実物仮組みは一切行いません。そもそも仮組みとは間違えていないかの実物確認作業なので。
『8年間、のべ320棟もの私の実体験』で、ほぼノーミス、ノークレームでしたヨ。(^^ゞ

 

調子良い時、私はおよそ墨付け開始から刻み修了迄2日~2.5日(関連材を含む)です。しかも現場で微調整も必要無い精度で私は仕上げます。接合部に隙間は無し

 

仮組みについては、私が師事した棟梁は否定的でした。
私もその考えを踏襲しています。

 

WARNING!)  私が具体的数字を掲載する事で、特に大工技能に無知な木造建築業界内の人々の『捕らぬ狸の皮算用』に、私は同乗・提携するつもりは毛頭ありません。高い技能を保持する職人に対する正当な評価を社会に啓発していきたい為に、私は記事を書いています。

 

人間とは自分に都合良く考える性質があるものだけれど、まあ、私の褌で勝手に相撲を取りたがる輩の何と多い事!  私からは一言です 『やれるものなら、やってみなさい』 (^-^)/ ★

 

 

話しを戻して、例えば水盤舎(手水舎)。
私が見習いの頃に勉強させていただいた建築です。




【四方転び】といって、4本の柱を内側に転ばせる(傾倒させる)事で、筋違い(すじかい)が無くても自立する伝統建築構法。全て木組み、小屋には桔木も入れ、柱を直接礎石に建てる木口建て【石場建てのこの小規模建築でさえ、棟梁は一切仮組みを行いませんでした。しかも現場対応一切無し。


『腕の良い大工は仮組みしない。一度組んでしまうとその分接合が甘くなる。時間も無駄だ。』と。また、『東大寺大仏殿の様な大きな建築では仮組み出来ないだろう?なのに何で小さな建築で仮組みするんだ?』と。


注):この水盤舎、風圧力対策で見えない様に補強ボルトを仕込んであります。私が師事した棟梁は、単なるファナティックな伝統構法主義者ではなく、現代の構造力学を見越した現代棟梁でした。


コストダウンの為には、仮組みしない方が短工期で済みます。


だから、私もお施主様に余計なコストをかけない様、師事した棟梁に習って仮組みしません。
私なりのミス撲滅作戦を実行する事で、それが可能になります。


ちなみに”棟梁スタイル”つまり設計をする大工・大工をする設計士のスタイル、
残念ながら現在の東京首都圏ではほぼ絶滅、伝統大工も絶滅寸前だと思います。


何しろ20代前半で人の3倍努力して建築大工1級技能士同等のスキルを自分のモノにした若者が、大工そのものを辞めてしまう時代。
木組みによる隅木(隅木の金輪継ぎも)~~~~~~以下】。


もはや優秀な人間にとっては、魅力ある職業ではなくなってしまった。
だから、世襲以外の優秀な若者がやって来ないし、来たとしても去って行く。
この業界も今はジバン・カンバン・カバンが無いと、自立出来ない膠着した体質です。


『お施主様の喜ぶ顔が見られて好きな事が出来て飯が食えて私は幸せ者です』
上棟式後の宴会である直会(なおらい)で、棟梁がお施主様と語り合っていたのを昨日の事のように思い出します。


下の画像は私が見習いの頃、およそ20年程前。4段目右の画像で後列右から3人目が私。

 

 

 

 

 


自分が設計した家を仲間と共に自分の手で作って建てて、自己実現が出来て。
人さま並みの生活が出来て、高度成長時代であれば工務店も開業出来て、将来性があって。
だから、かつては優秀な方が大工を志したのだと思います。(私は優秀ではありませんが)


タイトルから最初の画像の私、右足に包帯を巻いてサンダルで仕事をしています。
2012.06.07木組みによる隅木(隅木による金輪継ぎも記事で、『労働環境が劣悪の1コマ。
フォークリフトの爪が足に落下する大怪我事故に遭い、松葉杖後で靴が履けないまま仕事に戻らざるを得なかった為です。無免許運転を強いる、救急車を呼ばない事業所でした。


何をかいわんや、である。

 

 


 

さて、【枝付磨き丸太

 

 

 

 

  
埼玉の毛呂山の幼稚園の通し大黒柱だったように記憶しています。
実はもう1本同じ枝付磨き丸太があり、枝付磨き丸太ツインタワー幼稚園です。


ただし設計者は私ではなく、現場仕事も担当していませんので、竣工後の画像はありません。


手間が掛かりましたが、墨付け開始から刻み終了まで約3日/本。2本で1週間程。
他にも磨き丸太の桁、柱、特殊な材料、木組みと、もう何でもありの”構造材プレカット”。


工期に間に合わせる為に外注した縁桁関連以外の墨付けと刻みの全てを、私一人で行いました。現場の大工さん達は組み立てるだけ。


”埼玉版数寄屋建築”ですね、ここまでくると。


2012.05.30やわらかな建築・私が残したいもので、『埼玉ではゴツゴツした木太い原木丸太をそのまま表わしとする様な豪快で武骨なデザインが多く、木割りの細い『綺麗数寄』と呼ばれる様な瀟洒で繊細な意匠はデザインされないように思います。』の、ひとつの印象。


設計者は【上高地の大正池の幻想的な光景】(Google画像検索より)をイメージしたのでしょうか、
それとも、【立ち枯れの木の神秘】(Google画像検索より)をイメージしたのでしょうか。


立木の状態に近い使い方をする事で、生命の尊さを表現したかったのかも知れませんね。
それともただ単なるデザインだったりして。


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景観法はウイルス対策のワクチン

2012年06月16日 | 日記・エッセイ・コラム

前回記事【開放的な間取りのヒント2012.06.12】の【京都鴨川の納涼床】画像を見て
景観を守る為の市民の取り組みを知りました。

 

 

 

やはり”市民会議”なる条例を制定しないと、景観は守れないようですね。


ニュータウンやベッドタウンではお寒い限りではありますが、
私は景観法に基づく建築規制に賛成です。


世界の建築から② ギリシャ・ロドス島リンドス2006.04.15
屋並み・街並み2006.05.28広場の造形2006.06.05でしたためていますが、
調和のある美しい街並みが、ウイルスに感染しないでいて欲しい。


さしずめ、景観法はウイルス対策のワクチンといったところでしょうか。
遅きに失した感は確かにありますが、良い法律を制定したと思います。


追伸:ただし記者によると、ここでも縦割り行政の弊害があるとか。
    主導権を取りたがるのは人間の性(さが)なのでしょうか。


開放的な間取りのヒント

2012年06月11日 | うんちく・小ネタ

京都鴨川の納涼床】に見る開放的な間取りのヒント。大工仕事の次は設計仕事。


前々回記事【やわらかな建築・私が残したいもの】での立面図。上段左・東、上段右・北、下段左・西、下段右・南。

 

平面図があると理解し易いのだけれど、プライバシーの問題から掲載していません。
立面図だけで想像出来ますか?この住宅の敷地は北側道路。なのでファサードは北立面図、上段右の画像がそれです。


京都鴨川の納涼床】(Google画像検索より)の画像とこうして比べてみると、どことなく似ていますね。

 

北側車庫の階上をバルコニーデッキにして、室内と段差の無いバリアフリー床で連続させてあります。更に西側には完全に屋根が架かったルーフバルコニーデッキ、南側には1mの軒の出の下に納まるようにバルコニーデッキ。いずれも室内床とは段差の無いバリアフリー床として設計。


つまり、2階は室内の居室から北・西・南側の3方向にデッキを張り出して、空間の広がりを持たせてあります。


私が提案する【2006.05.21坪庭のすすめ】のバリエーション。つまり、これらデッキ群は空中庭園的空間。あくまで建築を外部環境と有機的に関連付けしたい発想から計画しました。建ぺい率の有効利用といった消極的発想からこのデッキ群を計画しているのではないのです。


こうする事で、とても大きな開放感が生まれ、通風が期待出来る間取り・空間を計画する事が出来ました。『夏にエアコンに頼らないで済む、開放的な間取り』を要望されたお施主様も、気に入ってくれています。\(^o^)/


一般に住宅地では南側道路敷地に比べ北側道路敷地は陽当りの面で不利ですが、この住宅では、平面だけでなく高さ関係の計画にも工夫を凝らして陽当りも解決してあります。矩計図は平面図同様掲載しませんので理解しずらいとは思いますが。


【開放感】【陽当り】【通風】など、性能として数値化しにくい要望ですが、お施主様と一緒に要望をフォルム化して出来上がった設計図は、鴨川の納涼床と、結果的に大変共通する環境共生住宅を設計する事になりました。


小嶋基弘建築アトリエのパンフレットから。




この住宅建築の設計基本理念はパンフレットの通リで、『環境共生住宅をデザインするということ、そのヒント』のバリエーションによる造形です。お施主様から『この、”環境共生住宅をデザインするということ、そのヒント”良いですよね』と気に入って貰い、設計者に指名していただいた経緯があります。


私は原則として、環境共生住宅こそが、豊かな住文化を育み、家族に幸せを呼び込む住宅のスタイルだと思っています。


環境共生住宅とは、高気密+高断熱という、性能に誘導される現在の大量生産型住宅の間取り・空間の真逆を行くものだと私は考えています。


でも、だからといって隙間風ピューピューで断熱性能の劣悪な前時代的建築で良いとは考えていません。もちろんお施主様の要望を踏まえた設計になりますが、サッシや断熱材の断熱性能、耐震性、耐久性など、フラット35S基準をクリアする性能は必要であると考えます。誤解なきように。


建築と外部環境とをピシャッと遮断しないで、おだやかに溶け合う緩衝空間をまとわせる発想は、開放的な間取りを実現するヒントのひとつです。


例えば、【京都・鴨川の納涼床の建物・町並み】が、現在日本でもてはやされる高気密高断熱大量生産型住宅になってしまったらぞっとしませんか?


京都以外にはこういう風情ってないのでしょうか?
こういう建築からも、環境共生住宅のヒントが得られるのです。


さて、これからEURO2012フランスVSイングランドのTV観戦です。)^o^(


木組みによる隅木(隅木の金輪継ぎも)

2012年06月07日 | うんちく・小ネタ

久しぶりに木組みについて。
隅木2007/03/04以来の、隅木・パート2。いきなり上級者向け応用編になってしまいますが。

 

 

 

 

  


寄棟屋根の隅木(棒隅)関係を全て木組みで行った例。現場対応一切無しの、
”オールプレカット”です、これ。仮組みもなし。現場の大工さんは組み立てるだけでOK。


部材寸法は、隅木:幅18cm×成21cm×7m途中で金輪継ぎ、大垂木:12cm×12cm、
柱:15cm×15cm芯寄せあり、方杖:10.5cm×10.5cm、母屋に栗の自然木丸太、その上に乗る束:10.5cm×10.5cm、通し大黒柱:27cm×27cm×7.3m。


隅木の頂部側、大黒柱の柱頭にはマジンガーZの頭部みたいな形状の凸凹の木組みで、特大のほぞ組み。この頂部、大黒柱との取り合いには、隅木1・大垂木2・桁2の合計5材の接合が一か所に集中しています。


釘は一切使っていません(効かないので意味がない)。


隠し金物&ボルトを大黒柱のこの加工形状の木口から仕込んであり、
木組み+金物補強とで、これ以上ない構造接合安全性を達成してあります。
つまり、構造材表わしによる意匠性と耐震性・耐久性とが最高性能で融合しているのです。


母屋と隅木は【渡りあご】で組んでいます。
更に芯寄せのある150角柱の上ほぞは2段の重ほぞにしてあり、母屋を貫通して隅木にまで入っているので、申し分なし。社寺建築でしか採用しない木組みといえます。


下手側の桁との取り合いは軒の出ゼロの意匠だったので、木組みだけという訳にはいかず、隠し金物で接合。コーチボルトではありませんよ。


この家、雑誌にも載ったみたいですね。『大黒柱頂部の5つの部材が大黒柱とどう接合されているのか?』と、質問があったような記憶があります。その回答の画像になります。


前回記事での【8年間のべ320棟】のうちの1棟で、大工として私が担当した構造です。


『……設計士と大工棟梁がほぼ完全分離してしまった現代の都市部では……』と前回記事で書きましたが、かつての棟梁と呼ばれた方にとっては当たり前の様に出来た事ですね。
少し前の建築大工1級技能士の実技試験では、確かこの様な棒隅(45度の隅木のこと。45度以外は振れ隅という)が課題だったはず。


でも、現在主流の”構造材プレカット”のニュアンスからすると、こういう仕事を”プレカット”と呼んではいけないと思うのだけれど、何しろ私が担当したのは構造材の墨付け&刻みだけの仕事だったので、やはりこれも”構造材プレカット”。


こういう仕事、今や伝統技能を持った大工しか出来ない時代になってしまいました。


なので、分譲住宅をやっている大工と、木組みが出来て伝統型木造をやっている大工とでは、同じ大工の呼称ではあるものの、もはや違う職能ですね。私はエアツールの熟練度という点では、古い大工の部類です。へたくそです。


分譲住宅大工は鑿と鉋を使いませんし、規矩術も必要ありません。刃物を研いで使いこなす為の厳しい修行も必要ありませんし、最初は全くチンプンカンプンのさしがね使い・規矩術を夜に勉強して、木組み模型を作って、実戦に備える訓練も必要ありません。


ちなみに、現在主流の構造材全自動プレカット加工による隅木が下の4枚の画像。
分譲住宅のみならず、ハウスメーカーの注文住宅もこれと同じです。

 

 


こんな大きな隅木でも、オス木とメス木とをしっかり組んでいなくて、乗っているだけです、この接合部。そして、金物の指定をしない場合、全自動プレカット構造材を組み立てる大工は3寸釘(9センチ)だけ施工して終了。


長さを継ぐ場合には殺ぎ継(そぎつぎ)といって、斜めにカットはするもののやはり乗っているだけで、金物の指定をしないと、3寸釘だけ。帯金物で補強しているだけまだ良心的な施工なのですよ、これらの画像の施工。構造が見えない”大壁構造”なので、この画像の様に金物でガチガチに接合すれば済む訳です。


いわゆる”ぶっつける”仕事です。


比べてみると、構造が見える”真壁構造”は、いかに手間がかかっているかが何となくでしょうけれど、理解されるのではないでしょうか? ですが、手間をかけるだけあって、木組み+隠し金物による2重の安全性の配慮、耐久性、デザイン性と、どれをとっても最上級です。それが出来るのは、伝統大工だけ。機械での全自動プレカット加工では出来ません。


【200年住宅】を本気で制度化して作る気があるならば、
”ぶっつけ仕事”ではない、真の伝統大工の手仕事が必要です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


木組みによる隅木の仕事をしている時に、私に3年程付いて修行していた若い子がいました。


彼は私も感心する程熱心で勉強家で、徹夜してでも出来ない事を乗り越えようとする気概があり、この後、努力が結実してこういう仕事が出来る様になって、一級建築大工技能士と同等のスキルを身につけました。何処へ行っても通用する真の大工技能をマスターしたんですね。


でも、今は大工そのものを辞めてしまいました。


技術や技能はあっても鑿や鉋を使う彫塑的な仕事が無い、少ないパイの奪い合い、労働環境が劣悪、将来の人生設計が出来ない等々の理由だったのでしょうか。
私もその気持ち、痛い程自分の事の様に理解出来るだけに、残念でなりません。


”何処へ行っても”と書きましたが、分譲住宅会社へ行ってもそれはそれで通用しないのです。
おかしな事だと思うのですが、大量生産型住宅の”消費地”である都市部ではそれが現実。


技術・技能があるにもかかわらずに自己実現が出来ない。
あったとしても家庭が持てないような生活しか出来ない位の待遇しかない。それでもやりたいのであれば、家庭や子供をあきらめざるを得ない人生の選択に直面してしまう。


無垢の木にこだわり、木組みにこだわり、鑿や鉋を使って家を建てるには、自分で工務店を始めるしかない時代の現実。親の代から家が工務店ならまだしも、資本ゼロから全てを立ち上げる事って、ほとんどの人にとって無理でしょう。


また、自分で工務店を開業出来る経営能力のある大工であればもはや社長業になってしまうので、よほど信念の人でなければ、やはり食べていく為には儲からない(大量生産による薄利多売経営が出来ない)伝統木造から遠ざかってしまう。

『鑿や鉋を使った木組みなどの彫塑的な仕事がしたいのですが、使って貰えないでしょうか?』


釘を使わない大工さんの木組み展・伊豆高原】【釘を使わない大工さんの木組み展・東京】を開催した後、何人かの若者からありがたい話を貰いました。女子もいました。


でも、『……、ごめんなぁ……』と、私の現実をありていにお話しして、理解して貰いました。


宮大工や数寄屋大工と同じ道を辿る事になってしまうのですね。
技術や技能がある方が、却って食えない大工になってしまう現実がある以上、
”伝統大工は絶滅種だと実感”する訳です。


国も、内需拡大、雇用創出、若者やベテランのやる気を引き出す仕事の創出の為にも、伝統型木造住宅で食べていけて、人さま並みの生活が出来る環境の整備をしていただけたら、やる気に満ちて能力のある若者が辞めていくもったいない事態を回避出来るのに、残念です。


さて画像ですが、設計者は私ではありませんので、完成した画像がありません。
私が伝統型木造建築の理解を世間に対して普及啓蒙出来る事は、力不足で、ここまでです。


住まい手の方々にこうした木の表わしの構造美・高性能をご理解いただける様に努めて、
『我が家もああいう木の表わしの家がいいなぁ』と言って貰え、注文していただけたらなぁと思う次第です。

 

 

 

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【追記 2024年3月17日】

比較の為、建売住宅の隅木を掲載しておきます。一目瞭然。

 

日本で一番施工棟数が多いといわれるパワービルダーの施工現場。

部位は隅木と棟木の接合箇所。プレカット加工。

それにしても見事なまでの建売的施工

かすがい金物が施工されているだけマシですが。

 

但しかすがいの使い方が適切ではありません。

材の上端に打っているのが、アウト。

 

下の画像が、国が指導するこの様な部位での適切な使い方。

《写真でみる接合金物の使い方》(材)日本住宅・木材技術センター刊より。

材の上端の表現は何処にもありません。

 

かすがいは『材が割れないよう』との文言が最も重要です。

材の割裂破壊=脆性破壊=強度が一瞬でゼロになる破壊だから。

 

それに、かすがいは強度最低金物なんですよね。

 

短期許容耐力はべいまつ類で1.27kN、べいつが類で1.18kN、すぎ類で1.08kN。

《平成12年建設省告示第1460号に対応した木造住宅接合金物の使い方》

(財)日本住宅・木材技術センター刊による。

 

N値計算では、N=0以下の部位にしか使えない最低耐力金物。

金物補強といっても、最低の補強にしかならない訳です。

 

これが現在のプレカット加工とぶっつけ大工による、

建売住宅・分譲住宅・一般住宅の現実なのです。



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