時々新聞社

慌ただしい日々の合い間を縫って、感じたことを時々報告したいと思います

偽装請負の受入れ企業に断罪を

2006年10月21日 | 格差社会
偽装請負については、本紙でもたびたび取り上げてきた。これは、この請負形態が、労働者派遣のもっとも悪質な方法であり、現在の所得格差の広がりの大きな要因になっているからである。
なぜ、企業は派遣ではなく、違法な偽装請負に走るのであろうか。それは、1)派遣の場合は、受け入れ企業が安全衛生について、全責任を負わなければならず、そのコストが発生すること、2)1年以上継続した派遣労働者を正社員として雇用しなければならないこと、この2点の規制があるために、企業は派遣ではなく、請負、しかも偽装請負に走るのである。
現在開会されている国会でもこの問題が取り上げられたが、厚生労働省はこの違法な請負を受け入れている企業の公表を拒んでいる。偽装請負が違法であるとして、その解消を指導しておきながら、違法行為を行った企業名の公表には応じないという信じられない態度を取り続けている。
そのような中でも、共産党の市田氏の参議院予算委員会での質問が光っていた。
クリスタルグループの労働者の派遣先を独自に調査し、その企業名を公表しながら政府の姿勢を追及した。
それによると、キャノン(7事業所):3033人、松下電器グループ(13):2701人、ソニー(5):1485人、東芝(4):855人、この他に、リコー、ダイキン、テルモ、三洋電機、日立、日産、シャープなどの70事業所で11,753人、合計約2万人もの偽装請負が行われているとのことである。これによって、通常、企業が負担すべき年金、保険料などを含む金額3,500円を2,500円に節約でき、この中から派遣会社が1,500円をピンハネし、労働者には1,000円が渡されるという。
クリスタルグループだけで、これほどの偽装請負が行われていることに驚かざるを得ない。というのも、クリスタルのように製造業に労働者派遣を行う企業は、613社(2004年3月)から8016社(2006年3月)へと、この2年間で10倍以上にも増えているからである。日本全体で、一体どのくらいの偽装派遣が行われているのかと考えると背筋が寒くなるばかりである。
また、共産党の公表した資料には、トヨタグループの名前がないが、以前に本紙で報道したとおり、トヨタ関連の部品会社で偽装請負で派遣されていた労働者に直接雇用の道が開けたが、こういうことを考えると、国会で明らかになった実態はまさに氷山の一角であろう。
その証拠に、年収300万円以下の労働者数は、1507万人(2000年)から1692万人(2005年)と5年間で200万人も増えているのである。
これに対して、もっと驚くのが財界・大企業の姿勢である。
政府の経済財政諮問会議(座長:安倍首相)において、偽装請負受け入れNo.1企業、キャノンの御手洗会長(経団連会長)は、「3年経ったら正社員にしろと硬直的にすると、たちまち日本のコストは硬直的になってしまう」と述べ、「請負法制に無理がありすぎる」、「これを是非もう一度見直して欲しい」と発言していたことが明らかになった。
以前にも述べたように、派遣社員を1年以上続けると企業に直接雇用の義務が生じるとの規制があるが、財界や大企業の要望によって、この規制も来年3月からは3年以上に延長された。御手洗氏が「もう一度見直して欲しい」といっているのは、この期限を無期限にしたり、偽装請負そのものを「適法」なものにせよという要求である。
このように、ワーキングプアと呼ばれるような労働者を生み出してきたのは、財界・大企業である。そして、大企業に現在の法律をきちんと守らせることによって、何10万人ものワーキングプアを救うことができるのである。ましてや、派遣、請負に対する規制をちょっと強化するだけで、今日本で問題になっている所得格差をかなり是正できることは間違いない。
格差社会にセイフティネットを作るのが政府の目標であるのなら、真っ先にこういった偽装請負を受け入れている企業に対して、強力な行政指導を行うべきであろう。