「あいときぼうのまち」は映像で東日本大震災や原発のことを扱いましたが、この「眠る魚」は坂東さんの絶筆となった震災・原発がらみの未完の小説です。
主人公の伊都部彩実は東日本大震災が起きた日、南太平洋のバヌアツで暮らしていました。
彩実は海外メディアの原発事故による放射能汚染の報道に比べて、日本国内に住む人々の反応からは危機感の乏しさを感じました。
逆に危機を感じて企業や行政を批判したり、遠くに避難したりする人たちを揶揄するような雰囲気さえあります。
父親の死に伴って、関東の一角にあるという設定の実家に一時帰国してきた彩実は土地に伝わる奇病や植物の異常を目の当たりにします。
相続問題で日本にとどまらざるを得ない間に、彩実に舌がんが発症していることが分かります。
実際、坂東さんご自身が舌がんの治療中で、その経験なども彩実の今後に反映されてくるはずだったのでしょうが、坂東さんの死とともに突然小説は終わります。
結末を読者に委ねるにはあまりにも先を長く残して、2014年1月27日、坂東さんは亡くなりました。