Jazzが流れる店内で
この店の馴染み客と思われる老人が、
その子に話しかけていた。
「学園祭が終わったところなんです・・・」
そんな楽しそうな声が弾んでいた。
僕はそこから離れた席で、
仕事をしながらコーヒーを飲んでいた。
「スケジューリングを立てる」
というシンプルかつ基本的な仕事。
しかし、とても重要な仕事なんだ、
と僕は認識している。
だからこの店に来たのだ。
この店は客が少ない。
普通のファミリー・レストランとは思えない。
だから僕は来る。
冬の湘南海岸なんて誰も来やしないんだ。
と僕には分かっている。
この日も僕が入店した時間
20時半の時でさえ、
2組しかお客はいなかった。
一組は親子で
もう一組はよくじゃべる男と
その話を聞き続ける女の子
という図式のカップル
「歩いていると女子高生とか見るじゃん。
すると、ああいう痩せている子と付き合えばいいじゃん!
私はどうせデブですよ!
とか全部そういう感じなんだよ。」
すると、ああいう痩せている子と付き合えばいいじゃん!
私はどうせデブですよ!
とか全部そういう感じなんだよ。」
と男は言い、
「ネガティブ~!」
と女の子の合いの手が入る。
どうやら恋人同士ではないようだけれど、
終始そんな感じの話を、
この大学生くらいの男女はしていた。
しばらくすると、彼らも帰り、
お客は僕だけとなった。
そして、またしばらくすると
老人と娘と思われる2人組が来店した。
老人はこの店の常連だ。
入ってきた時からそんな感じの会話
がなされていた。
とにかく老人はよく喋りかけていた。
連れの娘にはあまり話さず、
店員の女の子にだ。
僕はそれを聞き、バイトの子が入れ替わった事に
初めて気が付いた。
なぜかって?
それまでの子は、
愛想がまったく無かったからだ。
とにかく、新しい子は愛想が良かった。
しかし、営業スマイルという感じではない。
老人とも親しく話し、よく笑い、僕しかいない店内に
老人と彼女の笑い声が響いていた。
気付いたらこの子に興味を持っている自分がいた。
前向きで楽しそうな人間は魅力的だ。
なので、僕もコーヒーのお替りをした時に話しかけてみた。
「この予約をするクリスマス・ケーキ、事前に食べれればいいんだけれど。
予約して、取りに来た時に初めて食べるんじゃぁ心配だよなぁ。」
予約して、取りに来た時に初めて食べるんじゃぁ心配だよなぁ。」
テーブルにメニューと共に置いてあった
クリスマス・ケーキの予約を促す写真を指差し、僕は言った。
彼女は真剣に写真を見たかと思うと
「そうですよね。やっぱり味ですもんねぇ!」
と口を開いた。
「誰かに持って行って評判が悪いとねぇ・・・」
「じゃぁ、クレーム出しときましょうか!」
彼女が笑いながら言った
「頼むよ!」
その笑顔がより砕けていった。
「ダメですよ~。そんなことしたらクビになっちゃいますぅ!」
「ははは・・・そりゃ、いかん!」
僕も楽しい気分になっていた。
その後、数回、僕らは話を交わした。
お客さんが少ないと
自分一人しかバイトがいないので
逆に、忙しいこと。
そんなことを話した。
この店にバイトとして存在する彼女。
そしてこの時間の老人や僕にとって、
彼女の存在は大きかった。
時々ふと思う。
人間は強がっていても、ひとりでは生きられない。
こんな時間に、ふと出会う人間同士。
そして、笑顔。
僕らはリアルでなければいけない。
そして、笑顔でなければいけない。
そして、笑顔でなければいけない。
その後、僕は仕事を方付け、
レジにいる彼女と少し話し、
彼女の笑顔に見送られながら、
店を後にした。
11月末の海岸線は
もう随分と寒いはずなのに、
なぜか春のような温かさを感じていた。
僕の心の中に
彼女は確実に存在していた。
< MASH>
2011年11月29日 筆