まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

ランプとサンツィオ劇場(2011 視察11)

2011-10-10 14:02:05 | 海外巡礼 South Europe

中下さんからはウルビノがラファエロの故郷であることも教えてもらいました。ほかにもルネサンスの巨匠ブラマンテもすぐ近くの町の出身だそうです。また、アルベルティもこの町に関係しています。

町の中心部にあるパラッツィオドゥカレは今は美術館になっていますが大変美しい古典的なファサードを持っています(下の写真)。これは、ルネサンスのウルビノ領主フェデリコ・ダ・モンテフェルトがフランチェスカやジョルジオマルティーニなどを起用して造ったもので巨匠アルベルティも参加したとも言われています。モンテフェルトの肖像はピエロデルファランチェスカの横顔の絵が有名で、ウフィッツィ美術館にあるそうです。

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私たちはまずLa Rampaを経てSanzio Theatreに向かいます。

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城壁都市の下(外)と上(まち)を繋ぐのがLa Rampaです。英語で言う斜路rampのことです。城壁の外にある駐車場もデカルロの基本計画によるものですが、この駐車場と上部の街を繋ぐらせん状のランプを再生したのもデカルロです。上の写真の丁度アール上に突出した部分にあります。その上にあるのがSancio Theatreです。デカルノとの最初の出会いに感動して登りましたが、うかつにも写真を撮るのを忘れてしまいました。先回のブログにも出てきたルネサンスの建築家ジョルジオマルティーニが最初につくったものです。ランプのモチーフはデカルロが好んだようで彼のデザインのいたるところに出てくるのを見ることになります。

内容があい前後しますが、デカルノのウルビノ計画の基本的な考え方は、1950年代までの農業経済から観光と大学によるまちの活性化をめざしたものであったようです。そういった意味ではバス広場や観光案内所があるまちの玄関ともいえる駐車場広場(ここの地下には大駐車場があります)と上の街をどう繋ぐのかは重要な意味を持ちます。ルネサンスのまちにふさわしくランプでアクセスさせるというのは建築と都市をつなぐ秀逸なアイデアだと思います。

Sancio Theatreでは市の方も案内してくれました。1970からデカルロによる改修が始まっています。客席はおそらくそれほど改変を加えていないと思います。

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しかし、ホワイエは劇場というのは都市的空間(Urban Space)であるという建築家の考えに沿って大幅に改変されたようです。

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中下さんが市の人としゃべっています(上の写真)。市の人といっても「役人」風でないのは海外のどの都市に行っても感じることです。

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デカルロがあけたトップライトです。パラッツィオドュカレの塔を見せて関係性を作り出しています。この劇場はもともとはその中にあったPascolini Teatreを継承しているからでしょうか。

このほかオーケストラピットなど既存構造を活かしながらいろいろ工夫を加えていました。

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ホワイエにデカルロが開けた窓からはウルビノの街を一望することも出来ます(上の写真)。

残念ながら東京でホールのホワイエから周囲の町が見えたら正直なところ興ざめすることも多いのではないでしょうか。彼らのまちではベルディの歌劇とまちは違和感なく繋がっているのでしょう。

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天井桟敷から舞台を眺めます。袖舞台や奥舞台は広くありませんがうまく使いこなす伝統があるのだと思います。


ウルビノとデカルロ(2011視察10)

2011-10-10 12:11:02 | 海外巡礼 South Europe

9月7日朝ボローニャからウルビノに向かいます。

ウルビノは内陸の山岳都市ですが、まず海岸部にあるPesaroにユーロスターで向かいました。Pesaroの駅で日本人建築家中下さんにピックアップしてもらう予定です。

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上の写真の左側が中下さんです。イタリアの建築家資格を持っている数人の日本人の一人だそうで、ローマの大使間関係の設計も多く手がけられています。

ウルビノはイタリア中部にあるいわゆる山岳都市のひとつです。イタリア山岳都市というのはいつごろからでしょうか、建築や都市を勉強するものにとって、近代機能主義ではつくりきれないバナキュラーな都市造形のある種の理想像のような地位を占めています。

都市計画の近代主義はAlexanderやJacobsによってファンダメンタルに批判されます。一人の建築家やプランナー、あるいは専門家の描く「絵」を短期的に実行するというそもそもの方法が批判されてしまったわけですから、大変な事態です。この状況を打開する一つの方法として、多くの人びとの集団的な行為の積み重ねによって時間をかけてつくられてきた都市に学ぶという姿勢があったのではないかと思います。そういった意味でイタリア山岳都市の美しい姿は次の時代の都市計画の方法を模索する人たちに十分魅力的であったのではないでしょうか。

私もだいぶ前ですが、シエナ、ペルージア、アッシジなどを路線バスでめぐりました。うるさい小(中?)学生の集団と一緒になりバスの中がイタリア語で充満し閉口したことを思い出します。

ただし今回の訪問では山岳都市ウルビノというよりも都市計画の近代主義に大して、ジャンカルロデカルロが建築の実践を通してオールターナティヴを提示したまちとしてウルビノを位置づけています。デカルロが1960年代に、コルビジェたちの主導するCIAMの機能主義、近代主義都市計画に対抗するような形で、既存の都市の文脈をいかしたウルビノの再生計画を提示しています。この実践を見ることが今回の視察の目的です。

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ウルビノは建築家ジャンカルロデカルノの功績に対し大変な敬意を払っています。たまたま見つけたのですが通りに建築家の名前が使われています。また市の紹介パンフレットにもアルベルティやラファエロなどとともに、功績が掲載されています。


武蔵野プレイスが出来上がっていました

2011-10-06 20:39:03 | 建築まち巡礼東京 Tokyo

先日日曜日、武蔵野公会堂に用事があり、その帰りに武蔵境の駅に降り立ってみたら、武蔵野プレイスがオープンしていました。コンペで設計者が選定されてから相当の年月がたっています。

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何か今までの公共施設とは違う雰囲気で中を覗いてみたくなります。

ちょっと外から中をのぞいてみます。

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図書館です。外から吹抜けを介して地下1階の閲覧室が見えます。

中に入ってみます。

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残念ながら写真はここまで。内部は撮影禁止です。

1階を入ると正面に食事もできるカフェがあります。周りを本に囲まれているので、図書館というよりはカフェつきの本屋さんといった風です。

建築計画の教科書に出てくる図書館のように監視用に一望できるようになっておらず、アールの付いたやわらかい壁で空間が適度に仕切られています。天井は壁がそのままヌルッと連続していきます。

ところどころに吹抜けもありますが、1スパン×1スパンの単位で吹き抜けています。いわゆる公共施設では広い大きな空間の一部が吹き抜けている場合が多いのですが、ここでは大きな空間の一部が吹抜けているというよりも、天井までが2層分ある部屋が自由に点在している、という趣です。吹抜けつきの部屋も面白いでしょうといっているようです。

全体は白が基調です。巾木も天井周り縁もありません。何か「いろんなものから自由」という雰囲気を感じます。椅子や机の配置も管理者ではなく利用者が自由においたという感じを上手く出しています。

その一方で仙台メディアテークで感じるように、どこかに華やいだ雰囲気もあり、ここにいるのは本を見ながら人に見られている自分を楽しんでいる人たちなのかなとも思ったりします。

こういう空間に入ったのは初めてです。外部に視覚的に開かれたしゃれた美容室という感を覚えます。正直なところ今の私にとって居心地の良い場所かどうかは分かりませんが、何回か通ってこの風景の中に溶け込んだ自分を想像してみたい気にもさせます。

駅前に非常に良いパブリックスペースができたと思いました。


ボローニャで「丹下先生」にであう(2011視察09)

2011-10-05 18:49:18 | 海外巡礼 South Europe

ボローニャ番外編その2です。

ボローニャマルコーニ空港に向かう朝10時までに戻ってこれるか心配でしたが、フィエラFair(見本市)地区を文字通り駆け足で見てきました。

途中に磯崎さん設計の新駅の現場もあります。

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相当大きな現場です。

それよりもFieraへと急ぎます。しかしさすが丹下先生です。軸線上のアイストップに見慣れたモニュメンタルな形態が現れ、私の方向感覚が間違っていないことを示してくれます。スリットを挟んだツインタワーです。イタリアで丹下的なるものに出会う、あるいは60年代に出会うというのもある種感慨モノです。

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期待通りの形態です。

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全てが丹下先生の設計ではないと聞きましたが、基本的な構成は間違いなくコンペ案に沿っているのでしょう。

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モニュメンタルな都市デザイン手法の典型です。丹下さんのデザインは普遍的な分かりやすさがあるのだと思います。もちろんその分かりやすさがイージーに切り取りられると奥行きのない平板的な都市空間になるのでしょう。しかしまずは素直に丹下先生の意図が今なお貫徹されていることに敬服の至りです。満足感と共にボローニャの中心部に足を早めました。

来るときは丹下先生のツインタワーが道しるべとなりましたが、帰りは有名な斜塔が方向を示してくれました。

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どちらがいいということではありません。新しい機能主義のシンボルと歴史を示すシンボルの両方があるというのが、都市の魅力のひとつではないでしょうか。


市民がまちの将来を考えるアーバンセンター(2011視察08)

2011-10-05 18:27:01 | 海外巡礼 South Europe

ボローニャ番外編(その1)です。

私たちは6日にチネテカヒアリングと見学、市役所ヒアリングとサンフェリーノ地区見学そしてジョルジオコスタ社会センター訪問の日程を終えた跡、次の朝からウルビノに向かい、8日の夕方にボローニャに帰ってきます。そして次の9日の朝にはミュンヘンに向かうという行程です。

ぎっしりと詰まった日程ですが、間を縫って8日の夜にマジョーレ広場に面したアーバンセンター、そして9日の朝早くフィエレ地区をあわただしく見てきました。

アーバンセンターは市の中央広場マジョーレ広場に面し市役所のとなりです。全体としてはSalaborsa図書館と呼ばれています。1,2階と地下が図書館となっています。過去の遺跡のうえに建てられたようです。地下の遺跡が床下に見えます。P1130516

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地下には講堂もあります。

Salaborsaとは証券取引所のことだそうで、昔の写真も展示されています。

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この建物の3階がアーバンセンターです。アーバンセンターというのはボローニャで現在進行中あるいは将来に向けて計画中のプロジェクトを市の考え方と共に市民に公開展示して、みんなでボローニャをどうして行くべきなのかを考えていこうという施設です。

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常設の展示もあります。社会センターを含むFactory of Art地区の計画も展示されています。

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企画展示も行なわれていて、市内の建築家の作品の展示をやっていました。

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プロジェクトを議論するためのワークショップルームもあります。

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またインターユニバーシティ(CINECA)のためと思われるブースもあります。

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市の説明によるとこのアーバンセンターはボローニャのまちづくりに関わる次のメンバーから構成される委員会が運営しています。

ボローニャ市(Bologna Municipality)

ボローニャ州

Carisbo銀行財団

Monte di Bologna財団

ボローニャ大学

Bologna Fiere(次の日の朝早く見ることになる丹下建三設計のFair of Bologna:見本市会場です)

他。

こういうアーバンセンターを日本の都市にも作りたいものです。以前行ったヘルシンキにもありました。また今回もAugsburgでテンポラリーなアーバンセンターにも出会いました(あとで報告しましょう)。

最後になりましたが今動いているボローニャ新駅も展示されています。設計は丹下さんの愛弟子磯崎新さんです。次の日の朝、この工事現場も見ることになります。

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上の写真は全体模型と駅の内部CGです。アーバンセンターのホームページから転載させていただきました。