まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

お蚕さんがつくった建築群を富岡に訪ねる

2022-07-16 15:14:14 | 建築まち巡礼関東 Kanto

先日信州上田を訪ねて、5階建ての木造蚕室などを見た後、どうも蚕にまつわる建築のことが気になります。ということで、富岡製糸場を訪ねました。

まずはお蚕さん。お蚕さんの作り出してくれるものが、明治から昭和にかけての日本の製糸業を支えていたということです。原点ですね。このお蚕さんたちは相当大きいので、間もなく繭に変身するのではないでしょうか。ちなみに目のように見える部分は、皮膚の模様であり、目はもう少し前のほうについています。

明治初期までは、繭が取れる時期が春先に集中していたので、大量の繭を貯蔵する場所が必要だったとのことです。それが、下写真の東置繭所と東置繭所。

 

桁行方向の全長は104.4m、梁間方向は12.3mです。上に見える回廊部分を入れると14m余りとなります。

木骨レンガ壁構造です。柱は300(303)角のように見えます。レンガは、解説がありましたがフランス積みということです。柱の左側と右側で積み方の精度が違うようにも見えます。

中に入ってみます。桁行方向2間毎に尺角の柱が入ります。梁は合わせ梁が柱を抱いているように見えます。

布石のうえにレンガが乗っていて、それを漆喰で仕上げています。

2階は小屋組みが見えます。トラス構造ですが、芯束がそのまま柱となって一階に降りています。照明も工夫されています。

 

 

東置繭所に正対しているのが西置繭所。こちらは、耐震補強がされていました。そういえば、建築雑誌で紹介されていたのを思い出しました。また、2022年度の建築学会作品賞になっていることを後で知りました。大変、工夫されながら補強をしていったことが感じられます。

基本的には、木造の骨組みの中に入れ子状に鉄骨の柱梁からなる構造体を挿入したような形です。

既存の柱を傷めないよう工夫されています。文化財(国宝)ですから、当然後補の付加物は一目で分かるようにしてあるのだと思います。ライティングレールなども仕込まれています。その背後には、木摺下地の漆喰天井が見えます。ナイロングリッドで落下を防いでいます。

開口部が大きく、明るいゾーンもあります。

天井面にはガラスがあり、DPGで組まれています。これも耐震要素です。

大変緻密な作業で感心しました。保存と活用に対する最先端の考え方と技術が適用されているのだと思います。またそれだからこそ建築学会作品賞に値するのでしょう。

ただ、私の正直な感想を言うと、「補強をした」というストレートなメッセージが少々疲れるものでした。私は歴史的建築に大胆に手を入れることに全く反対ではありません。決して目立たないように補強をすべきだと追う意見ではありません。むしろ、現代の時代を明確に刻印することをためらってはいけないと考えるものです。ただ、西繭置所に付加されたものが、あまりにもストレートに「耐震性能の向上」につながっているところに、違和感があるのだと思います。素晴らしい成果だと感心すると同時に、何かもう一つ独自のメッセージを発信してもよいのではないかと思いました。それはデザインした人の個性を感じさせるものであってもよいのでしょうか。デザインされた方の生の感性みたいなものを出してもよかったのかな・・・本当に勝手な感想で申し訳ないのですが・・・そんな思いがしました。

いずれにしても文化財・歴史的建築の補強として、いろんな意味で画期的なものだと思います。新しい地平を感じさせる素晴らしい作品でした。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko Takatani

architect/urban designer

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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