永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(148)その2

2016年11月14日 | Weblog
蜻蛉日記  下巻 (148)その2  2016.11.14

「またの日を思ひたれば、又南ふたがりにたり。『などかは、さは告げざりし』とあれば、『さ聞こえたらましかば、いかがあるべかりける』とものすれば、『違へこそはせましか』とあり。『思ふこころをや今よりこそは心みるべかりけれ』など、なほもあらじに誰もものしけり。小さき人には手ならひ、歌よみなど教へ、ここにてはけしうはあらじを思ふを、『おもはずにてはいと悪しからん。いまかしこなるともろともにも裳着せん』など言ひて、日暮れにけり。「おなじうは院へまゐれん」とて、ののしりて出でられぬ。」

◆◆次の日を考えてみると、又南の方角が塞がっていました。あの人が「どうして、そうと告げなかったのだ」と言うので、「そう申し上げましたなら、どうなさるおつもりでしたか」と尋ねると、「方違えをしただろうよ」と言います。「あなたのお心のうちをこれからはいちいち確かめてみなければなりませんね」などと、どちらも引っ込んでいられないとばかり、お互いに言い合ったのでした。この小さき娘には手習いや和歌などを教え、私の許ではそう不足はあるまいと思うけれど、あの人は「期待はずれの思いをさせてはまずかろう。本宅の娘(詮子か)と一緒に裳着の式をあげよう」などと言っているうちに、日が暮れてしまいました。「同じことなら(同じ方違えをするなら)院へ参ろう。」と言って、声高く先払いをさせて出て行かれました。◆◆



「このごろ空のけしきなほりたちて、うらうらとのどかなり。あたたかにもあらず、さむくもあらぬ風、梅にたぐひて鶯の誘ふ。にはとりの声などさまざまなごうきこえたり。屋の上をながむれば、巣くふ雀ども、瓦の下をいで入りさへづる。庭の草、氷にゆるされ顔なり。」

◆◆このごろは、空模様もすっかりよくなって、うらうらとのどかです。暖かくもなく、寒くも無い風が、梅の香りを運んでいって、山の鶯を里に誘いだしています。鶏の声などさまざま和やかに聞こえてきます。屋根の上を眺めると、巣を作っている雀どもが、瓦の下を出たり入ったりしてさえづっています。庭の草は氷から開放されてうれしそうな顔を出しています。◆◆
  


■南ふたがり…=兼家邸は作者邸からは南、東三条殿と推定される。