蜻蛉日記 中卷 (95) 2016.2.1
「五日の日は司召とて、『大将に』などいとど栄えて、いともめでたし。それより後ぞ、すこししばしば見えたる。『この大嘗会に院の御給うばり申さん。をさなき人に冠せさせてん。十日の日』と定めてす。ことども例のごとし。」
◆◆五日は司召の除目ということで、あの人は「大将に昇進」などと、ますます栄達して、まことにおめでたいことです。それから後、幾分しげしげと訪れてきました。「今度の大嘗会に、院に叙爵を賜るようお願いするつもりだ。子どもに元服をさせておこう。十九日に。」と決めて、執り行ないました。すべては型どおりに。◆◆
「引き入れに源氏の大納言物したまへり。ことはてて、方ふたがりたれど、『夜ふけぬるを』とて、とどまれり。かかれども、こたみや限りならんと思ふ心になりにたり。」
◆◆引き入れには源兼明(醍醐天皇皇子。高明の兄、五十七歳。一度臣籍に降下、のち、親王宣下を受ける)大納言さまがおなりになりました。式が終わって、方角がふさがっていたけれど、夜が更けてしまったからということで、当家に泊まったのでした。しかしながら、あの人の訪れも、今夜が最後ではないかしらと、こころの片隅で感じていたのでした。◆◆
■司召(つかさめし)=司召の除目(じもく)。兼家は中納言のまま右大将を兼任。
■院の御給うばり(いんのおんたうばり)=「院」は冷泉院。「御給うばり」は院や東宮、三宮(皇后、皇太后、大皇太后)など叙位任官を朝廷に申請する権利を有する方が、推薦した人を叙位任官させ、代償としてその官位に見合った俸禄をその方に納めさせること。
■冠す(かうぶりす)=元服してはじめて冠をつけること。元服するの意。
■引き入れ=元服式の際、加冠をする役。
■十日の日=十九日とも。
「五日の日は司召とて、『大将に』などいとど栄えて、いともめでたし。それより後ぞ、すこししばしば見えたる。『この大嘗会に院の御給うばり申さん。をさなき人に冠せさせてん。十日の日』と定めてす。ことども例のごとし。」
◆◆五日は司召の除目ということで、あの人は「大将に昇進」などと、ますます栄達して、まことにおめでたいことです。それから後、幾分しげしげと訪れてきました。「今度の大嘗会に、院に叙爵を賜るようお願いするつもりだ。子どもに元服をさせておこう。十九日に。」と決めて、執り行ないました。すべては型どおりに。◆◆
「引き入れに源氏の大納言物したまへり。ことはてて、方ふたがりたれど、『夜ふけぬるを』とて、とどまれり。かかれども、こたみや限りならんと思ふ心になりにたり。」
◆◆引き入れには源兼明(醍醐天皇皇子。高明の兄、五十七歳。一度臣籍に降下、のち、親王宣下を受ける)大納言さまがおなりになりました。式が終わって、方角がふさがっていたけれど、夜が更けてしまったからということで、当家に泊まったのでした。しかしながら、あの人の訪れも、今夜が最後ではないかしらと、こころの片隅で感じていたのでした。◆◆
■司召(つかさめし)=司召の除目(じもく)。兼家は中納言のまま右大将を兼任。
■院の御給うばり(いんのおんたうばり)=「院」は冷泉院。「御給うばり」は院や東宮、三宮(皇后、皇太后、大皇太后)など叙位任官を朝廷に申請する権利を有する方が、推薦した人を叙位任官させ、代償としてその官位に見合った俸禄をその方に納めさせること。
■冠す(かうぶりす)=元服してはじめて冠をつけること。元服するの意。
■引き入れ=元服式の際、加冠をする役。
■十日の日=十九日とも。