永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1236)

2013年04月01日 | Weblog
2013. 4/1    1236

五十三帖 【手習(てならひ)の巻】 その28

「みな異ものは声やめつるを、これにのみめでたる、と思ひて、『たけふちちりちちり、たりたんな』など、掻き返しはやりかに弾きたる、詞ども、わりなく古めきたり。『いとをかしう、今の世に聞こえぬ詞こそは弾き給ひけれ』と褒むれば、耳ほのぼのしく、かたはらなる人に問ひ聞きて」
――調べも合いませんので、他の人はみな、弾きやめてしまったのを、大尼君は聴き惚れているのだと思い込んで、「たけふ、ちりりちりり、たりたんな」などと、撥で掻き返し、調子づいて弾いてはいらっしゃいますが、歌詞などは全く古めかしい。中将が、「まことに興味深く、当節では聞くこともできない歌をお弾きになりましたね」と褒めますと、耳が遠いので側の人に訊ね聞いて――

「『今様の若き人は、かやうなることぞ好まれざりける。ここに月ごろものし給ふめる姫君、容貌はいとけうらにものし給ふめれど、もはら、かかるあだわざなし給はず、うもれてなむものし給ふめる』と、われがしこにうちあざ笑ひて語るを、尼君などは、かたはらいたしと思す」
――(大尼君が)「近頃の若い方々は、こういうものをお好みにならないのですね。この頃ずっとこちらにおいでの姫君も、ご器量は綺麗でいらっしゃるようですが、こういうつまらぬ遊び事などなさらず、引き籠もってばかりいらっしゃる」と、自慢そうに人もなげに笑って話しますので、娘の尼君などは聞き苦しいと思っていらっしゃる――

「これにこと皆さめて、帰り給ふ程も、山おろし吹きて、聞えくる笛の音、いとをかしう聞えて、起き明したる」
――これで皆はすっかり興ざめして、中将もお立ち出でになります。お帰りの道すがら吹く笛の音が、山から吹き下ろす風に乗って、この庵にもまことに面白く聞こえてきますので、尼君達は夜一夜を寝もやらず明かしたのでした――

「つとめて」
――翌朝――

「『昨夜は、かたがた心乱れ侍りしかば、いそぎまかで侍りし。<忘られぬむかしのことも笛竹のつらきふしにもねぞなかれける>なほすこし思し知るばかり教へなさせ給へ。忍ばれぬべくは、すきずきしきまでも、何かは』とあるを、いとどわびたるは、涙とどめがたげなるけしきにて、書き給ふ」
――(中将から)「昨夜はあれこれと心が乱れておりましたので、急いでお暇いたしてしまいました。(歌)「忘れられぬ亡き妻につけても、冷淡な方(浮舟)につけても、声を出して泣かずにはいられませんでした。」やはり、私の心を少しでも分かってくださるように教えてあげてください。我慢できるくらいならば、どうしてこれほど好色がましいまで申し上げるでしょうか」とありますのを尼君は、亡き娘を偲ぶ悲しみにくれている折から、涙も堰かねる様子で、お返事を書きます――

◆容貌はいとけうらに=容貌(かたち)は、たいそう、けうらに(綺麗)に。

では4/3に。