落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

東の丘

2008年07月20日 | movie
『キャプテン アブ・ラエド』

空港の清掃員で生計を立てているアブ・ラエド(ナディム・サワルハ)は5年前に妻を亡くしてひとり淋しいやもめ暮らし。ある日ゴミ箱で拾った機長の帽子をかぶって帰ると、パイロットと勘違いした近所の子どもが「冒険談を聞かせろ」とまとわりつきはじめ・・・。

ヨルダン独自の資金で製作した純正ヨルダン映画としてはここ50年間で初めての映画というアナウンスがあったが、現在のヨルダン・ハーシム王国の歴史を考えると実質的にはヨルダン製映画第一号と称してもさしつかえないと思う。まあレアな作品である。
ただし監督はアメリカ在住の移民だし、国内に映画業界というものが存在しないため、メインスタッフの大半が国外組なのだそうだ。出演者はメインキャストが国内のプロの俳優で、たくさん登場する子役たちは難民の子どもをキャスティングしたという。このためか子どもたちの容貌がものすごくバラエティ豊か。

監督はあえて政治や宗教を排除してごく普遍的などこの誰が観ても共感できる物語でアラブ世界の現実を表現したかったと語っていたが、その気持ちはじゅうぶん理解できる。
でも経験不足ということもあってか全体の構成にメリハリがなく、要素を盛込み過ぎたせいもあって、いささか無理のあるコンセプトのヨレがかなり目立つ。要するに映画として未熟。個性的な作品ではあるが、観ていて共感できるような映画ではない。
たとえば、主人公アブ・ラエドは読書好きでたいへんな知識と語学力の持ち主だが、それを職業に活かして出世を望んだりする人物としては描かれない。仲良くなった子どもたちにも金儲けよりも勉学の重要性を説き、知力で夢を叶える人生の価値を教えようとする。だが最終的に彼が緊急避難先に求めるのは金持ち、セレブ階級の人間だったりする。そのせいかエンディングのカタストロフがかなり拍子抜けしてしまうのがもったいない。
あとアブ・ラエドと心通わせる女性ヌール(ラナ・サルタン)の職業がパイロットってのも引っかかる。30代で女性の国際線機長って日本じゃ現実にいるのかな?ヨルダンではアリなの?

貧困やDVなど社会問題を題材にとったはいいけどどれも消化不良気味なのと、そもそもの企画意図に矛盾があったのをゴリ押ししてしまったのが裏目に出た映画。
珍しいヨルダン映画という意味では一見の価値はあるけど、それ以上でも以下でもないです。残念。

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