落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

神様がいるのに

2008年07月20日 | movie
『エゴイスト』

コートジボワールで“希望のセンター”という医療施設を運営するスイス人活動家ロティ・ラトゥールの横顔に迫るドキュメンタリー。
タイトルの“エゴイスト”とはロティ自身のこと。ロティは今年で56歳、夫と3人の子どもをもつ母親である。ネスレ社勤務の夫アジズはアルジェリア人で10代の末娘とエジプト・カイロで暮している。20代の長男長女はスイス国内のホテル勤務。彼女がコートジボワールで活動を始めてから、一家はバラバラに暮して来た。彼女の情熱の前に、家族の犠牲があった。夫や子どもの理解と協力がなければ、彼女の献身はありえなかったのだ。
だから彼女は自分を“エゴイスト”だという。自分のやりたいことをいちばんに考えているから。そんな彼女を、夫や子どもたちは「信念があるならエゴイストでもいい」という。愛である。

彼女のセンターでは1日平均10〜12人の患者がHIV検査を受け、そのおおよそ半数が陽性と判明する。実際、2010年にはコートジボワールの国民の半数が感染者になるといわれているそうだ。それなのに国内の病院では感染者を収容はしてくれない。ほったらかしである。
いよいよ死にそうになるとセンターの電話が鳴る。ロティはクルマで瀕死の患者を迎えにいき、入院させて手厚く看護する。死の恐怖に怯える患者を抱いて、髪を撫で、キスして「大丈夫よ」という。映像には匂いまでは映らないけれど、貧民街でまともな治療も受けていない末期のエイズ患者が寝ている部屋の環境など推して知るべしである。だがロティはそんなもの気にもしない。こうした緊急SOSを彼女は1日10件受けつけている。
1日100人ほどの外来患者にも対応する。なかには明らかに10代でHIV陽性者の少女もいる。聞けば感染したのは8歳のとき。8歳でHIVに感染するってどういうことやねん。60人程度の入院患者の中には胎内感染児もいる。プレゼントだけ送りつけて見舞いにも来ない親の代りに、ロティは絵本を読み聞かせ、おやつを食べさせて子守唄を歌ってやる。ガリガリに痩せこけた彼の目には恐怖の色はない。だがほんとうに彼が何を感じているかまではわからない。

家族でバカンスに出かけても、その間にこれまで何ヶ月も世話して来た患者が死んだことを悔やむロティ。レストランに入ってもメニューの中でいちばん安い料理しか食べられないロティ。せっかく家族水入らずで食卓を囲んでも、おなかがすいていない、食べる気がしないという彼女は、逆にいえばコートジボワールの人々を救う活動によって生かされているのかもしれない。
でももしそうだとしたら、彼女の本当の幸福のゴールはいったいどこにあるのか。彼女の歩いている道はまさに真っ暗闇の底なし沼なのだ。
ぐりもこんな現状はおかしいと思う。こんなに苦しんでる人たちを国が助けようとしないなんて信じられない。そこでただ怒っているだけじゃなく、ロティのように行動できる人もなかなかいない。行動したというだけで、彼女はエゴイストであることを許されて当然だと思う。

とにかく観ていて涙が流れて仕方がなかった。コートジボワールの不幸の深さと、彼女の勇気に対する感動とで、胸がいっぱいになった。
監督は新人で長篇ではこれが第一作目となるそうだが、既に二作め三作めのプロジェクトが進行中だそうだ。健闘を祈りたい。

ロティ・ラトゥールの活動への支援申込みはこちらから。

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