落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

On ne naît pas femme, on le devient.

2008年11月20日 | book
『できそこないの男たち』 福岡伸一著
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すべての人は女から生まれる。
男だろうが女だろうが、偉人だろうが犯罪者だろうが、天才だろうが凡人だろうが、セレブだろうがニートだろうが、とにかくどういう人間もそもそもの人生のスタート地点は女の股であるという一点だけは絶対に同じだ。
ところが人類の歴史の中でいつからか性差別が生まれ、どういうわけか女よりも男の方がエライとされる時代が長く続いている。一部では一見そんな差別は解消されたかのように見える社会も存在するが、本質的な解決の道はまだ遠い。
著者は分子生物学を専門とする学者。この本は遺伝子のレベルで「女はすべての生命の源である」という理論を説いている。
遺伝子学なんぞというと小難しい理系の専門書というイメージだが、文体が叙情的でまるで詩のように美しく、DNAを写本に喩えた表現などは歴史小説のようでもある。全体に読みやすく、読んでいて文章そのものにヒーリング効果があるようにも思える、綺麗な本だ。

地球の生命の歴史上、性差は長い間存在しなかった。初めはありとあらゆるすべての生命が、自らのコピーをつくって遺伝子を次世代に受け渡して来た。つまりその時代、この星にいた生命はすべてが母であり娘だった、というのが著者の解釈である。
単性生物のコピーは正確でありひとりで次世代をつくれるという意味では確実だが、不測の事態が起きたとき─急激な環境の変化、感染症─には絶滅の危険がある。そんな危機に備えて、生き物はより強い子をつくらなくてはならなくなった。そのためには自分以外の遺伝子との交雑が必要になる。
だから母は息子を産んだ。母の遺伝子を他の娘に運んでいくための使者として。こうして地球上には男が誕生したのだ。

こうした性の発生そのものについてはとくに新しい話ではないが、今の保守化のこの時代に科学者の立場から語られるというのがおもしろい。しかも文章そのものが読んでて楽しいのがいい。
けどぐり的には、遺伝子学の研究の現場がどれほどハードかつセンシティブなものかを、悲喜こもごものドラマを交えて淡々と描いたパートがいちばんおもしろかった。遺伝子ったって超ミクロな世界ですから、それこそ研究自体が超ミクロである。気が遠くなるほどの根気と繊細な熱意を失わない、精神的なスタミナが要求される業界である。そしてなおかつ、未だに知られていない・誰にも解読されていないページに満ちたロマンの宇宙でもある。
素敵です。冒険です。まだ誰も見たことのない宝物が山と埋もれた秘境みたいな場所、それが遺伝子。

男女問題といえば日本では先年ちょろりと問題になってスパッと消えた「お世継ぎネタ」。最後の方で少し触れられている。ちょっと残念なのは、ここでは「2700年続く万世一系」という伝説を誰も科学的に立証したことがないという事実に触れられていない点。
これってよく考えたらおかしな話なんだよね。これができないって時点で既にこの国は民主国家とはいえないんじゃ?なんてことは口が裂けてもいえないのよね?きっと?(ってゆーとるやんけ<自分)

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3 コメント

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Unknown (まるま)
2008-11-21 08:57:47
文体が詩のように美しく、歴史小説のような表現がある本ですか。残念な点も含めて(わたしもその部分では口裂け女になってるかも……)早く読みたいです。ぐりさん、ご旅行お気をつけて、楽しんでいらしてくださいね。
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Unknown (ぐり)
2008-11-25 21:17:53
まるまさん

ただいま戻りました。
口裂け女ってどーゆーことですか。
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Unknown (まるま)
2008-11-26 07:37:00
ぐりさん、ご無事でお帰りになって何よりです。リフレッシュされたことと思います。旅のお話、おいおい聞かせてくださいね。口裂け女は、口が裂けてもいえないかもといいつつ、いっちゃってるから裂けちゃってるかもってことで、深く考えないでください~。
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