落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

引き返せ

2007年05月29日 | book
『さよなら、サイレントネイビー 地下鉄に乗った同級生』伊東乾著
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1995年3月20日、中目黒駅で営団地下鉄日比谷線に乗った豊田亨は、恵比寿駅到着直前に持っていた劇薬サリン入りのビニールパックに穴を空けた。
本書は地下鉄サリン事件の実行犯となった豊田亨被告の大学の同級生によるノンフィクション。伊東氏の本業は音楽家であり、現在東京大学で予防公衆情報衛生という講座を持つ助教授でもある。
予防公衆情報衛生とは、起きてしまったことを二度と繰り返さないためにはどうするべきか?という課題を追究する学問であるらしい。
伊東氏にとっては、大学時代の親友・豊田が、大量無差別殺人の実行犯になり、死刑に処せられようとしていることが「二度と繰り返さざるべきこと」だった。東大でいっしょに勉強していた日々からたった3年後の事件。どうしてまたそんなことになったのか。

タイトルも装丁もなんだかロマンチックだし、同級生について書かれた本だというからついセンチメンタルな内容を想像しがちだけど、どっこい全然違います。
全文、怒りにみちみちてます。それも感情論じゃない。ちょークールな怒り。静かに、理路整然と、怒りがみっしりと書きなぐられている。
なぜ人は新興宗教に奔るのか。なぜ人はメディアに踊らされるのか。なぜ人はテロを起こすのか。
ナチスドイツがやった大衆煽動、旧日本軍の玉砕思想、ルワンダ虐殺事件のラジオ放送、性欲や恐怖反応など脳の生理学を利用したマインドコントロールなど、人が人を騙し操り命や人格をモノのように弄び支配するテクニックとその歴史が、ただ一点、「なぜ親友があんなことをしたのか」という疑問のためだけに追求されている。

サリン事件の犯人なんかみんな死刑にしちゃえばいいじゃん、と簡単に思う人もいるかもしれない。
大体あれからもう12年も経つのだ。裁判にも時間がかかり過ぎている。
でも、あれだけの大事件を、一部の関係者だけの責任にして葬り去ってそれで済むだろうか。
法律という不完全なルールと、裁判制度という不完全なシステムだけで、あれだけの大事件の真実が、ほんとうに解明しきれるものだろうか。
死刑だけが贖罪じゃない。
黙って責任を取って死んで、それで格好がつくのはおさむらいさんの時代の話。
同じことが二度と起きないためにどうすればいいか、それを知っているのは、もう「やっちゃった」人以外にいない。
とっくに済んだことじゃん、12年も前のことじゃん、では進歩がない。
目的もなくフラフラとヤバい方向に転がりつつある日本。
まだ引き返せる、まだ大丈夫、と思えるうちに、われわれは何をすべきなのだろう。
わからない。
むずかしい。
だけど、少なくとも、あの事件のことは、「まだ終わってない」ってことにしとくべきだということは、わかる。
それだけだけど。

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