落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

灰皿とジッポ

2020年09月14日 | movie
『窮鼠はチーズの夢を見る』

愛する妻(咲妃みゆ)がいながら不倫相手(小原徳子)との関係を続けるサラリーマンの大伴恭一(大倉忠義)。ある朝、突然再会した大学の後輩・今ヶ瀬渉(成田凌)は探偵事務所の調査員だった。学生時代から恭一に思いを寄せ、依頼主である妻に調査結果を伏せることを条件に、たった一度のキスを求める渉だったが・・・。
水城せとなのコミックを行定勲が映像化。

ちゃんと人を好きになったこと、ある?
恭一の元カノ・夏生(さとうほなみ)が投げかける疑問は、さして珍しい台詞ではない。それでもちょっと、背筋がぞっとする。果して私はちゃんと人を好きになったことがあるだろうかと。
それが例えば、渉のように身も世もなくひたすら恭一に恋焦がれるような恋愛を指しているのだとすれば、とてもそんな勇気は私にはない。これまでにもなかったし、この先もない。

それほど渉の恋しかたは激しい。
そもそも異性愛者である恭一を好きになってしまった時点で、叶う可能性はほぼゼロに等しい。だからこそ彼は学生時代には切ない恋心を押し殺し続けていたのに、調査対象者として再会してしまった刹那、欲望を抑えきれなくなる。渉の恭一へのすがりつき方にはまるで、雨宿りのつもりでいっとき軒先に入れたノラ猫が、気づけば我が物顔に家中を闊歩し当たり前のように身を擦り寄せてくるような、えもいわれぬ抗いがたさがある。
学生時代から「流され侍」と揶揄されるような恋愛ばかりしていた恭一は、そんな渉の強引なアプローチに為すがままに巻きこまれていく。やがてふたりはいつの間にか生活をともにするようになり、男同士の生活の気楽さ快さにも、恭一は流されていく。
それで満たされて、幸せなはずのふたりなのに、女性たちは「流され侍」を放っておいてはくれないし、流されていく恭一を信じられずスマホを勝手に盗み見るのがやめられない渉は自分で自分を追いこんでいく。

登場人物がみんなバカなのがすごくいい。
言い寄られたら大抵の人間になびいてしまう主体性のない恭一は究極のバカだし、そのバカを承知で本気で恋してしまう渉もバカなら、そのふたりの間に無目的に入りこんでくる夏生や、上司である恭一への憧れを愛だと思いこむたまき(吉田志織)も結構なバカだと思う。しかも軸となるふたりには一貫性というものがない。相手の反応にばかり振り回されすぎているし、揺れに揺れすぎている。そんなところもバカだ。
でも、さきざきどうなるかもわからないのに人を好きになるなんてギャンブル、バカじゃないとやってられないんだよね。
だから人は己のバカさ加減に悩んで、苦しむ。恋なんて苦しいばっかりなのに、なぜ人は恋をするのだろう。

シナリオにはいっさい無駄がないし、画面構成や照明も非常に美しい。早くも「今年一番」という評判も耳にするが、今年あまり映画を観ていない(コロナのせいである)私でも、あながち大袈裟な評価ではないと思う。
全編にわたって男女・男同士問わずキスシーンやラブシーンがふんだんに登場するのだが、その描かれ方はまったく煽情的ではなく、どちらかといえば、どうしようもない肉欲に支配される人間の愚かさと切なさを愛情をこめて真っ直ぐに表現しようとしているように見える。まあ個人的には大倉忠義と成田凌の人間離れした肉体美を存分に堪能できてお腹いっぱいでしたが。この二人はラブシーン以外でもやたら全裸か、それに近い格好で画面によく出てくるんだけど、ホントに綺麗な身体なんだよね。とくにモデル出身の成田凌のすらりとした手脚の長さ、まるで妖精のようなしなやかさはほぼ芸術といっても過言ではない。画面に向かって拝みたくなる。眼福とはまさにこのことです。
インタビューを読むと原作に合わせてダイエットをしたそうですが、観ればその役への入れこみ方が半端じゃないことは一目ですぐわかる。ホントにマンガに出てきそうなぐらい可憐で、可愛らしい。
大倉忠義は10年も前に『大奥』という時代劇でもBLしてたんだけど、そのときからもうすでにエロかったです。存在がエロい。あのちょっと眠たそうな垂れ目がエロいのか、ぽてっとしたあひる口がエロいのか。そこはおいといたとしても、本来アイドルという立場でありながらR指定のこの作品に挑戦したという意味では彼の本気度も成田凌といい勝負だと思う。

音楽は半野喜弘。個人的に映画音楽は半野喜弘か梅林茂か坂本龍一に限ると勝手に思ってる私ですが。今作も素晴らしい。なんというか日本の映画じゃないみたいな、現代劇じゃないような、すごく遠くの世界の物語を観せられてる感覚が味わえるんだよね。それでいてしっかりオリエンタルで、現代的。
思えば3ヶ月ぶりの映画鑑賞だったけど、大満足でした。もう少し時間をおいて、また観たくなる。観るたびに違う感じ方ができそうな作品でした。



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