はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 038:灯

2006年10月01日 08時33分32秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
街灯に見つかっている罪悪とひとの弱さに容赦ない冬
                          (花夢) (花夢)

 「街灯」は、「罪悪」と「弱さ」の両方を照らしているのでしょ
うか。
 それとも冬は、照らし出された「罪悪」と、人が心に仕舞っ
てある「弱さ」に平等に「容赦ない」のでしょうか。
 ひょっとしたら、「街灯」は夜だけに灯るとは限らないし、
「冬」は季節に限らずいきなりやってくるのかもしれない。
 この歌を読み返していてふと、そんな辻褄の合わないこと
を思い浮かべました。

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誰(た)がわれを呼ぶか呼ぶかと野ざらしの誘蛾灯へと闇なだれ落つ
                      (水須ゆき子) (ぽっぽぶろぐ)

 いろいろと苦心したのですが、この歌を読んだときの心情
を正確に文章にすることが、どうしてもできません。
 誘蛾灯の青い光に、闇や虫や周りのすべてとともに、なだ
れ吸い込まれてゆきそうな感覚。
 自分の知らぬものを感知したときの、絶叫したいような、
永遠に沈黙したいような感情。
 『懼れ』という文字が、あるいは一番近いのかもしれませ
ん。

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灯台の伸びあがる午後すこやかにわれは夏へと気化しはじめる
                       (萱野芙蓉) (Willow Pillow)

 〈梅雨明け十日〉の、すっと晴れた海辺をまず想像しました。
 梅雨のじとじとと、盛夏のうだうだの間、陽光を浴びていると、
 自分が透き通り浮き上がって、どこまでも拡散していきそうで
す。
 初夏の清々しさ、歓喜、あるかなしかの不安、そういったもろ
もろを、感じさせてくれる歌です。