はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 041:こだま

2006年10月09日 08時51分49秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
崩れゆく私がこだまするように不安に響く夜の海鳴り
                      (濱屋桔梗) (桔梗の独白)

 「こだま」を視覚として捉えているところが、まずおもしろいと思いました。
 音が反響するように「私」のヴィジョンが何層にもわたってこだまし、「私」に帰ってくる。
 「私」自身ではない「こだま」のおぼろさが、「不安」につながっていく。
 切れ目なく響く海鳴りに、そのヴィジョンを重ね合わせているのでしょうか。
 あくまで個人の好みですが、「ように」で前半と後半をつなぐと、ちょっと説明ぽいかな、と感じました。

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こだまにはもう乗れません待つ人のない改札は迷路になって
                      (佐田やよい) (言の波紋)

 新幹線のこだまをとりあげた歌はいくつかありましたが、これもそのひとつ。
 いつも迎えに来てくれた、あるいはその街で待っていてくれた人がいなくなってしまった喪失感を、「迷路」と表現した感性が素敵です。
 二句切と第三~四句の句またがりによってスピード感が増し、それが「こだま」の速さを表現しているようです。

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こだまする声の切れ端さよならの合図は曖昧すぎる約束
                        (ぱぴこ) (テクテク)

 難しい言葉で歌われているわけでもないのに、不思議と、印象を言葉にすることができません。
 〈こだまの切れ端が聞こえたらそれが別れの合図だなんて、曖昧な約束じゃないの?〉
 無理に意味をつければ、そういうことになるのでしょうか。
 でも、書いていても「この読みは違う」と思います。
 切なさ、諦観、どこか朦朧とした景色。
 意味などをとらえなくても、そんな情景は伝わってきます。
 ひょっとしたら、それこそが大切なことなのかもしれません。
 第三句からの「あ」音の連続が、気持ちよく効いています。