はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 044:飛

2006年10月27日 20時38分22秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
飛ぶときに僕の名前を呼ぶきみのまだ迷ってる声が好きです
                      (ハナ) (象の求愛ダンス)

 スキーのジャンパーはテイクオフする瞬間、恐怖と迷いを断ち切るため、あらん限りの大声を出す、という話を聞いたことがあります。
 ある人は意味不明の叫び声、ある人は母親を、ある人は最も大切な人の名を。
 でもこの歌は、どちらかというと飛ぶ前の最後の精神統一の時間を詠んだ歌のように思えます。
 人に限らず鳥も虫も、「飛ぶ」ということは実は一大事。
 「まだ」迷っている声は、呟くような、祈るような声なのでしょうか。

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この空を飛ばなければと思わせている瞬間を羽はさがせず
                 (田崎うに) (楽し気に落ちてゆく雪)

 「思わせる」ではなく「思わせている」のだから、今現在主体は飛んでいる、あるいは日常的に飛ぶことを繰り返しているのでしょう。
 前者であれば、これ以上羽ばたき続けることの意味を見いだせない。
 後者であれば、繰り返して飛ぶことの理由を見失ってしまった。
ということでしょうか。
 どちらであっても、主体には飛ぶことの意味は「瞬間」でいいのです。
 向かい風でも、エアポケットでもいい。納得できる羽ばたきの瞬間があれば。

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花の名をとるのをやめて草の名にした飛ぶことにあこがれはない
               (本田瑞穂) (空にひろがる枝の下から)

 これは正直、読むのが難しかったです。でも、一目見て引きつけられる歌でした。
 「とる」がまず難しい。
 何かに名前をつける(例えば子どもに命名する)時に、花の名前を付けようかと思い、一時はそれに決まりかけた。
 でも、花が持つふわふわした明るいイメージは相応しくないように思えたので、大地に根を張る草の名前に変更した。
 命名者は、空を飛ぶことにあこがれなど(もう)持っていないのだから。
 こんな感じでしょうか。うーん、なんか違う…。
 それとも、「とる」は命名を指すよりむしろ「盗む」「奪い取る」の意味でしょうか。
 花の名を奪い、花に生まれ変わって風に乗り空を飛ぶより、草になって地を這おう。
 これもなあ…。
 どなたか、いい読みをお聞かせください。