はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 045:コピー

2006年10月29日 07時26分09秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
海亀を仰向けにしてコピー機のガラスに乗せて撮った曼荼羅
                        (新井蜜) (暗黒星雲)

 新井さんの「海亀」シリーズ、やっとひとつご紹介できました。
 歌意は読んだままですね。海亀の甲羅をコピーしているという、おもしろくも異常な光景を、存分に想像すべき歌だと思います。
 他の「海亀歌」は、亀を擬人化あるいは擬物化したものが多いのですが、これは実にリアルで生々しいショットが目に浮かびます。
 半開きの口と目、だらんと垂れ下がった四肢の鰭、体から滴る水滴とそれに濡れるコピー機…。
 そのリアルな光景が、結句の「曼陀羅」で一気に異界へと変換します。
 うーむ、すごい。

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てのひらを未熟な悩みで汚すよりチョコピーナッツは奥歯でくだく
             (小軌みつき) (小軌みつき-つれづれ日和-)

 「コピー」というお題、カタカナ題にしては珍しく、皆さん素直に「コピー」で歌われていました。
 ずらして詠んだものの中で、うまい!と思ったのがこのお歌。
 ピーナッツチョコではなく「チョコピーナッツ」なので、チョコにくるまれたピーナッツなのでしょう。
 素直に読めば、摘んだり手のひらで受けたりしてベトベトになるより、袋から直接口に流し込んで、噛みくだいた方がよい、ということでしょうか(素直な読みでもないか)。
 でも、「未熟な悩み」がくせものです。
 うじうじ悩んでいるうちに、チョコが体温で溶けるよ、という意味でしょうか。
 「悩みは悩み、食は食。思い切りよく砕こう!」ということでしょうか。
 もっと深い意味のことを言っている気がするんだけど…。

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コピー機が吐き出しつづける青空をゆっくりと食べ瓦礫は育つ
                         (やすまる) (やすまる) 

 これも、好きなのに読みが難しい歌です。
 上三句は読んだとおりですね。青空を何枚も写し取っているコピー機がある。
 難しいのは下二句。積み重なっていく紙を「瓦礫」に喩えているわけではないでしょう。
 ぼく得意の文字通り読み、「瓦礫が青空を食べ続けている」も、そう読んで、だからなんだ、となってしまう。
 脈絡もなく思い浮かべたのは、イラク戦争のことです。
 青空が続くかの地、戦闘機や戦車、銃を始めとする様々な機械、「ゆっくりと」破壊され、増えてゆく「瓦礫」…。
 たぶん、詠み人の思惑とは違っているのでしょうが、繰り返し読んでいるうちに、そんな光景が浮かびました。
 この歌の持つ、乾いた静かな哀しみのようなもののためでしょうか。