はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 025:とんぼ

2006年04月22日 20時59分08秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
遊び女にあらぬをとんぼ縛られて雄をいざなふ 逃げられぬまま
              ほにゃらか (♪おみそしるパーティー♪)

  文語体が生々しさを消してくれているので、懐かしさと乾い
  た哀しみが伝わってきます。
  考えてみれば、ひどいことしてますね、僕たちは。
  縛られた雌とんぼも、別に雄をいざないたくはないでしょう。
  種族保存本能というか、生体機能に物理的に従っているだ
  けで。
  最後の一字あけが有ると無いとで、伝わる風景の量が違っ
  てくる気がします。

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(液体になる瞬間があるらしい)とんぼに羽化するヤゴの蛹に
                  遠山那由 (百億粒の灰の鳴る空)

  その話は、耳にしたことがあります。
  虫は、幼虫から成虫になる際、体内の組織を改編するために、
  さなぎの中で溶解するのだと。
  普通の歌なら、説を紹介するだけで終わってしますのですが、
  この歌はそこから始まっているところがすごい。
  ( )の使い方が、蛹の中の液体を思わせます。
  ヤゴを指して、隣の人に説明しているのでしょうか。
  それとも、蛹に向かって囁いているのでしょうか。
  「お前はもうすぐ液体になるんだよ」

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きみのため一所懸命とってきた目玉と翅を失くせしとんぼ
                     原田 町 (カトレア日記)

  子どもの無邪気さ、で説明してしまうには、ちょっと重い歌
  です。
  「目玉と翅」は、取ってきたときはすでに無かったのでしょ
  うか。
  それとも「きみ」が喜ぶと思って、主体がむしり取ったので
  しょうか。
  どちらにせよ、そのとんぼを差し出したときの主体の顔は、
  誇らしげに笑っていたことでしょう。
  誰もが持っている、闇につながる陽。

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春は来てかつてとんぼであった風が庭のミモザを揺らして逃げる
                       やすまる (やすまる)

  正直に言って歌意をつかみにくい歌ですが、なぜか目を離せ
  ません。
  夏や秋には、ミモザを揺らすのはとんぼだった。
  冬には誰も揺らす者はいず、春になってやっと風がその役目
  を引き継いだ。
  理屈をつければこんな感じでしょうか。
  でも、これは正解としてはふさわしくないでしょう。
  「かつてとんぼであった」という言葉を味わいながら、ゆっく
  り考えてみようと思います。