はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 024:牛乳

2006年04月20日 17時56分47秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
牛乳のぬるきおもてに桃いろの小さき閃き 猫舌に春  
                         鈴雨 (鈴雨日記)

  小さな舌が、ホットミルクにおそるおそる付けられている。
  寒さもだいぶ和らいで、牛乳もあまり熱くする必要はありま
  せん。
  猫舌への朗報ですね。
  女の子の、にっこりした顔が目に浮かびます。
  いや別に、ほんとの猫でも、おっさんでも歌意は通るんです
  が、やっぱり情景的に、ねえ。

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戻せない言葉こぼした牛乳の白い輪染みをじっと見ている
                   愛観 (ひ と ひ ら こ と ば)

  〈覆水盆に返らず〉の英語版は、教科書で習いました。
  でも、まれに実体験で追学習する場合があります。
  白をじっと見ている。時間が過ぎていく。
  時間が遡らないかな、と思う。
  でも願いは聞き届けられません。
  「こぼした」が「言葉」と「牛乳」の両方にかかっていて、
  技巧的にもすごいなあと思いました。

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とぷとぷとぷ牛乳をつぐ まっくらなよるにわたしがひろがってゆく
                           花夢 (花夢)

  コップの表面にできた波紋の同心円が、ガラスを通り抜け、
  壁を通り抜け、暗闇を通り抜けて拡がっていく。
  牛乳をついだ「わたし」はすなわち波紋でもあり、けれど拡
  がるのを止めることができない。
  開放感と不安、不思議な静謐が感じられます。
  「ぷ」に付いたマルが、ついだ牛乳から撥ねるしずくのよう
  に見えます。

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思春期の芽吹きに八つ当たりされる1リットルの牛乳パック
                     史之春風(はちぶんめblog)

  思春期とは、自分と自分の持つ力とがうまく折り合いをつけ
  られない時期。
  エネルギーの有効利用法を見つけられない、核融合炉のよう
  なもんです。
  不安定な時に近づくと、ろくな事にはなりません。
  逃げようにも逃げられない牛乳パックには、気の毒ですが。