はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 021:美

2006年04月14日 20時06分33秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
絵の具の香(か)たちこめている美術室ゲルニカを見て恋におちた日
                       佐田やよい (言の波紋)

  ピカソが、戦争の実態を伝えるため描き上げた「ゲルニカ」。
  美術室にあるくらいですから、レプリカか写真複製なのでしょうが、
  その衝撃力はそれでもかなりのものでしょう。
  主体は、その絵に一目で参ってしまったのでしょうか。
  それとも、「絵の具の香」「美術室」「ゲルニカ」というファクター
  が作り出す奇跡的な状況の中で、説明不能な恋に陥ってしまった
  のでしょうか。
  そういうことって、それほどはありませんが、あるときはあります。

  -----------------------------------------

やさしがる世界の光が乱反射して動けなくなる美容室
                      西宮えり (aglio-e-olio)

  美容室ってなにか〈やさしいよ〉〈きれいだよ〉という雰囲気が漂
  う場所ですよね。
  そして、鏡を始めとしてきらきらした物がいっぱいある(はさみ、
  ドライヤー、洗面台…)。
  髪を洗うため仰向けになった主体(勝手に想像してますが)は、そ
  んなきらきらした光に全身を縫いつけられたように錯覚したのでし
  ょうか。
  まるで、こびとの国に迷い込んだガリバーのように。
  「乱反射」の一言が、非常にまぶしく感じます。

  -----------------------------------------

この部屋で あなたはいつも 語るけど 美学の前に 掃除しようよ
                 よっきゅん (よっきゅんの100首)

  わー。
  ロマンチストに対して、なんと残酷なお言葉。
  主体は、この人の語る「美学」を(なかばうんざりしつつも)「い
  つも」聞いてあげているのだから、かなりいい人なのでしょう。
  だからこそ、「掃除しようよ」という結句に、非常なリアリティー
  が宿ります。
  どんな美学も芸術も、リアリティーに裏打ちされなければただの
  戯言なのです。

  -----------------------------------------

無造作に湯気拭いている 君の背のそばかすよ 美(は)し 妬むくらいに
                        素人屋 (素人屋雑貨店)

  冬の朝でしょうか。
  運動の後、熱気をさますために上半身裸になった人の背を、見ると
  もなしに見ている。
  寒気を物ともせずに晒されている背中の、筋肉の張り具合まで見え
  てくるようです。
  その美しさを、「背」全体でなく「そばかす」に凝縮したことで、
  ポイントが締まったように思います。
  個人的な好みですが、前2つの一字あけは無いほうが、歌の流れが
  よくなるのでは、と感じました。

  -----------------------------------------

コーヒーを美味しくいれて一度ではすまない話をしにきてもらう
              末松さくや (旅人の空(待ち人の雪別館))

  シエラザードの千夜一夜物語を思い浮かべました。
  「一度ではすまない話」って、ものすごく魅力的な言い回しですね。
  しかも、こちらから聞きに行くのではなく、「しにきてもらう」。
  この歌の世界に限っては、そのほうがずっと礼儀にかなっているよ
  うに思えるから不思議です。
  そういえば昔、アラビアではお酒の代わりにコーヒーが飲まれてい
  たとか。
  上二句に、主体のわくわくした気持ちが凝縮されているようです。