昨年のAAEPでの発表から。
-
Survival and Fertility Rates After Cesarean Section
帝王切開後の生存率と受胎率
Kimberly K. Abernathy, Michelle M. LeBlanc, Rolf M. Embertson, Scott W. Pierce, and Arnold Stromberg
緒言
帝王切開は難産で馬病院に来院する繁殖雌馬の15%以内ないし25%以内に行われている。
内科的あるいは外科的に問題がある繁殖雌馬に行われることもあり、あるいは予定して行うこともあるかもしれない。
帝王切開後の分娩率の成績は限られている。
材料および方法
1986年から2000年の間にRood and Riddle 馬病院で帝王切開した97頭の繁殖雌馬について調査した。
繁殖雌馬の年齢、尿膜破水から娩出までの時間、母馬の生存と子馬の退院、帝王切開前と帝王切開後3年間の累積分娩率を調べた。
結果および考察
帝王切開前の累積分娩率は79%、一方、帝王切開後の分娩率は、1年目が40.5%、2年目が61.3%、3年目が58.5%であった。
尿膜破水から子馬の娩出までの時間が90分以内であった母馬では帝王切開後の平均分娩率は73%であったのと比較して、90分を超えると51%であった。
16歳を超えていた母馬の帝王切開後の分娩率は30%であった。
帝王切開後の子馬の生存率は、難産した母馬では26%、予定された帝王切開では83%(5/6)、内科あるいは外科疾患があった繁殖雌馬では50%(10/20)であった。
難産の時間と繁殖雌馬の年齢はその後の分娩率を減少させていた。
胎盤停滞が最もよく起こる併発症であった(45/97;46%)。
分娩が長引かず、繁殖雌馬が16歳未満であれば、帝王切開後の繁殖雌馬においても満足のいく分娩率が達成しうる。
---
満足のいく分娩率 acceptable foaling rate 。
acceptable; ジーニアス英和辞典によれば、(特にすぐれてはいないが)受諾しうる、(一応)満足できる・・・ とある。
世界で1,2を争う馬病院であるRood and Riddleの規模は大雑把には私がいるセンターの10倍だろうと考えている。
診療・手術頭数も、施設も、収入も。
そのRood and Riddleで15年間に約100頭なので、それほど多くはない。
ただ、難産で来院する馬の15-25%に帝王切開している病院があるなら私達と比較して非常に多い。
-
「内科的あるいは外科的に問題がある繁殖雌馬で」とあるのは、繁殖雌馬が内科疾患や、あるいは骨折や蹄葉炎で帝王切開を選択したということだろう。
分娩兆候が現れていない馬の帝王切開で子馬が助かる率は良くない。
「予定された帝王切開」とは、難産で子馬を駄目にしたことがある繁殖雌馬で、分娩が始まったら帝王切開して娩出させようと入院していた馬だろう。
これはRood and Riddleでも6頭と多くないが、1頭を除いて子馬も生存している。
-
尿膜破水から娩出までの時間が90分をひとつの境目にしている。
破水からの時間なので、牧場で難産で、往診獣医師を呼んで、難産介助してみて、それから手術できる施設へ運んで帝王切開していたのでは、間違いなく90分を超える。
帝王切開で母馬も子馬も助け、その後の分娩率も期待するなら、人のようにお産は病院でするようにしなければならないだろう。
帝王切開をするために、やむなく来院、です・・・
苦しい環境の下でも、7~8年前に調べた記憶では
子馬の生存率は3割以上はあったと思います。
大暴れしない温順な重輓馬は
鎮静のみでも切れたので(いまはしないですけど)
子馬のダメージは少ないようです。
ただ、切って出した子は育てるのに大変苦労します。
四肢等の形態異常の率がかなり高いんじゃないでしょうか?
大きさゆえに、失位となるとどうしようもないのでしょうか。私も重輓馬の難産で「降参」したことがあります。
子馬の生存率3割は立派です。迅速な判断が不可欠ですよね。
鎮静剤、ケタミン、低濃度の吸入麻酔だと、全身麻酔が胎児に与える影響は少ないと思います。子馬を助けるなら、帝王切開するまでの時間が問題でしょうね。
うちでは、今年の分娩も何事も無く終わったのですが、やはりどきどきするシーズンです。
ケンタッキーの成績はかなりの部分がサラブレッド、スタンダードブレッドだと思います。それにクウォーターホースでしょうか。
ミニチュアポニーの難産はやっかいですが、基本的には大きな馬の方が大変だと思います。重輓馬で手の届かない失位があると、絶望感に打ちのめされます。身長が2mあればなんとかなるのかもしれませんが・・・
この病院は他のほとんどの病院にくらべ立地条件(?)が非常に恵まれていてほとんどの患畜が近距離にあるのでこの結果は一概に一般化する事は難しいと思います。
疝痛手術の結果もかなり良いらしいですがこれも距離が大きな要因になっていると思います。
また、ほとんどが競走馬で費用をケチらず何でも出来る事もきっと他と異なる点だと思います。
この病院やJRAからの報告はすばらしい結果のものがあっても残念ながら特殊条件下という事を外さずに検討しなければならないといつも感じます。
数時間かけて来院、しかもお金がない、という症例を今まで多く見てきた私にとっては羨ましい限りです。
たしかに、サラブレッド生産地の真ん中にある馬病院は条件的に恵まれているのでしょう。(うちもそうです!;笑)
USAでは数日かけて大学病院へたどり着く馬もいると聞いています。それでは、難産も、疝痛も、骨折も厳しいですよね。
私は逆にそのRood and Riddleでさえ、15年間に100頭というのは、多くないと思うのです。よほどのことなら帝王切開するが、よほどのことがないと帝王切開しない。ということではないかと。
助産お疲れ様でした。HDMとR&Rまで10分というのはすごい立地です。大切な馬を預ける先としては最高ですね。
しかし、USA経済の浮き沈みの激しさも聞いています。先進巨大馬病院にも厳しい時代かもしれませんね。
出張の際にはどうぞお立ち寄り下さい。