馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

分娩による空腸腸間膜裂、腹膜炎、そしてPOI

2017-03-24 | 急性腹症

分娩の翌日から軽度の疝痛を示し、翌翌日も痛い、という繁殖雌馬。、

夕方の連絡で来院することになった。

血液検査で、PCVが高かった。

超音波画像検査で、腹水があり、膨満した小腸ループが見えた。胃もひどく拡張している。

「開けた方がいいです」

その前に、胃カテーテルを入れて、胃液を抜く。20リットル以上抜けた。

                    -

空腸の腸間膜が裂け、血行を失った空腸が壊死していた。

もう破裂寸前。

胎動により腸間膜が破れたのだろう。

                           -

壊死した空腸から細菌が滲み出しているようで、

腹膜炎を起こしていて、腹水は黄色く濁っている。

5.5m空腸を切除して、回腸に端端吻合した。

回腸に吻合するのは気にしない。しかし、小腸全体が、内容を棄てても弛緩したままなのは大いに気になった。

                           -

腹腔を大量の生理食塩液で洗浄した。

                           -

術後の輸液には、メトクロプラミドを入れた。

翌日の、馬の顔つきは良かった。

発熱もなかった。

制限給水と、hand feeding を始めた。

午前中、ちょっと前搔きした。

すぐ治まったので、「なんだったんだろう?」くらいだった。

午後、はっきりした疝痛を示した。

水も草もやるのを止めた。

夕方、超音波で検査したら、小腸ループが見え、胃拡張もあった。

胃液が20リットルぬけた。

POI;Post Operative Ileus 術後イレウスだ。

リドカインとメトクロプラミドを入れて点滴を再開した。

                     -

夜、胃液が4リットル抜けたが、翌朝には胃液は抜けなかった。

超音波で観たら、内容がある小腸がまだ見えた。

さらに20リットルの輸液を続けた。それにもリドカインとメトクロプラミドを入れていた。

午後、少しずつ制限給水とhand feedingを再開した。恐る恐る。

仔馬を連れてきた。あまり長く離していると乳が上がってしまう(泌乳停止)。

                     -

翌日も点滴を続け、超音波で小腸ループがほとんど無いのを確認した。

その夕方、親子で帰って行った。

                     -

分娩後45時間ほど疝痛が続いていたこと、腹膜炎でエンドトキセミアがあったであろうこと、術前も胃拡張があり、胃液が大量に逆流したこと、術中の小腸が弛緩していて蠕動が見られなかったこと、などからPOIを起こしても不思議ではない症例だった

POI is a nightmare of equine surgeons. (術後イレウスは馬外科医の悪夢だ)

と韓国からの研修生に言ったけどすぐには通じなかった。

どうして、夜の雌馬、が悪夢の意味になるんだろう?

                    /////////////

きょうは、

1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

入院馬の超音波検査。

1歳馬の球節の外傷。

40日齢の仔馬の多発性関節炎。

午後は、私は会議。

                       -

馬の顔と蹄鉄の形をしたチョコレート。

あまり美味しそうぢゃない。

 

 

 

 

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ちびちび哺乳することの大切さ

2017-03-24 | 新生児学・小児科

動物医薬販売会社のMPアグロ株式会社が発行している「MPアグロジャーナル」1月号に、

子牛の哺乳は量から質へ! ~ちびちび哺乳のススメ~ という文章が載っていて、読んだらとても興味深かった。

乳用子牛の場合だが、

「子牛の増体の良い農家さんは、哺乳量が多い」ことを否定できない。

しかし、「哺乳量を上げることによって、下痢をする子牛もいる」。

ちびちび哺乳は一回の哺乳をゆっくりと哺乳しましょうということ」。

乳牛の哺育(浦上清、明文書房)によれば、体重1kgを増加させるのに要する哺乳量は、バケツ哺乳に比べて、ゆっくり哺乳では43.4%でよかった、とのこと。

ちびちび哺乳だと、消化酵素の分泌が間に合うので、消化不良性の下痢が減少する。

唾液を出すことで、脂肪分解酵素が有効に働く。

ちびちび飲むと誤嚥が防げるので、呼吸器病が減る。

ちびちび飲むと、第一胃に入って発酵異常を起こすことがなくなり、第一胃腐敗症が減る。

ちびちび哺乳することで、子牛が満足・満腹し、舐めあい・吸い合いがなくなる。

などということが書かれている。

                       -

先日、第四胃が穿孔していた人工哺乳されていた黒毛子牛に遭遇した

搾乳ロボットは、1回の哺乳量3.5リットルで日量10リットルに設定している、ということだった。

しかし、ちびちび哺乳ではなかったのだろう。

                       -

馬でも、新生仔馬に哺乳ビンで飲ませることのリスクはしばしば経験する。

元気がない仔馬に哺乳ビンで飲ませると、しばしば誤嚥させているし、

元気な仔馬はグビグビ飲むので、ついつい哺乳ビンの口を大きくして一気に飲ませてしまう。

人がミルクで育てる場合は、人になつきすぎないように、ボウルで飲ませるようにすることが推奨されているが、がぶ飲みさせて下痢させることが多い。

たぶん、仔馬でも本当はちびちび哺乳することが消化管の健康のためには望ましいのだろう。

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仔馬の肢まがりの手術。家畜共済非加入牧場。管外から。

1歳馬の外傷。家畜共済非加入。

1歳馬の腰フラのx線検査。家畜共済非加入。

繁殖雌馬の喉嚢真菌症。

その仔馬の細菌性関節炎・骨髄炎。

夕方、仔馬の骨折の連絡。

夜の大手術になった。

                   -

後光さす相棒。

オラはがぶ飲みは得意。

下痢したことはない。

 

 

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斜・傍正中切開による顆粒膜細胞腫卵巣摘出

2017-03-21 | 繁殖学・産科学

顆粒膜細胞腫GTCTと化した卵巣の摘出手術。

例によって仰臥位で、膝ヒダの内側を乳房へ向けて切開する。

「斜・傍正中切開」というらしい。

まあ、今日のは最大級というわけではなかった。

                        //////////

ボールをくわえてくるのはオラにまかせろ

 

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繁殖雌馬の空回腸纏絡

2017-03-20 | 急性腹症

きのうは休みで、夜は当番じゃなかった。

早朝、繁殖雌馬の疝痛の依頼。当番者に伝言した。

出勤したらその馬の開腹手術が始まるところだった。

実習生が来ていないので尋ねたら、3時まで手術していたので、まだ呼んでいない、とのこと。

電話して呼ぶ。

症例を観るために費用と時間をかけて実習に来ているのだ。私なら1例でも多く観たい。

                           -

小腸閉塞でひどい。

成馬の小腸閉塞で、完全膨満していたら助手が必要だ。

実習生に手を洗わせる(手指を消毒して、滅菌手袋を着けた助手をさせることをそう言う)。

しかし、絡んだ空回腸がほどけない。

それで私も手洗いして手術に参加した。

赤黒く変色した纏絡部を切開して減圧した。

そのことで、やっとほどけた。

腸間膜が破れていた。

12日前の分娩後からずっと調子が悪かったそうだ。

ひょっとすると分娩で腸間膜が破れたのかもしれない。

                       -

壊死部を切開して内容を棄てる。

腸間膜の血管を結紮止血する。

回腸を切断して、断端を閉じる。

壊死部を切除して、健康な部分を盲腸へ吻合する。

腸間膜を縫い付けて穴を閉じる。

                       -

腹腔洗浄した。

完全壊死した小腸からは、大量の炎症性サイトカインが腹腔内へ放出されているはず。

それだけでなく、腸間膜が破れていたので、出血もあり、フィブリノーゲンも腹腔へ出ている。

こういう症例の腹水中の乳酸値や細胞逸脱酵素も、血中以上に上昇していることが報告されている。

それらは、癒着の要因になるはず。

腹腔洗浄はその可能性をいくらか減らしてくれるだろう。

                       -

夜中中、疝痛に苦しんでいたらしい。

顔も肢も傷だらけ。

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きょうは暖かかった。

ことしは今日が春分の日だものね。

 

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1歳馬の回盲部閉塞

2017-03-20 | 急性腹症

2月半ばから2-3日おきに疝痛を示すという1歳馬。

そういう状態で一番疑うのは回盲部の重積だ。

葉状条虫症だと考えている。

その馬は、11月と2月にプラジクワンテルが入った駆虫剤を投与されている。

しかし・・・・・

                    -

前日からまた疝痛で、今日も痛い、とのこと。

超音波で診ると、食べていないわりに小腸内容が多い。

もう開腹手術してください、ということになった。

重積はしていないが、回盲部がひどく厚くなり、塊状になっていて、小腸の内容を盲腸へ押し込もうとしても少しずつしか押し込めない。

おそらく、回盲部重積を起こし、自然に抜けたが、回盲部が腫れ上がり、肉芽増勢し、通過障害を起こしたのだ。

回盲部重積と同じように、回腸を盲腸へ側側吻合するバイパス手技を行った。

空腸は例によってゴワゴワに肥厚しているのを感じたが、ひどく膨満はしていないので切開する必要はなかった。

その分、腹腔内に汚染した部分を残さなくて済む。

慢性の頻回疝痛なのだから、状態が悪いときに緊急で手術しない方が上等の手術ができる。

                          ---

当歳秋から1歳のうちは、葉状条虫に効く駆虫薬を使うべきだ。

前腸間膜根部に寄生虫性血栓をつくる普通円虫は、イベルメクチンを2ヶ月に1回やれば充分だ。

しかし、葉状条虫駆虫は4ヶ月に1回では足りない。

だから、当歳秋から1歳のうちは、葉状条虫に効く駆虫薬だけを使うのが良い。

                         //////////////

葉状条虫は草地にいるササラダニが中間宿主として媒介するとされている。

生産地の牧草地は、葉状条虫を持ったササラダニで汚染されているのだろう。

ヨーロッパに比べて、日高の馬の葉状条虫に対する抗体価はひどく高かった。

かつては、春に野焼きをしてダニなどの有害生物を減らすことが行われていた。

しかし、馬の放牧地は牧柵があるので野焼きはできないし、

今は、防火の点でも野焼きはほとんどできない。

それでも、きちんと対策をとって地域で野焼きをしている牧野もある。

奈良の三笠山や、九州阿蘇などが有名だ。

必要かつ不可欠な農業技術だと思うのだが。

(画像はお借りしたものです)

 

 

 

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