初産の馬は、分娩のときに仔馬の鼻先や肢が直腸を破ってしまい、肛門から鼻先や肢先が出てくることがある。
そのまま生まれてしまうと、肛門括約筋が切れて、直腸と膣の境がなくなる。
これは、第三度会陰裂傷と呼ばれている。
肛門から出てきた鼻や肢をなんとか押し戻して産道から産ませると、肛門括約筋は切れずに済む。
しかし、直腸から膣へ糞が漏れる状態はたいていその後も続き、直腸膣瘻と呼ばれる状態になる。
分娩の時にこういう傷害が起きた時、すぐに縫合することは推奨されていない。その理由は・・・・
・分娩時には産道周囲の腫れがあって、縫合しても癒合しにくいこと。
・癒合させるためには直腸が糞便で膨満しないように絶食と下剤投与が必要だが、たいていは仔馬は無事なので母馬の絶食は泌乳のために望ましくないこと。
・産道を縫合してあると、本交しか許されないサラブレッドでは、種雄馬の生殖器を傷つけることを嫌って、結局交配できないこと。
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というわけで、その年は交配をあきらめ、仔馬を離乳させてから手術することになる。
馬は直腸にかなりの量の糞を溜めてから怒責して排便するので、直腸を縫合しても正常便を踏ん張られると傷が破れてしまう。
それで、手術の数日前から絶食し、下剤を投与してもらう。
手術の1週間前からなどと書かれている教科書もあるが、私は2日前からにしている。
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枠場に馬を入れて、鎮静剤投与し、尾椎硬膜外麻酔すると、あとは鼻捻子保定で手術できる。
手術は数時間かかる。
助手二人に左右両側へ術創を広げてもらい、上を覗き込みながらたいへんな手術になる。
左の写真の馬は、直腸膣瘻にしては穴が大きいとのことだったので、吸入麻酔し、手術台で仰臥位にして行った。
仰向けにすると、腹圧で陰部が押し出された状態になり、陰部を開くと直腸粘膜が押し出されているのがよく見えた(左)。
手術は、直腸と膣の間を切り分け、直腸壁と膣壁にそれぞれ穴が開いている状態にして、それぞれを縫合して穴を閉じてから、直腸と膣を縫い合わせる方法でおこなったが、
手術台で仰臥で行うなら、膣側だけから手術することも可能かもしれない。
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今日は1歳馬の球節掌側、第一指骨翼の骨片摘出。もちろん関節鏡手術。
午後は血液検査をして・・・・
競走馬の喉頭片麻痺のTieback & Ventriculocordectomy 。
ここ数日、良く歩く。
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ジャパンカップ!Japan Cup! う~んっと、日高っ子、みんなガンバレ!
追加投与が必要になると思うのですが、留置針などを使う事になるのでしょうか。
牛の自然分娩で母体が傷つくことはないと思います。
巧くない分娩介助で膣壁裂創が起きたりするようです。
この場合ひどい出血をしますが、直腸も切れるという事はあまりないだろうと思います。
切れるとまずいのが子宮頚管部で、腹腔まで切れてしまうことも少なくないようです。
経膣で縫合してみましたが、完全に行うのは困難で、予後不良でした。
ただ、腹膜炎覚悟で頚管が閉じてくるのを待てば、うまく縫合できる可能性も出てくるのかと考えたりもします。
私の腕力ではここまで力をかけることは困難で、呼び出されてどうやればこうなるのかといつも思うのですが(苦笑)
硬膜外麻酔にキシラジンを使うと、少量で、局所麻酔薬を使うより長時間効くようです。尾椎麻酔は一度しっかり効けば再投与することはあまりしていません。
馬に比べると牛の第三度会陰裂傷の発生頻度は少ないようですね。しかし、私は数頭診ましたので、あるのだと思います。ひょっとすると直腸膣損傷にとどめておけば牛の癒合力で自然治癒するのかもしれませんね。
牛の子宮頚管はあれだけしっかりしている必要があるのでしょう。裂けてしまうと治癒させるのは難しそうですね。