馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

外反する腕節骨折のフルリムキャスト固定 2

2017-04-17 | 整形外科

馬整形外科の世界的権威にして現役の馬整形外科医でもあるペンシルヴァニア大学教授Dr.Richardsonに相談した。

「当歳馬ならフルリムキャストで早期に治るかもしれないが、1歳馬では内側にひどいキャストずれができて厳しいだろう。

短いLCP2本か3本を使って手根骨遠位列と第三中手骨を内固定するのが良いのではないか。

この骨折を内固定する方法はひとつではないが、自分ならそうする。」

という返事。

そして、細かく内固定の手技を教えてくださった。

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私は学会で4日間留守にしなければならなかった。

帰ってきたら様子しだいで、内固定手術をしようと考えていた。

しかし、問い合わせるとフルリムキャストに慣れて状態は良いとのこと。

そのままキャストで経過を観ることにした。

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3週間後、キャスト交換に来てもらった。

今度は全身麻酔してキャストをはずした。

キャストずれしていることは覚悟していた。

キャストずれの程度と腕節の安定度次第で、そのままキャスト固定するか、プレート固定手術するか、どちらもあきらめるか、になると考えていた。

腕節があまりに不安定でも、キャストずれがひどければもうプレート固定するのは感染のリスクが高くて厳しい。

肢は外反していたが、3週間前より異常な可動はなくなった。

副手根骨のところで当たって皮膚が破れてしまったが、腕節の内側は大丈夫だった。

それで、もう3週間キャスト固定で保存的に治療することにした。

今度は全身麻酔下なので、前回より落ち着いてフルリムキャストを巻くことができる。

しっかりモールディング(キャストを巻いた上から撫ぜつけて肢に沿わせる)した。

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はずしたキャスト。

副手根骨のところで当たってしまったのは、巻いている最中に馬が動いて腕節を少し曲げてしまったからだ。

少ししわになって、そこが当たった。

それでも外反しようとする肢に3週間フルリムキャストを巻いて、この程度のキャストずれなら上出来だ。

(つづく)

 


外反する腕節骨折のフルリムキャスト固定

2017-04-17 | 整形外科

1歳馬が腕節を骨折し、肢が外反している、との緊急連絡。

ロバートジョーンズバンデージを巻いて、肢の外側に、き甲まで伸ばした添え木をつけて来院した。

応急処置としてはほぼ完璧。

放牧地で見つけたときは、体重がかかると肢はグニャと外反していたが、RJバンデージと添え木をつけたら、歩けるようになった、とのこと。

そのまま、馬運車の中でXray撮影。

第二中手骨、第4手根骨、第4中手骨が骨折している。

そのことで、腕節遠位部が安定を失い、第4手根骨が粉砕しているのと、手根骨と中手骨を固めている靭帯が損傷して肢は外反してしまう。

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競走馬にするのは厳しい。

しかし、雌で、名血なので繁殖供用したい、とのこと。

この部分の骨折は何度か手術したことがある。

それらの馬は、手根骨の遠位列で最も大きい第三手根骨が第三中手骨と剥がれていたので、背側からTプレートを当てて固定した。

しかし、この馬はその動かない関節は剥がれていない。

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とりあえず、立ったままフルリムキャストで固定することにした。

フルリムキャストを巻く機会は、私でも多くない。

できるだけ肘近くまで巻く。(腕節を固定するのが目的だから)

腕節を少し屈曲させる。(完全に伸展させると肢が長くなりすぎるし、副手根骨のところでキャストずれする)

球節はやや伸展させる。(完全に直線にすると肢が長すぎるし、負重姿勢にすると種子骨のところでキャストずれする)

蹄は少しヒールアップし、ヒールブロックを入れる。(その方が馬が楽だから)

蹄尖部は磨耗に耐えられるように樹脂で補強する。(蹄が露出すると途端にキャストずれする)

キャストトップ、橈骨遠位の内側、副手根骨、種子骨は外科用フェルトで保護する。(キャストずれするポイントは決まっている)

なんとか上手く巻けた。

(つづく) 

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今日は爽やかな良い天気だった。

4月も半ばを過ぎた。

4月に入って開腹手術は10頭以上やっただろう。

それでも忙しいとは感じなくなった。