Journal of Equine Science(日本ウマ科学会の英文学術誌)に馬の疝痛の疫学データを分析したレポートが載っている。
A Retrospective Survey of Equine Acute Abdomen in a Breeding Region of Japan based on Agricultural Mutual Relief Insurance. 2006、17(1)17-22
家畜診療成績から見たわが国の生産地における馬の急性腹症の発生状況。
このような成績は海外では報告されているが、日本では獣医学上の研究としては報告がない。
馬が100頭いると年間18.6頭疝痛の発症があり、0.7頭は死んだ計算になる。そうだ。
治療された疝痛のなかみは、便秘・風気疝と腸炎が圧倒的に多かったことを示したのが左のグラフ。
これは手術も剖検もされていないので、あくまで診た獣医師のつけた病名だ。
多くの疝痛が確定診断のつかないものであることは海外でも報告されている。
しかし、これが死亡事故の病名となるとなかみはまったく異なる。
腸捻転、腸破裂、胃破裂、腹膜炎が消化器病のなかで死亡原因になっている病気であることがわかる。
多発する疝痛と、死亡につながる病名がこれほど異なることは、疝痛を診せられたときに、それが致命的な疝痛なのかどうか診断することが大切であることを示している。
腸捻転も腸重責も開腹手術以外では治せないし、馬の場合、開腹手術が遅れれば遅れるほど、開腹手術の成功率は悪くなる。
左のグラフは、死亡原因になった疝痛全体、腸捻転ほかの変位疝痛、腸破裂の発生の季節変動をしめしたもの。
変位疝は6月をピークに5月から8月までが多いことがわかる。腸破裂は3-5月に多く、分娩事故としての性格がうかがえる。
このような疝痛発生の季節変動は海外でも報告されているが、このように顕著ではない。
イギリスなどでは日高に比べて、涼しい夏、暖かな冬がそうさせているのだろう。
今回の成績は世界で最もはっきりした、疝痛発生の季節変動の報告だ。
左のグラフは、各年齢群別の疝痛による死亡率をあらわしたもの。
生産地に数が少ない3-5歳は別にして、15歳までは各年齢で死亡率に差はないが、それを越えると疝痛による死亡率が上昇し、21歳以上では非常に高くなることがわかる。
高齢馬は疝痛により死亡する率も高いのだ。
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このようなデータとその分析は疝痛を予防したり、診療したり、被害を減らしたりする上でたいへん役に立つと思う。
著者は・・・・・ウン? どこかで聞いたような名だ。。。。。