礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

海軍兵曹長「兵隊になって一番楽しみなのは何であるか」

2019-10-24 01:16:58 | コラムと名言

◎海軍兵曹長「兵隊になって一番楽しみなのは何であるか」

『戦線銃後 笑の慰問隊』という冊子(『講談倶楽部』一九三九年新年号付録)から、東秀蝶・林幹夫の「水兵漫才(学科の巻)」を紹介している。本日は、その四回目。
「兵」とあるのは、海軍兵曹長に扮した東秀蝶、「新」とあるのは、海軍新兵に扮した林幹夫である。

新『さうですね、年の下の阿母【おつか】さんもあります』
兵『そんなことはない』
水『イエあります』
兵『何だ』
新『御存じありませんか、義理のお母さん、お父さんの後妻、ヘツヘヽヽヽ』
兵『何だ、さういふ例は別物だ――兄さんは軍籍はなかつたのか』
新『ありますとも、トテモ偉いんです』
兵『陸軍か』
新『ハツ、陸軍です、宇都宮です』
兵『さうか、士官だね』
新『イエ――』
兵『では下士【かし】か』
新『くわし〔菓子〕なんかと違ふのです杯【さかづき】に風呂敷を買ひました』
兵『何だい、お前の話は』
新『除隊の土産【みやげ】ですよ……』
兵『分らん奴ぢやな、平ツたくいへば、 何になつて戻つたか』
新『星が七つで帰りました』
兵『七つ……それア何だい』
新『へえ、上等兵です』
兵『上等兵なら三つぢやないか』
新『右の肩が三つ、左の肩が三つ』
兵『合せて六つだ』
新『帽子に一つ』
兵『ハヽヽヽ』
新『上等兵で、腕に∧金【やまきん】です』
兵『伍勤【ごきん】か――それはよく出来たんだな、伍長勤務は隊でも少い、お前も負けんやうに、戻る時には三等兵曹ぐらゐになつて戻れ』
新『なれるかねえ――』
兵『成る、成れんはお前の腕一つぢやないか、平素真面目にやれ』
新『そんなら一つ(と、仁義の型)お引立願ひます』
兵『それア俺が上げてやるといふ訳に行かん。人を頼る気持を出すな自分で頑張れ、自分でやれ』
新『ハイツ、一生懸命やります』
兵『よし、併し、これから先の兵隊は、第一に学科が良くなければならない、学科の方はどうだね』
新『へえ。お蔭さまで……』
兵『何だお蔭さまとは……学科の方は良く出来るか』
新『マア満点で……』
兵『満点……』
新『さう思つてゐるので……』
兵『さう思つてゐてはいかん、よく分らないと、何か訊かれて困ることがある、今兵隊になつて一番楽しみなのは何であるか』
新『上陸をして物を食べることであります』
兵『上陸をして、物を食ふのが楽しみだ、困つたものだな、さういふことをいふと落第だ、仮令【たとへ】嘘にもしろ、自分は歴史が好きで、研究をして居りますとかいふのだ』【以下、次回】

 この漫才は、「水兵漫才(学科の巻)」という演目になっているが、ここでようやく、「学科」の話が出てくる。

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