礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「蛙葬」の遊びを近ごろの子どもはやらない

2014-04-17 04:54:28 | 日記

◎「蛙葬」の遊びを近ごろの子どもはやらない

 昨日の続きである。橘正一・東条操『本州東部の方言』(明治書院、一九三四)から、橘正一「前編 東北方言」の第三章「東北方言の単語」の一部を紹介している。昨日は、「〔一〇〕カヘルバ」の前半を紹介し、本日は、その後半である。
 橘は、昭和初年のこの段階で、「蛙葬の遊びは、今日では、もう少なくなつた」と言っている。今日では、おそらく「絶滅」に近い状態だと言ってよかろう。ただし、生物科学の世界では、この遊びに近い実験(冷凍させたカエルを蘇生させる)が、おこなわれているとも聞く。

 蛙葬の遊びは、今日では、もう少なくなつた。秋田県横手町、岩手県気仙郡広田村、能登、岡山県小田郡笠岡村などでは、老人は知つてゐるけれども、近頃の子供はやらない。しかし、岩手県九戸郡長内村、東京府元八王子村、佐渡、広島、山形県北村山郡東郷村、土佐幡多郡〈ハタグン〉田ノ口村、加賀などには今もある。殊に佐渡からは、その時歌ふ唄まで、二三報告されてゐる。一例を挙げると、「蛙どん生きさいの、おんぼこさんの弔ひに。」これからして、車前草の佐渡方言オンボコサンが生れる。もう一例、「蛙々、生きさいの、おんばこどんも菖蒲どんも、御弔ひに御座ッた。」これで見ると、菖蒲も処方されたらしい。加賀では、ドクダミや山椒の葉を覆ひかぶせる。その時の唄は、「ぎやんどん、ぎやんどん、いついつ死んだ。よんべ糟食ッて、今朝とう死んだ」。これに似た唄は丹後にもある。「雨蛙殿はいつ死なさッた。八日の晩に、甘酒のんで、つひつひ死なさッた」。山形県北村山郡東郷村の子供は、「びッきもさびッきもさ、なぜ死んだ。昨夜〈ユベナ〉の粕酔ッて、今朝死んだ。医者殿来たから戸をあけろ」と歌ふ。
 これらを見ると、蛙を半殺しにする手段として、酒粕を食はせて、酔はせたらしい。かういふ遊びは支那にもあつたと見えて、車前草のことを、支那では、蝦蟇衣(江東方言)又は、蝦蟇葉といふ。日本語のカヘルバに当る。
 土佐幡多郡田ノ口村では、半殺しにした蛙を、この葉で被ふ時、「はッこべ ようい」と呼ぶ。だから、オホバコの幡多方言はハッコベである。これによれば、八丈島中之郷村で、オホバコをハコベラと言つてゐるのも、必ずしも植物分類学の知識の欠乏のみに帰するわけにいかない。京都市の上京区・左京区では、ははこ草をハコベ、又は、ハコビといふ。この方言は、移民に伴はれて、遠く、北海道夕張町にまで移植されてゐる。播磨の福崎町や鹿谷村〈カヤムラ〉では、ははこ草をオバコといふ。所が目の前の淡路由良町では、おざなぐさを、オンバコといふ。岩手県下閉伊郡〈シモヘイグン〉船越村でも、オキナグサを、オバコ、又は、オバッコといひ、「オーバコ、オバコ、虱ハ中ニナレ、虫ノ子ハ上ニナレ」といふ童謡がある。これは、オキナグサの実に付いた毛をむしり取つて、それで毬を作る時歌ふもので、ムシノコは虱の卵の方言で、子房をたとへたもの、これが上になると毬がうまく出来る。白頭翁〈オキナグサ〉の名は、爺婆にたとへたものが多い。古語で祖父をオホヂといひ、祖母をオホバと言つた。白頭翁の岩手方言、オヂノヒゲ・オイヂノヒゲは即ち、オホヂノ鬚であり、オバカシラ・オバシラガ・オバコなどは、即ちオホバから来たものである。ヂヂババに譬へた〈タトエタ〉植物は、必ずしも、その形が白頭を連想させるものばかりではない、子供が植物に名づける態度は、植物学者が植物の新種にラテン語の学名を付けるのとは違つたものがある。だから、車前草のオホバコも、「大葉子」のみが唯一の語源説でもあるまい。

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1 コメント

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蛙を使う遊びだったとは知りませんでした。 (りくにす)
2014-04-18 20:50:46
山形県米沢市で母や祖母が歌っていたのは
「びっき殿びっき殿いつ死んだ 昨日の餅食って今朝死んだ お医者様来たから戸を開けろ からりんからりんこんにちは・・・」といったものでした。
「おちゃらか」みたいに隣の子と手を叩き合って歌い、最後にじゃんけんをする遊びで、蛙やオオバコを使ってやる遊びだったとは存じませんでした。
続きは「お前にやるものなんにもない あぶらげ一枚 こんにゃく一丁 あわせてじゃんけんぽん」です。びっき殿復活しません。ちなみにオオバコは「びっき草」です。

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