礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

優生手術とは生殖を不能にする手術をいう

2018-02-01 00:15:12 | コラムと名言

◎優生手術とは生殖を不能にする手術をいう

 昨日の続きである。一昨日(二〇一八・一・三〇)の東京新聞夕刊一面の記事に驚いたあと、これまで、「旧優生保護法」の条文に目を通したことがなかったことに気づき、あわててこれを確認した。以下に、その条文を挙げる。
 出典は、末川博編『六法全書』(岩波書店、一九四九年一〇月)。ここに載っている条文は、一九四九年(昭和二四)中の改正を経たもので、一九四八年(昭和二三)に制定されたときの条文ではない。

優生保護法 (昭二三・七・一三/法律第百五十六号)
  改正、昭和二四-法律一五四、法律二一六
 優生保護法をここに公布する。
優生保護法
  第一章 総則
 (この法律の目的)
第一条 この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。
 (定義)
第二条 この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもつて定めるものをいう。
2 この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。
  第二章 優生手術
 (任意の優生手術)
第三条 医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、任意に、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。
 一 本人又は配偶者が遺伝性精神病質、遺伝性病的性格、遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているもの
 二 本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているもの
 三 本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの
 四 妊娠又は分娩が、母体の生命に危険を及ぼす虞れのあるもの
 五 現に数人の子を有し、且つ、分娩ごとに、母体の健康度を著しく低下する虞れのあるもの
2 前項の同意は、配偶者が知れないとき又はその意思を表示することができないときは本人の同意だけで足りる。
 (強制優生手術の審査の申請)
第四条 医師は、診断の結果、別表に掲げる疾患に罹つていることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請しなければならない。
 (優生手術の審査)
第五条 都道府県優生保護委員会は、前条の規定による申請を受けたときは、優生手術を受くべき者にその旨を通知するとともに、同条に規定する要件を具えているかどうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者及び優生手術を受くべき者に通知する。
2 都道府県優生保護審査会は、優生手術を行うことが適当である旨の決定をしたときは、申請者及び関係者の意見をきいて、その手術を行うべき医師を指定し、申請書、優生手術を受くべき者及び当該医師に、これを通知する。
 (再審査の申請)
第六条 前条第一項の規定によつて、優生手術を受くべき旨の決定を受けた者は、その決定に異議があるときは、同条同項の通知を受けた日から二週間以内に、中央優生保護審査会に対して、その再審査を申請することができる。
2 前項の優生手術を受くべき旨の決定を受けた者の配偶者、親権者、後見人又は保佐人もまた、その再審査を申請することができる。
 (優生手術の再審査)
第七条 中央優生保護審査会は、前条の規定による再審査の請求を受けたときは、その旨を、手術を行うべき医師に通知するとともに、審査の上、改めて、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、再審査の申請者、優生手術を受くべき者、都道府県優生保護審査会及び手術を行うべき医師に通知する。
 (審査に関する意見の申述)
第八条 第四条の規定による申請者、優生手術を受くべき者及びその配偶者、親権者、後見人又は保佐人は、書面又は口頭で、都道府県優生保護委員会又は中央優生保護委員会に対し、第五条第一項の審査又は前条の再審査に関して、事実又は意見を述べることができる。
 (訴の提起)
第九条 中央優生保護審査会の決定に対して不服のある者は、第七条の通知を受けた日から一箇月以内に訴を提起することができる。
 (優生手術の実施)
第十条 優生手術を行うことが適当である旨の決定に異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは、第五条第二項の医師が、優生手術を行う。
 (費用の国庫負担)
第十一条 前条の規定によつて行う優生手術に関する費用は、政令の定めるところによつて、国庫の負担とする。
  第三章 母性保護【略】
  第四章 優生保護審査会【略】
  第五章 優生結婚相談所【略】
  第六章 届出、禁止その他【略】
  第七章 罰則【略】
  附 則
 (施行期日)
第三十四条 この法律は、公布の日から起算して六十日を経過した日から、これを施行する。
 (関係法律の廃止)
第三十五条 国民優生法(昭和十五年法律第百七号)は、これを廃止する。
 (罰則規定の効力の存続)
第三十六条 この法律施行前になした違反行為に対する罰則の適用については、前条の法律は、この法律施行後も、なおその効力を有する。
 (届出の特例)
第三十七条 第二十五条の規定は、昭和二十一年厚生省令第四十二号(死産の届出に関する規程)の規定による届出をした場合は、その範囲内で、これを適用しない。
 別 表
一 遺伝性精神病
 精神分裂病
 そううつ病
 て ん か ん
二 遺伝性精神薄弱
三 顕著な遺伝性精神病質
 顕著な性慾異常
 顕著な犯罪傾向
四 顕著な遺伝性身体疾患
 ハンチントン氏舞踏病
 遺伝性脊髄性運動失調症
 遺伝性小脳性運動失調症
 神経性筋い縮症
 進行性筋性筋栄養障がい症
 筋 緊 張 病
 先天性筋緊張消失症
 先天性軟骨発育障がい
 白  児
 魚りんせん
 多発性軟性神経線維しゆ
 結節性硬化症
 先天性表皮水ほう症
 先天性ポルフイリン尿症
 先天性手掌足しよ角化症
 遺伝性視神経い縮
 網膜色素変性
 全 色 盲
 先天性眼球震とう
 青色きよう膜
 遺伝性の難聴又はつんぼ
 血 友 病
五 強度な遺伝性奇型
 裂手、裂足
 先天性骨欠損症

 第二条に、いきなり、「この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもつて定めるものをいう。」とあったことは、やはりショックであった。
 第四条から第十条までの間、「本人の同意なしに」という言葉は、ひとことも含まれていない。しかし、よく読めば、これらの条文が、本人の同意なしに強制される「優生手術」を定めていることは明白である。
 なお、第五条のはじめに、「都道府県優生保護委員会」とあるのは(下線注意)、「都道府県優生保護審査会」の誤植と思われる。

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