「でもさ、結局、人間は一人ぼっちなのよ。だから、日本人はお互い笑顔になれる相手を探しているの」
「それこそ、死ぬまで永遠に、ね・・・」
と、佐々木アスナ(29)は言葉にしていた。
ここはアスナの行きつけのバー「スターダスト」。細身のイケメンのマスター(32)は若い頃、
中東からヨーロッパを放浪したとかで語学に堪能で、外国人のお客も少なくない、静かなバーだった。
「でも、私達みたいなマイノリティは余計、そういう思いが強いわよね」
「あなたはバイセクシャル、わたしはレズビアンだもの・・・一層孤独感はつのるわ」
と、アスナの恋人、出田ソノコ(34)も、アスナの横で言葉にしている。
「そうお?わたしはしあわせよ。わたしにはあなたと言う、れっきとした恋人がいるんだし」
「あなたはわたしがオトコに抱かれることすら、許してくれている。そういうラッキーな人生はそうそうないんじゃない?」
と、アスナはスティンガーを飲みながら、笑顔で言葉にする。
「アスナはわたしひとりだけで専有していい人間じゃないわ」
「それにあなたを笑顔にしておくことこそ、わたしのしあわせなんだし・・・」
と、ソノコはグレープフルーツサワーを飲みながら言葉にしている。
「だってわたし、ただの冴えないオバサンだもの・・・」
と、ソノコは少し涙をうかべた感じで話している。
「ったく、また、酔ったの?しょうがないわね・・・寂しがり屋でイジケグセのあるソノコは・・・」
「いいわ、今日も抱いてあげる。気絶するくらい気持ちよくしてあげるから、見ていなさい」
「さ、あなたのアパートの部屋まで今日も行くわよ・・・」
と、オトコマエなところのあるアスナは言葉にすると、
「マスター、お勘定!」
と、笑顔で言葉にしながら、元気よく立ち上がっていた・・・。
土曜日、朝、ソノコのアパートで簡単な朝食を摂ると、アスナはソノコのアパートを後にしていた。
保険外交員であるソノコは今日も仕事があるとかでそそくさと家を出る支度をしていたからだ。
「保険のおばちゃんの生活も大変らしいわね・・・」
「ソノコ、がんばっているもの・・・わたしにはちょっと無理な仕事だわ・・・」
と、アスナは思っている。
土曜日の朝の風景・・・犬の散歩をしているおばちゃん達・・・なんとなくしあわせそうだ。
「そうかしら。なんとなく、犬を飼う人たちって・・・特におばちゃんは人生がふしあわせって言ってるように思えるわ」
と、アスナは思っている。
「旦那に恋をして結婚したものの、サラリーマンの旦那はただ真面目なだけで、妻をしあわせな思いにすら出来ない」
「子供を産んでみたものの・・・確かに子供はかわいいけれど、反抗期が過ぎればあとは出て行くだけで」
「決して自分を必要とはしてくれない・・・おばちゃんは、あとに残った人生を楽しむためだけに犬を飼って愛情を与える先を」
「確保しているに過ぎない・・・そんな風に思えるわ・・・」
と、アスナは考えている。
「それって決してしあわせな風景じゃないわ・・・」
と、アスナはひとり考えていた・・・。
「しあわせって・・・必要とされるって事なのかしらね・・・愛する相手から・・・」
と、アスナは遠くを走る電車を見つめながら、ひとり物思いにふけっていた・・・。
その日の午後、アスナはあるオトコのアパートにいた。
二人は全裸でオトコの布団の中にいた。
「アスナさんって、本当にいい顔をしますよね。特にイク時なんか・・・」
と、そのオトコ、玉木コウ(21)は言った。
「だって、しあわせを感じるもの・・・そういう時って」
と、アスナはコウを正面から見つめながら言う。
「でも・・・一体全体、しあわせって何なのかしらね・・・」
と、アスナはため息をつくように言葉にする。
「しあわせですか?・・・それって永遠の課題って気がするな」
と、コウは言葉にする。
「僕はこうやってアスナさんと一緒の布団にいれる事がしあわせですけど・・・」
「でも、アスナさんは僕を恋人としては見てくれていないのは・・・わかっていますよ・・・」
「僕、まだ、若いし・・・」
と、コウは言葉にする。
「アスナさんにすれば、僕はセフレみたいなもんなんでしょう?」
と、コウは言葉にする。
「さあ、どうかしら?」
と、アスナははぐらかしている。
「人間、なんでもかんでも言葉にすればいいってモノじゃないわ」
「言葉にしない方がいいものもある・・・だって人間は感情の生き物なんですもの・・・」
と、アスナは言葉にした。
「あやふやにしておいた方がいい・・・そういう事もあるって事?」
と、コウ。
「そうよ。特に女性は毎日生まれ変わる生き物よ・・・昨日はあんな風に思っていても」
「今日になったら、違っていた・・・なんて事はざらにあるわ・・・」
「女性は自由な生き物だから・・・」
と、アスナ。
「だからこそ、男性は翻弄されるんですけどね・・・」
と、コウ。
「だから、女性は結婚になんて本当は向いていないのかもしれない・・・」
「自分に自信のある女性は自ら、魅力的な男性を捕まえる事が出来るから・・・」
「女性の正体こそ、カマキリかもしれない」
と、アスナ。
「え。それって、交尾のあと、オスを食べてしまうカマキリこそ、女性の本性だって言う事を言ってます?」
と、コウ。
「ええ。だから、交尾までは女性は特定の男性を必要とするけど・・・」
「交尾さえしてしまえば・・・別の男性を必要とするのが、女性の正体なんじゃないかしら・・・」
と、アスナ。
「って事は、僕はアスナさんに食べられてしまうかもしれない、カマキリのオス役・・・って事ですか?」
と、コウ。
「冗談よ。でも、今日のコウくんも十分に美味しかったわ」
と言いながら、裸のまま、少し顔を赤らめるアスナだった。
「ふーん、例の大学生とまだ、つきあっていたんだ・・・アスナの事だから、もうとっくに切れたかと思ってた」
と、その夜、ソノコは自分のアパートの6畳の部屋で、アスナとお酒を飲んでいる。
「そうね。いつもだったら、とっくに捨てている状況だけど」
「なぜかコウは捨てるつもりにならないのよね・・・」
と、アスナ。
「アスナはそれこそ、カマキリそのものだもんね。煩わしくなったら、パッと捨てて、すぐに、新しい獲物を捕まえているもの・・・」
と、ソノコ。
「だって、女性は恋する為に生きているのよ・・・交尾の機会はシビアに増やしていかなきゃ・・・損じゃない?」
と、アスナ。
「うーん、でも、それって若くて美貌のアスナだからこそ、出来る生き方でしょう?」
「でも、それってしあわせって事なのかな?」
と、ソノコ。
「わたしはアスナに抱かれる時、もっともしあわせを感じるけど・・・人間ってそれだけがしあわせって事じゃないと思うわ」
「だって、それって即物的過ぎない?エッチ以上にしあわせって事も感じてたような気がするもの・・・過去のわたし・・・」
と、ソノコ。
「そうね。それは確かにそうかもしれないわね・・・と言うか、そのしあわせを探すのが人間の一生と言うものじゃないのかしら・・・」
と、アスナ。ビールのピッチが速い。
「でも、それなら・・・早くにそのしあわせと言うモノを探しておいた方が・・・人生全体のしあわせを増やしていけるような気がするけどな・・・」
と、ソノコ。焼酎の水割りを飲んでいる。
「でもさ・・・今はわたし、アスナに抱かれればそれでいいわ。それだって随分、しあわせだもの・・・」
「ああ、アスナ・・・キスして・・・そして、激しく抱いて・・・」
と、ソノコはアスナの唇を求めた。
「そうね。即物的ではあるけれど・・・これもまた、しあわせを感じる方法なのよ・・・わたし達マイノリティでも、楽しめるしあわせの・・・」
と、アスナは言いながら、ソノコにキスをすると、自分の服を脱ぎ始めるアスナだった。
(つづく)