クンクン‥
教室の前へとやって来た雪は、ずっと髪の毛の匂いを嗅いでいた。
一応洗ったのに‥
先程河村静香から掛けられたコーヒーの匂いが、髪の毛に染み付いて離れない。
雪が溜息を吐いていると、不意にポケットの中の携帯が震えた。
あたしちょっと遅れるね
送信主は吉田海だ。
雪が彼女にメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
どうしたの? 前のバスが事故ったみたいで
ひゃー!気をつけて来てね
そうメッセージを送って、二人のやり取りは終わった。
雪は携帯を見つめながら、一人考えに耽っている。
「ふぅん‥」
すると廊下の先に、見慣れた後ろ姿が目に入った。
「あ!聡美!」
声を掛けられた伊吹聡美は、ゆっくりと雪の方へと振り向く。
ゲッソリ‥
???
そのやつれた聡美の顔を見て、思わず雪は目を見開いた。
合流した二人は、とりあえず共に教室へと入って行く。
「教授、20分くらい遅れるみたいです」「なーんだ」
その知らせを受けて、教室内はザワザワと騒がしくなった。
佐藤と並んで座っていた柳楓は、ドアから見知った後輩が入って来たのを見て立ち上がる。
「お!赤山ちゃん!伊吹ちゃん!よぉ~ッス!」「こんにちは」
雪は柳に挨拶をしながら、教室の中へと歩を進めた。
すると柳は雪の近くでフンフンと匂いを嗅ぎ、疑問符を浮かべる。
「ん?コーヒーの香水かなんかつけた?」「う‥いえ‥」
(そんな会話をしている雪と柳の横で、聡美はまるで魂が抜けたかのようにボーッとしていた)
彼らはワイワイとお喋りをしながら、互いに近くの席に腰掛ける。
糸井直美はそんな彼らの姿を睨みながら、フンと小さく息を吐いた。
そして教室に入って来た先輩を見つけると、笑顔を浮かべて彼に近づく。
「健太先輩~!」「おお、糸井!なーコレ見た?」「見ましたよ~マジウケるんですけど」
健太と直美は、いつの間にかかなりの親密さを有していた。
雪は半ば呆れた気持ちでそれを見ながら、やはりコーヒー臭い髪の毛を気にしている。
マジでコーヒーの香水つけてねーの?
すると教室内に、直美の甲高い声が響き渡った。
「えー!本当に面接まで進んでるんですかー?!」
その言葉に、皆の視線が彼らに注がれる。
「マジマジ~」「わ~!おめでとうございます!」
健太はニヤニヤと笑いながら、聞こえよがしにこう言った。
「俺も近い内、大学生活にピリオドかもな!ははは!」
暫ししかめっ面でそれを聞いていた柳だが、不意にパッと笑顔を浮かべ口を開いた。
彼特有の愛嬌と人懐っこさで、健太の気持ちを上げていく。
「おお~!そうなんすか!」
「おめでとっす!良かったじゃないすか健太先輩!」
「おお。ま、お前らにも絶対チャンスは巡って来るからよ。諦めないで頑張ることだな!」
鼻高々でそう話す健太。
すると柳はピッと人差し指を立て、健太の話にこう切り込んだ。
「まぁそれでも、人生が全部思い通りになるワケじゃ無いっすよ」
「面接の結果はまだ分かんないワケですし、卒験の準備も手を抜けねーっすよね。
両方の準備しとかなきゃじゃねーすか?」「こんにゃろ‥」
そう言って釘を刺す柳に、健太の顔がピキピキと引き攣った。
健太は柳を指差し、大きな声でこう叫ぶ。
「おい!人のことに口出す前に、自分こそちゃんとしろよ?!」
「あ、俺はキッチリやってるんで。先に就職キメた淳も超助けてくれますし」
「だ~よな?赤山ちゃん!」
柳はそう言って、笑顔で雪に同調を促した。
雪は未だ髪の毛を気にしながら、真ん丸い目を彼に向ける。
そして一言「ハイ」と返事した。
柳はクククと笑いながら「淳の過去問持ってんのかな~?アンタらはww」と口にする。
マジむかつく‥ なんなの
明らかな不満を顔に出して、健太と直美はこちらを見ていた。
雪はその状況を前にして、頭の中にある意図がゆるゆると展開して行くのを知る。
雪は柳に向かって、こう切り出した。
「それじゃグループ作って勉強会します?」
柳は乗り気だ。
「お?!そうしちゃう?!」
呆気に取られる健太と直美の前で、彼女のグループはジワジワと広がって行く。
「あの過去問、淳が書き足しも整理もめっちゃしてくれてるんだよな!佐藤、お前もやるか?」
「え?」
「あ‥それじゃ‥」「よっしゃ!」
佐藤も仲間に加わった。すると後方から、遅れて登場した彼女が声を上げる。
「あたしも!」「海ちゃん!着いたんだ」
「うん、一緒にやろ。バスの事故は?」
「OK 遅れるから他の乗って来た」
海も仲間に加わった。雪と柳は会話を続ける。
「人数少ないですかね?」「だなー。後で皆来たらまた聞いてみるわ。
赤山ちゃんも何人か呼びかけてみてよ」「ハイ」
そして柳は、聞こえよがしにこう言った。
「何人集まるかなぁ~?」
上機嫌で口笛を吹く柳。
健太は怒りでブルブルと震えながら、じっと彼を睨んでいる。
雪は教室内のそんな状況を、一人じっと眺めていた。
組み敷いた意図が、周りの環境や人間模様に反応して自然と展開して行くのを。
すると不意に、隣に座っている聡美が声を掛けて来た。
「雪、雪」
「ん?どした?」「ちょっと飲み物飲み行こう」
弱々しい声でそう言う聡美の顔を見てみると、明らかに憔悴していた。
目の下にあるクマが、余計に彼女をゲッソリと見せている。
雪はそんな聡美を前に、改めてビックリした。
これは何かあるに違いない‥。
「行こ。私はさっき飲んだからパス」
そう言って雪は、鞄を置いて席を立った。
これが後々、一つの騒動の種になる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼女のグループ>でした。
明らかに健太直美VS柳佐藤雪 ですね~。
この図式が作りたくて「佐藤に借りたノートPC壊したのを柳のせいにした」事件があったのか‥。
そしてゲッソリしてる聡美‥。
いつもはオシャレさんなのに、服も髪型も超適当になっちゃってる‥
次回は<彼の願い>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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教室の前へとやって来た雪は、ずっと髪の毛の匂いを嗅いでいた。
一応洗ったのに‥
先程河村静香から掛けられたコーヒーの匂いが、髪の毛に染み付いて離れない。
雪が溜息を吐いていると、不意にポケットの中の携帯が震えた。
あたしちょっと遅れるね
送信主は吉田海だ。
雪が彼女にメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
どうしたの? 前のバスが事故ったみたいで
ひゃー!気をつけて来てね
そうメッセージを送って、二人のやり取りは終わった。
雪は携帯を見つめながら、一人考えに耽っている。
「ふぅん‥」
すると廊下の先に、見慣れた後ろ姿が目に入った。
「あ!聡美!」
声を掛けられた伊吹聡美は、ゆっくりと雪の方へと振り向く。
ゲッソリ‥
???
そのやつれた聡美の顔を見て、思わず雪は目を見開いた。
合流した二人は、とりあえず共に教室へと入って行く。
「教授、20分くらい遅れるみたいです」「なーんだ」
その知らせを受けて、教室内はザワザワと騒がしくなった。
佐藤と並んで座っていた柳楓は、ドアから見知った後輩が入って来たのを見て立ち上がる。
「お!赤山ちゃん!伊吹ちゃん!よぉ~ッス!」「こんにちは」
雪は柳に挨拶をしながら、教室の中へと歩を進めた。
すると柳は雪の近くでフンフンと匂いを嗅ぎ、疑問符を浮かべる。
「ん?コーヒーの香水かなんかつけた?」「う‥いえ‥」
(そんな会話をしている雪と柳の横で、聡美はまるで魂が抜けたかのようにボーッとしていた)
彼らはワイワイとお喋りをしながら、互いに近くの席に腰掛ける。
糸井直美はそんな彼らの姿を睨みながら、フンと小さく息を吐いた。
そして教室に入って来た先輩を見つけると、笑顔を浮かべて彼に近づく。
「健太先輩~!」「おお、糸井!なーコレ見た?」「見ましたよ~マジウケるんですけど」
健太と直美は、いつの間にかかなりの親密さを有していた。
雪は半ば呆れた気持ちでそれを見ながら、やはりコーヒー臭い髪の毛を気にしている。
マジでコーヒーの香水つけてねーの?
すると教室内に、直美の甲高い声が響き渡った。
「えー!本当に面接まで進んでるんですかー?!」
その言葉に、皆の視線が彼らに注がれる。
「マジマジ~」「わ~!おめでとうございます!」
健太はニヤニヤと笑いながら、聞こえよがしにこう言った。
「俺も近い内、大学生活にピリオドかもな!ははは!」
暫ししかめっ面でそれを聞いていた柳だが、不意にパッと笑顔を浮かべ口を開いた。
彼特有の愛嬌と人懐っこさで、健太の気持ちを上げていく。
「おお~!そうなんすか!」
「おめでとっす!良かったじゃないすか健太先輩!」
「おお。ま、お前らにも絶対チャンスは巡って来るからよ。諦めないで頑張ることだな!」
鼻高々でそう話す健太。
すると柳はピッと人差し指を立て、健太の話にこう切り込んだ。
「まぁそれでも、人生が全部思い通りになるワケじゃ無いっすよ」
「面接の結果はまだ分かんないワケですし、卒験の準備も手を抜けねーっすよね。
両方の準備しとかなきゃじゃねーすか?」「こんにゃろ‥」
そう言って釘を刺す柳に、健太の顔がピキピキと引き攣った。
健太は柳を指差し、大きな声でこう叫ぶ。
「おい!人のことに口出す前に、自分こそちゃんとしろよ?!」
「あ、俺はキッチリやってるんで。先に就職キメた淳も超助けてくれますし」
「だ~よな?赤山ちゃん!」
柳はそう言って、笑顔で雪に同調を促した。
雪は未だ髪の毛を気にしながら、真ん丸い目を彼に向ける。
そして一言「ハイ」と返事した。
柳はクククと笑いながら「淳の過去問持ってんのかな~?アンタらはww」と口にする。
マジむかつく‥ なんなの
明らかな不満を顔に出して、健太と直美はこちらを見ていた。
雪はその状況を前にして、頭の中にある意図がゆるゆると展開して行くのを知る。
雪は柳に向かって、こう切り出した。
「それじゃグループ作って勉強会します?」
柳は乗り気だ。
「お?!そうしちゃう?!」
呆気に取られる健太と直美の前で、彼女のグループはジワジワと広がって行く。
「あの過去問、淳が書き足しも整理もめっちゃしてくれてるんだよな!佐藤、お前もやるか?」
「え?」
「あ‥それじゃ‥」「よっしゃ!」
佐藤も仲間に加わった。すると後方から、遅れて登場した彼女が声を上げる。
「あたしも!」「海ちゃん!着いたんだ」
「うん、一緒にやろ。バスの事故は?」
「OK 遅れるから他の乗って来た」
海も仲間に加わった。雪と柳は会話を続ける。
「人数少ないですかね?」「だなー。後で皆来たらまた聞いてみるわ。
赤山ちゃんも何人か呼びかけてみてよ」「ハイ」
そして柳は、聞こえよがしにこう言った。
「何人集まるかなぁ~?」
上機嫌で口笛を吹く柳。
健太は怒りでブルブルと震えながら、じっと彼を睨んでいる。
雪は教室内のそんな状況を、一人じっと眺めていた。
組み敷いた意図が、周りの環境や人間模様に反応して自然と展開して行くのを。
すると不意に、隣に座っている聡美が声を掛けて来た。
「雪、雪」
「ん?どした?」「ちょっと飲み物飲み行こう」
弱々しい声でそう言う聡美の顔を見てみると、明らかに憔悴していた。
目の下にあるクマが、余計に彼女をゲッソリと見せている。
雪はそんな聡美を前に、改めてビックリした。
これは何かあるに違いない‥。
「行こ。私はさっき飲んだからパス」
そう言って雪は、鞄を置いて席を立った。
これが後々、一つの騒動の種になる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼女のグループ>でした。
明らかに健太直美VS柳佐藤雪 ですね~。
この図式が作りたくて「佐藤に借りたノートPC壊したのを柳のせいにした」事件があったのか‥。
そしてゲッソリしてる聡美‥。
いつもはオシャレさんなのに、服も髪型も超適当になっちゃってる‥
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引き続きキャラ人気投票も行っています~!
健太+直美さん、もれなく2人まとめて撃退…の図式ですかね笑
読者までも散々イラつかせてくれた2人、どんなラストなのか…
そして今回はラスボスは先輩ではなく雪なのか…
恐ろしい結末が待ってそうです~。
直美さんも横山と付き合ったり、清水香織やら健太やら仲間にして残念ですね…
最初はここまで展開に絡むキャラとは思わなかったです