Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

青い春(3)〜又斗内参上〜

2017-12-26 01:00:00 | 淳のドキドキラブコメ


多くの学生で賑わうキャンパスを淳は一人で歩いていた。

卒業写真の撮影のために着飾った四年生と何度もすれ違う。

淳もダークスーツにシルクのタイという盛装だった。

久しぶりにキャンパスを訪れた四年生も少ないようで、校舎の近くでは再会を喜ぶ声が飛び交っている。



「青田さーん!」



柳楓が後ろから駆け寄ってきた。

「かっこいいね。どこのモデルかと思った」「おちょくらないでよ」



振り向いた淳は思わず立ち止まった。

柳の髪型が変だ。



ワックスで固められた髪が突起のように逆立っている。

人差し指くらいの大きさの突起が、頭から生えた角のようにいくつも飛び出しているのだった。

まるで、とりあえず目立てばいいだろうという投げやりな気持ちでデザインされたゆるキャラみたいな頭だ。


*イメージ



触ってみたい……。

ポケットに突っ込んでいた淳の手が突起に伸びかけた。

「ほら、みんな目がハートだ。スーパーイケメン淳ちゃん」



そう言われて周囲の視線に気付き、慌てて手を止める。

柳の髪型には、思わずプチプチと潰したくなる気泡入り緩衝材のように、

妙に触れてみたくなる不思議な魅力が感じられた。



この髪型を真似すれば、雪も頭を触りたいという衝動を抱いて、どついてくるかもしれない。

淳は微笑んで、事務室へ行くところだったと柳に告げて歩き出した。



さっそくワックスを買おうと生協へ向かっている時、ポケットの携帯が振動した。



〈先輩 授業のプリントを渡したいのですがどこにいますか?〉



「雪ちゃん?!」



メールの文面に驚いて、淳は彼女の名を叫んだ。

周囲の学生たちがいっせいに振り向く。



どうも雪が絡むと無意識にラブコメキャラになってしまう。

好奇を帯びた視線をやり過ごしながら、淳は気をつけなければと思った。

あらためてメールを読み直し、「プリント」と小さく口にする。










床に落ちたプリントを親切に拾う素振りを見せてから、

いきなり足蹴にするネタは淳のお気に入りで、雪にも一度見せたことがある。



これがネタだと気付かず鬼畜の所業と見なす学生もいたが、

やはり雪は完全な理解者だ。



口の端を上げて淳は返信を送った。



学館の2階まで持ってきてもらえると嬉しいな^^











学館二階の廊下で雪を待っていた淳は、

窓ガラスに映る自分の姿に目をとめた。



いつもと変わらない髪型に、ワックスを買い忘れてしまったと気付いた。

プリントの新ネタで頭がいっぱいで、まっすぐ学館まで来てしまったのだった。

もし変な髪型の柳にキャンパスで出会ったら、雪はどんな反応をするだろう。



やはり反射的にどつくだろうか。



ふとそう思ってから、淳はすぐに首を振り、

「何を考えているんだ」と口の中で呟いた。










眼下にプリントを手にした雪の姿があった。

淳の視線が明るい色の髪に吸い寄せられていく。







春のせいだろうか。



卒業を控えて、残された限りある時間、

日々に、意味がほしいと思った。



髪型にも、意味がほしい。

俺だけじゃなくて、雪の髪型も考えてみよう



そう思った。

「先輩?」



携帯を手にした淳に、雪が声をかけた。

「一緒に写真撮ろうよ」



と言って、淳は雪と並んで写真を撮った。

雪は写り方が気に入らないようで、消してほしいと言ったが、淳は取り合わなかった。





自宅のパソコンで写真に合成を加えて、

いろいろな髪型を試してみるつもりだった。


*アフロバージョン



同級生たちとの飲み会で、隣に座っていた男子学生が、

淳が前に撮った写真を送ってほしいと言った。

「どの写真?」



淳が聞くと、学生は淳の携帯の画面を覗き込んだ。

そして、淳と雪のツーショット写真を見つけて声を上げる。

「誰、彼女?」「え?」



思いがけない問いかけだった。

これはひょっとしてボケなのだろうか。淳は無表情で学生を見返した。

突っ込むべきか逡巡する。



短い沈黙の後で淳が答えた。

「‥違うよ」「なーんだ」



学生は拍子抜けしたようなようすだったが、

すぐに「じゃあ、紹介してもらおうかな」と言った。



「そういう子じゃないから、やめてくれないか」



語気鋭く言って、淳は立ち上がった。

この学生だけではなく、もしかしたらネタを振られたのかもしれないと考えた自分にも腹を立てていた。

やっぱり俺の相方は雪しかいない。

そう確信を深めてテーブルを離れた淳の耳に、同級生たちの困惑したような話し声が届いた。







理由もわからないまま、感情は揺れ動いていく。



頭をどついてほしいだけなのに、雪のリアクションは期待の斜め上をいく。

手のひらで口を塞がれた時は、なんて斬新なツッコミなんだろうという感動で、しばらく言葉が出なかった。



雪の表情は真剣で、迫力さえ感じられた。



必死に新しいコメディのあり方を追究するその姿勢に、自分の姿を重ねていた。




俺にとっての相方が雪しかいないように、雪にとっての相方は俺しかいない。

ずっとそう思っていた。


でも、それがただの思い込みに過ぎないことを知った。


「雪ねぇ、今日、合コン行くんですよ」



学食で雪の後輩が浮かれたようすで言った。

「合コン?」



雪が飛び出して行った学食の出入り口に顔を向けて淳は聞き返した。

後ろ姿はもう見えなかった。

「見た目だけじゃなくて、名前もイケメンなんですよ。またとないナイスガイ、又斗内!」



笑撃だった。



またとないナイスガイ、又斗内。

語呂の良さ、バカバカしさ、インパクト、全てが完璧だと感じた。

ラブコメ主人公に必要なあらゆる要素を包括するまたとない名前、又斗内。

こんな、生まれながらのボケ担当みたいな手合いとツッコミの異才である雪が邂逅すれば、

とんでもない化学反応が起きるのではないか。

強い焦燥感に襲われ、淳は現場近くでの張り込みを決意した。







その夜、目の前に現れた雪は、少し前までレストランにいたとは思えないような姿だった。

薄汚れたワンピースから伸びた脚にはいくつも擦り傷があり、靴を履いていなかった。



舗道を力なく歩き、時おり、苦痛に顔を歪ませる。



淳は戦慄した。



いったいどんなツッコミをすれば、こんな格好になるんだ?

雪は文字通り、体を張ったツッコミを敢行したにちがいない。

またとないナイスガイ、又斗内。

名前からして反則技みたいな男が、雪の全身全霊のツッコミを引き出したのだ。







その事実に打ちひしがれ、淳は「送っていく」と雪の腕を掴んだ。

もし、雪と一緒にレストランへ行き、ツッコミを入れてもらえなければ、俺は二度と立ち直れないだろう。

初対面の食事で雪にツッコミを入れさせた又斗内の名前を心に刻み、

雪と食事に行くまでにボケを徹底的に磨き上げようと淳は誓った。



「君と一緒にご飯を食べることが、こんなに大変なことだったなんてな」



人生で初めて味わう敗北感だった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<青い春(3)〜又斗内参上〜>でした。

又斗内が参上しましたね‥!といっても名前だけでしたが(笑)

探すと文面にピッタリなコマがいくつもあってとっても楽しいですww


次は早くも最終回、<青い春(4)〜名前ボケ〜>です。

最新の画像もっと見る

2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (りんご)
2017-12-26 22:26:17
こんなコマ(顔)あったっけー!ってのがいくつもありました
アフロ以外合成してないですよねー??
ピッタリすぎるー!笑


『君と一緒にご飯を食べることが、こんなに大変なことだったなんてな』ここに繋がるんだ!w
このセリフ思い入れあります。みんなであーだこーだ考えませんでしたっけ。

しかし又斗内改めていいネーミング
よく付けましたよ
返信する
りんごさん (Yukkanen)
2017-12-29 22:06:25
毎回コメントありがとうございます
全てのコマがまるでそういう話だったかのようにピッタリですよねww
いや〜すごい芸当です!!

あの台詞、みんなで考えましたよねー!!
あのあたりからシックリクル委員会が発足したような気がします。
うう‥懐かしい〜〜

マタトナイ、本当絶妙な名前ですよね!!
斗内を生み出した日本語訳の方、この作品の日本語版における最大の功績だと思います
返信する

post a comment